表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
前人未踏の人外魔境 ルプスグロウ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/266

第二百四十九話 「だから知りたい、知らない僕を」

「全く知らぬ顔だな。アイザックよ、知りたいか? 自分のことが」


魔狼王様はそう言った。


「はい、知りたいです」


本当に知りたい。

僕のことなのに、僕のことを知れないなんて嫌だ。


「そうか。ならば、まずはその内の広さだ」


魔狼王様の低い声が静かに響く。


「そして密度」


密度。

また知らない言葉が増えた気がした。


「アイザック、お前は人間の世界で俗に言う勇者……または英雄か?」


「はい?」


なんでいきなりそんなことを聞くんだ。


「なんだ、違ったか」


「ええと、その、一応英雄です」


「一応?」


そう聞き返されて、慌てて腰のポーチを探った。

奥にしまってあった蒼星英雄勲章を急いで取り出す。


「これです」


差し出すと、魔狼王様は少しだけ首を傾げた。


「ふむ」


横から小さな声が聞こえる。


「おお……」

「きれい……」


ハヤトくんとユイナちゃんが、目を輝かせて勲章を見ていた。

そういえば、この二人にちゃんと見せるのは初めてだったかもしれない。


たしかに勲章というより、宝石に近い見た目だ。

視界の端では、エルナさんもじっと見ていた。

ゼフィルさんはちらりと一目見ただけだった。


その時になって、ようやく気づいた。

これは英雄の証だ。

でも、それをくれたのはファズラン王国の王族様。

つまり、人間の世界でしか通じない価値なんだ。


……失念していた。


「失礼しました。

 この勲章は、僕がナティアという街で功を立てた証としていただいたものです」


「ほう。頂いた……ということは、人間の王やそれに近い立場からか?」


「はい。その通りです」


「そうか」


魔狼王様はそこで一度区切った。


「して……そのナティアという街は、風狼の……いや、ゼフィルか。まだ慣れぬな」


「王よ、楽な呼び方で」


ゼフィルさんが苦笑気味にそう言う。


「ならんな。楽しそうに、

 いや、嬉しそうにその名をあやつらにも誇っていたではないか。特に炎狼に」


魔狼王様はそう言って周囲を囲む狼たちへ目を向けた。


炎狼。


あの、炎を抱いたような狼のことだろうか。

しかも、なぜかゼフィルさんとエルナさんが少し気まずそうに顔を背けている気がする。


「まあよい。蛇足したな」


魔狼王様はすぐに話を戻した。


「そのナティアとは、アイザックと初めて戦った、あの街のことか?」


その言葉で胸の奥が強く疼いた。


ナティア。


ゼフィルさん、エルナさんと初めて戦った街。

二人にとどめを刺そうとした、その瞬間。


ハヤトくんとユイナちゃんが前に飛び出してきた。


忘れたくても忘れられない。


さっきまで自然に四人へ顔を向けられていたのに、

今はそれが少しだけ怖い。


もふっ。


脚に柔らかな重みが伝わる。

ハヤトくんとユイナちゃんが、そっと身を寄せてきていた。


ナティアを出てからもずっと一緒に苦楽を共にしてきた二人。


一緒にいる時間は長かった。


だからこそ、二人の嬉しい時や悲しい時の顔くらい分かるつもりでいた。

でも今は、その顔が分からない。


だけど、それでいい気がした。

この温度が答えみたいだったから。


「はい。その街のことです」


ゼフィルさんが静かに答えた。


「ふむ。だが、おかしいな。

 話ではアイザックが二人を圧倒していたと聞いていたが」


魔狼王様はそう言った。


「王よ、その時は……」


ゼフィルさんが言いかける。


「ああ、分かっている。その子らのことや、いさかいがあったのも知っている。

 だが、ゼフィル、エルナ。お前たちも今のアイザックを見て違和を覚えぬか?」


その言葉に、ゼフィルさんとエルナさんが僕をじっと見た。


「たしかに……」

「そうですね……」


二人はそう答えた。


え?

僕、そんなにおかしいの?


「あの、すみません。本当にどういうことなんですか?」


僕はたまらずそう聞いた。

聞かずにはいられなかった。


魔狼王様は、少しも迷わず答えた。


「結論を言おう。今のアイザックでは、ゼフィルたちには勝てぬ」


はっきりと。

容赦なく。


その言葉が胸に突き刺さる。


なんで。


ナティアにいた時の僕より、今の僕の方が強いはずだろ?

