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あたしと回覧板2

「まったく君は! 羽根(うね)にそんなことをするだなんて! ……羨ま、いや。……うら……ぐっう……!! 羽根の奴め!」

「座敷童さん、座敷童さん」

「ん? だめだぞ。きちんと反省するまで君はそこで正座しているんだ!」


 お風呂上がりで血行の良い頬をさらに赤くしながら、座敷童さんは怒っていた。なんかよくわかんないけど、正座な辺り、激おこらしい。

 猛攻と言わんばかりの質問であたしが羽根さんにしたことを知った座敷童さんは、部屋に戻ろうとしたあたしを居間まで引きず……るわけもなく袖を引き正座させた。強引なんだか控えめなんだかよくわからん。

 正座はなんら問題ないんだけど、なぜ座敷童さんがここまで怒っているのかまるでわからない。あたしは座敷童さんの評価を下げないように行動しただけなのに。甚だ遺憾であるとはこのことだ。たぶん、使い方間違ってない。


「何を、怒っているんですか?」

「君はっ!」

「座敷童さんの……その、処遇が悪くならないように対応したの、迷惑でしたか?」

「……俺の、処遇?」

「はい、手ぶらで帰すなんてことになれば座敷童さんの沽券にかかわると思いまして……」

「君……俺のために?」


 それ以外何があるのかと内心首を傾けながら頷けば、先ほどよりも顔を赤くした座敷童さんが、その白い両手で顔を覆い。俯いて、あーとかうーとか唸っていた。乙女ポーズがあたしより似合うとかなんぞ? 

 何がそんなにいけなかったのか、あたしにはよく分からなくて。座敷童さんをうかがい見ながら、身じろぎしていると。ようやく顔から手を離して深呼吸を二回した座敷童さん。

 俯いたかと思うとすぐに顔をあげ、先ほど怒っていたことなんてまるで無かったことのように破顔した。よかった、お説教タイムは終了かな? 


「そ、そういうことなら、まぁ。でも、次はだめだぞ!」

「はい、ちゃんとお土産は切らさないように用意しておきます。ところで」

「そう言うことじゃないんだが……どうかしたのか?」

「座敷童さんは飴呑(あめのみ)さんというんですか?」


 思いっきり話題をすり替えれば、座敷童さんはあぁ……と照れたように頷いた。白い髪が白い着物の上を滑った。

 まぁ、それは置いておき。元々白いのにお風呂に入ってさらに白くなった感が否めない。どこまで白くなるのか試してみたい。エステとか行ったら輝いて帰ってくるかも。


「俺の名前は飴呑、稀少価値五の座敷童だぜ!」

「稀少価値?」

「君たち人間…もとい国、政府だな。そいつらが俺たちに定めた価値のことだ」


 つまり分霊体と呼ばれるドッペルゲンガーが何人いるかで決まるらしい。っていうか「俺は最高評価の五だ」と胸を張っている座敷童さんが、あと二人もいるのか。

 本当にドッペルゲンガーだな、あたしは何回も赤べこのごとく首を縦に振った。

 最低ランクの稀少価値一だと二十五人は同じ座敷童がいるらしい。もちろん憑いている家は別だそうだが。そりゃそうだわ。

 しかし何というリアルホラーでは? こわい。名前を呼べば、あちらこちらから同じ顔が覗くとか。ホラー以外の何者でもない。怖くて怖くて震える。武者震いではなく。でも。


「座敷童さんは珍しいんですね」

「あぁ、そうらしいな。俺も他の分霊体には会ったことがないし」


 そこではっとしたかのように座敷童さんがあたしを見た。どこかうかがう様な眼差しで、その瞳は不安にだろうか、揺れていた。

 んんん? 今の会話のどこに不安を感じる要素があったの? あたしわかんないよ。あ、会ったこともない他の「飴呑」さんのこと聞かれても分からないよってこと? それはそう。


「……会ってみたいか?」

「はい?」

「違う、俺じゃない飴呑に」

「まぁ、気にはなりますね。でも」

「でも?」


 不安に潤む眼差しと下がった眉に苦笑して、あたしは少し躊躇ってから、座敷童さんの手を包み込んだ。手の大きさの関係で全部は包めなかったが、仕方ない。

 男らしく筋張った手に自分で掴んでおきながら離したくなったがそれを耐えて、あたしは口を開いた。


「『飴呑さん』が何人いようとも、あたしの『座敷童さん』はあなただけですから」

「はうっ!」

「How?」


 どうやって? ……何が? いきなり英単語を繰り出してきた座敷童さんがわからない。何がどうやってなのだろう。っていうか、大体の英語に対してあまり……えーと、不慣れなのになんでいきなり英語が出た?

 クエスチョンマークを頭の上に浮かべまくるあたし。だって意味が分からないし。どういう意味ですかと質問を乗せて座敷童さんを見つめるものの、全然気づかれない。むしろなぜか悶えていて気付く気配すら感じえない。なぜに。

 どうしたんだろうか、座敷童さん。


「き、君は……!」

「はい?」

「……いや、何でもない。もう部屋に戻っていい」


 悶えつつも呆れたようにため息をつくという無意味なよくわからん技術を披露しながら、座敷童さんはぐったりとちゃぶ台に身を預けた。どうしたんだろう、本当に。

 横目に見つつも、夜も遅いのであたしは部屋に帰ることにした。


「それじゃあ。おやすみなさい、座敷童さん」

「あぁ。……いい夢を」

「はい、良い夢を」


 静かに閉じた襖を最後に、あたしは自分の部屋へと戻るため冷たい廊下を急ぎ足で歩いた。

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