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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
前人未踏の人外魔境 ルプスグロウ編

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第二百五十四話 「銀牙と閃光と拳」

「はあ……全く。本当に無茶な戦いをする」


白銀の毛並みを揺らしながら、ヴェルセインさんが低く吐き捨てた。

左足の一部は焼け焦げ、さっきまでの余裕だけでは済まないものが、

その声の奥に滲んでいる。


「よく分からない術で、私の月白の残光まで見破るとは」


「あなたの方こそ無茶ですよ」


僕は荒い息を押さえながら言い返した。


「結局、最後までちゃんと見破れたわけじゃないです。だからこうして、ほら」


視線を落とす。

脚はもう傷だらけだった。

浅くはない切り傷がいくつも走っていて、動くたびに熱が跳ねる。


「僕だってこんなです。お相子ですね」


「お相子、か」


ヴェルセインさんが鼻を鳴らす。


「まあいい。破ったんだ。約束だ。さっきのことを話そう」


その声は落ち着いていた。

けれど、落ち着いているように見せているだけだとすぐに分かった。

今にも噴き出しそうな怒りを、爪の先まで押し込めているみたいだった。


「貴様ら人間は、私たち魔物のことなどゴミのようにしか思っていない」


低く、重い声が広場に落ちる。


「だから同胞たちは無残に殺された。

 貴様を迎えるために待っていた魔狼たちは……」


そこまで言ったところで、ヴェルセインさんの声がわずかに揺れた。


イスカリオのことだ。


あの光景が頭に浮かぶ。

血の匂い。

壊された身体。

迎えようとしてくれていた魔狼たちの末路。


あれは……ひどすぎた。


「そんな顔をするんだな、貴様」


「僕も許せませんよ」


僕は剣を握り直した。


「僕だって、あの無残な光景は許せない」


ヴェルセインさんの目が細くなる。


「だが許さん。いや、許せん。この憎悪をどこへぶつければいい?」


その言葉に、胸の奥がぎしりと鳴った。


そうか。


そうだよな。


大事な仲間が、あんなふうに殺されていたんだ。

しかも、そのきっかけの一つは僕にある。


ヴェルセインさんの怒りは正しい。

少なくとも、簡単に否定していいものじゃない。


「これは完全に私の腹いせだ」


白銀の爪がわずかに開く。


「受け止めてくれるか?」


「受け止めてくれるかっていうか……もう何かする気ですよね?」


「ああ。察しがいいのは好きだ」


その瞬間だった。


「これで終わりだ」


シュッ、と空気が裂ける。


「なっ……!」


爪の振りと前足の動きに合わせて、白銀の斬撃が飛んでくる。

しかも一つじゃない。

数がおかしい。

速さもおかしい。

さっきまでの残像と噛み合って、どれが本命か考える前に次が来る。


速い。

音よりも速く感じる。


でも、止まれない。


まだ残っていた火と風の術式を、そのまま剣へ流し込む。


炎刃ブレイズ・エッジ!」


剣に帯びた炎が膨らむ。


そして頭に浮かべるのは、霊術のお兄さんが見せたあの斬撃だ。

ただ纏うんじゃない。

斬る。

飛ばす。


炎そのものを刃にする。


振り抜く。


ギャリン。ギャリン。ギャリン。


白銀の斬撃と炎の刃がぶつかり合う。

燃え盛る音と、鋭い金属音が混ざって、広い広場を何度も叩いた。


「うおおおっ!」


押される。

でも押し返す。

腕が痺れても止めない。

ひたすらに右腕を振りまくる。


「人間、お前もどうせ私たちの命などゴミのようにしか思っていないのだろう!」


「そんなことない!」


斬り払う。

撃ち落とす。

それでも間に合わない数が来る。


「ゼフィルさんやエルナさん、そしてハヤトくんやユイナちゃんは……!」


喉の奥が熱くなる。

ただ大切だけじゃ足りないんだ。


月日は短かった。

それでもあの時の思い出は色あせているわけじゃない。

そして命名契約をしているからなのかこの感覚は、


「僕にとって大切な……いや、大好きな家族だ!」


その瞬間、ヴェルセインさんの表情がわずかに揺れた。


ほんの一瞬だった。

でも確かに見えた。


「そうか」


白銀の瞳が細くなる。


「だが、魔物の命など……」


「なんで命に優劣があるみたいに言うんですか!」


自分でも驚くくらい、強い声が出ていた。


ヴェルセインさんの目が鋭くなる。


「だがな。お前のようなやつは少ない。

 お前よりも力があるやつの大半は、私たちの命になど価値を持っていない」


命に価値。


何を言ってるんだ。

そんな、ものを測るみたいに。

選ぶみたいに。

命に上下があるみたいに。


「間違ってるみたいな言い方だ!」


思わず口からこぼれていた。


「馬鹿なことを言う」


「だったら証明してみろ」


白銀の輝きがヴェルセインさんの前足へ集まっていく。


「己が強者だと」


その時だった。


視界の端で、自分の腕に黒いものがちらついた。


なんだ。

黒い紋章……。


いや、それよりも。


斬撃はまだ続いている。


「くっ……!」


何とか炎刃ブレイズ・エッジで持ちこたえている。


ギャリン。ギィン。


僕が一回の斬撃を出している隙に、二回の斬撃が来る。

手数で圧倒的に負けている。


このままじゃだめだ。


少しだけ。

ほんの少しだけでいい。

一秒でもあれば。


その時、視界の下に広場の土が映った。


これならいける。


土壁アース・ウォール!」


一枚。

二枚。

三枚。


連続して立ち上がる土壁が白銀の斬撃を受け止める。

衝撃でひびが走る。


分かってる、長くは持たない。


その一瞬に賭ける。


そして、この短剣しかない。


土壁が砕ける。

崩れた箇所へ飛び込む。


ドガァン! ドガン!