剣も魔術も霊術も、それにちょっとだけどエンフォルスも使える。

しかも加護も恩寵もある。


なのに、どうして?


信じきれない。

いや信じたくなかった。


「ゼフィルさん、エルナさん、そんなことないですよね?」


僕は二人へ縋るように聞いた。


「……申し訳ないが」


ゼフィルさんが低く言う。


「あの時の俺たちは、ハヤトやユイナのこともあって弱っていた」


「ええ。今の私たちなら話は違うわ」


エルナさんもそう続けた。


「そう……ですか」


僕はそう言って納得してしまった。


してしまったからこそ、余計に痛い。


それは多分、魔素の強さだ。

フィリスで測るのとはまた違う。

でも何となく分かってしまう。


今の僕じゃ届かない。


「だが、それだとおかしいな」


魔狼王様が言う。


「なぜ前のアイザックの方が、今よりも強い」


その一言に、息が詰まる。


「まるで、えぐられたように力が奪われた感じだな」


黒いイザーク。

そう、黒い僕。


お父さんが言っていた。


魔素に愛されている。

だから、あの時の僕は、魔素と霊素以外をまともに扱えていなかったと。


でも今は違う。

それでも、前より使えるものは増えている。

エンフォルスだって前よりは触れられている。


なんなんだよ。


「内の広さについてもおかしい。おかしすぎる」


魔狼王様のその言葉に、僕ははっとする。


「すみません。さっきから仰っている、その内の広さとは何なんでしょうか?」


「そうだな。噛み砕いて言うと魔素の器だ。

 上限、容量、そういうものに近い」


魔狼王様は淡々と続けた。


「それが異常だ。それは先ほどの命名契約のことで分かっているな」


「はい」


そうだ。

普通は魔素の共有。

でも僕は、この四人の総量よりも自分の方が多い。

だから共有ではなく……でも支配にもなっていない。

普通の命名契約なら、そうはならない。


「そして、自分のことが分かっていないようだから言っておこう。

 アイザック、お前の魔素量は異常だ。

 正直、我を除けば、ここにいる誰よりも多いかもしれぬ」


その言葉に左右の狼たちの間で低いざわめきが走った。


でもゼフィルさんたちはほとんど微動だにしない。

まるで分かっていたみたいに。


もしそうなら、なんで。

なんで今の僕じゃ敵わないと、本能で分かってしまうんだろう。

しかも、それが魔素の強さの差だと感じてしまうんだ。


「アイザックの器は、英雄や勇者にも見える」


魔狼王様はゆっくりと言った。


「だが、実を言えば魔王にも見える。

 それも、ゼフィルたちを連れて行ったあの魔族の若造より、はるかに広い」


魔王。


英雄より、そっちの方が妙に胸に引っかかった。


まるで会ったことがあるみたいな口ぶりだ。


その言葉がやけに重く耳に残った。


それに魔族の若造って誰だ。

ん? ていうか、僕が魔王?


「もう我も、この世界を長く見てきた。そして相対してきた。

 人間の英雄。勇者と呼ばれながら、ただ力を振りかざしただけの外道ども。

 そして魔王……といっても、この大陸だけだがな」


この大陸?


そもそも魔狼王様って、一体何歳なんだろう……。


「なんだ?」


「いえ、なんでもありません」


僕は慌ててそう答えた。


「ふむ。お前は人間にも見えるが、魔族にも見える。

 要するに半端なのだ」


半端。


その言葉に、妙に納得してしまいそうになる自分がいた。

そんな自分に嫌悪感を抱いてしまう。


人間のはずだ。

見た目だってそうだ。

でも、それだけで言い切れない何かが、今の会話の中には確かにあった。


「そして先ほど見た黒き揺らぎ。それこそがお前自身を知る鍵になる」


「もう一度聞く、知りたいか」


その問いの本当の意味は正直、分からない。

でも。


「知りたいです」


僕はそう答えた。


「そう来なくてはな」


魔狼王様は短く言った。


「アイザック。お前、魔素で土もそこそこ扱えるな」


「え、あ、はい。魔術のことですよね?」


「そうだ」


もしかして、さっきの魔圧で分かったのか?

フィリスを通してなら、僕もその人の属性の適性くらいはなんとなく分かる。


だけど……そこそこって、

得手不得手まで見えているのか。


「ですが、それが何か関係あるのでしょうか」


「なに」


魔狼王様の目が細くなる。


「我が直に確かめる。その代わり、広場を戻すのがお前の役目だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