両足に風圧衝撃ガスト・ブロウを纏わせ、その大きな破片を連続で蹴り飛ばす。


岩みたいな土塊が何個も白銀へ向かって弾けた。

同時に砂埃が巻き上がる。


目隠し。


ヴェルセインさんくらいなら、視界じゃなく魔素で捉えてくる。

でもいい。


この一瞬のラグだけで十分だ。


空中で術式を組む。


水槍群アクア・ランサー!」


一本じゃ足りない。

十本でも足りない。

白銀の斬撃の数に対抗するために、無数の水槍を作る。


ただ数だけじゃ意味がない。

全部に風の補正を重ねる。

貫く速さも、威力も引き上げる。


放つ。


シュン。


シュシュシュッ!


水槍が一斉に走る。


ギャリン。バシャッ!


白銀と水がぶつかる。


もちろん、これでこの斬撃地獄を打開できるなんて思ってない。


三重の土壁アース・ウォールも、

風で威力を上げた水槍群アクア・ランサーの大群も。


全部はこれのためだ。


右手の短剣に水を纏わせる。


まんべんなく。

圧縮。

回転。

威力を上げる。


さっきまでの水槍よりも重く。

さっきまでの水槍よりも鋭く。


「届けえぇぇ!!」


やり投げみたいに身体を捻る。


ビリッ。


短剣が一直線に飛ぶ。


ヴェルセインさんの視線が揺れた。


避けるか、受けるか、その一瞬の判断を迫られている。


投げた反動で身体が少し後ろへ流れる。

白銀の斬撃痕に着地した。


ん? これなんで足が離れないんだ。

これじゃあ動けない。


「すーっ、ふぅー」


落ち着け。


旅の途中で、少しずつ確かめてきたエンフォルスの特性。


金属に対して高速移動できること。

そして、磁石みたいに斥力、引力を持つこと。


しかもどちらかの比重を重くできること。


本当は短剣から僕へ引力、足元には斥力をかけて跳ぶつもりだった。

でも正直、今の僕じゃそんな器用に操作できない。


だからこれは好都合だ。


今、比重を重くしていたのは僕じゃない。


短剣の方だ。

それもすべて引力に。


「意志電流の解放クラフトシュトローム


刃へまとわせたエンフォルスを、

右手と短剣をつないでいる紐みたいに意識して、

思いっきり引っ張る。


足元にくっついていた斬撃の痕は容易く剥がれた。


そして、


バリ。


一閃の光。

ひらめきそのもの。


閃断フォトンスラッシュ!」


銀穿牙アルバレオン


ヴェルセインさんも同時に放つ。


白銀の一点突破の刺突と、僕の一閃が正面からぶつかった。


ギュオオン。


轟音。


広場全体が震える。


押し合う。

拮抗する。

火花と白銀の輝きが視界を埋める。


「うおおおお!!」


やっぱり、ヴェルセインさん強すぎだろ。


でも。

ここからだ。


真正面から押し切るんじゃない。

ヴェルセインさんの一撃の力の向きへ、わざとほんの少しだけ力を抜く。


張り詰めていたせめぎ合いが、一瞬で消えた。


「なっ!?」


噛み合っていた剣が勢いよく、くるりと回る。

押し合いを失った銀穿牙アルバレオンがわずかに前へ泳いだ。


その一瞬で、ヴェルセインさんの顔が近づく。


残っていた全部の魔素を右手へ叩き込んだ。

それを魔力に変える。


全部だ全部。


負けたくない。


答えたい。


命に優劣なんてないって。

家族だって言ったその言葉が、ただの綺麗事じゃないって。


この人に。

ヴェルセインさんに。


「口だけじゃないんだって!」


「うおおおおっ!」


右拳を顔面へ叩き込む。


ドカッ。


白銀の毛並みに拳がめり込み、ヴェルセインさんの巨体が大きく吹き飛んだ。


バゴォォン!


土煙が上がる。


「はぁっ、はぁ」


荒い息が止まらない。

脚も腕も、もう限界に近い。


それでも立つんだ。


ヴェルセインさんがゆっくりと身を起こした。

その目は怒っているように見える。


それだけじゃない。

何か別の色が混ざっていた。


「なぜ斬らなかった?」


低い声が落ちる。


「今の一瞬、あのままなら普通に斬れたはずだ」


「……いや、そんなことないですよ」


口ではそう返した。

でも、自分でもなんとなく分かっていた。


本当は斬れたと思う。

それなのに斬らなかった。


剣で傷つけるのを、どこかで躊躇っていたのか?

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