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あたしとお給料日

「君、今日は給料日だぜ!」

「え? 座敷童さん働いてたんですか?」


 この後めちゃくちゃ拗ねられた。


 ではなく。いや、拗ねてたけど。本当にそう思ったんだけれど。

 え? 本当に座敷童さんどう働いてるの? 街でこんな美人見かけないよ? 混乱のあまりに百面相していたら、見かねた座敷童さんが教えてくれた。

 何でも稀少価値のランクによって決まった額のお金が国から座敷童さん名義の預金口座に振り込まれるらしい。以前は家主に振り込まれていたらしいんだけど、それをいいことに座敷童を「金蔓」として冷遇していた事件があったのだとか。許せないね。


 あぁ、だから以前「服くらい俺がおごってやるぜ」なんて言っていたのか。ただの見栄だと思ってた。


 ちなみに、座敷童さんは金利や手数料の事を考えて郵便局に振り込まれるようにしていると言っていた。……座敷童なのに割と俗っぽいこと気にするんだ、ちょっとしょっぱい気持ちになったなんて口が裂けても言えない。


「俺たち座敷童はいるだけで福を呼び込むんだ。つまり、存在することが働いているということなんだ!」

「そうですね、すみません」

「本当にわかっているのか?」

「えぇ、美しいあなたがしたくない労働を課せられたり、無理をしていないか心配になってしまって。つい言ってしまっただけなんです」

「そ、そそそそうか。うん、なら仕方ないかな!?」

「はい。もしそうだとしたら鉄のバットを両手に国会議事堂に乗り込みを」

「しないでくれると嬉しいが!?」


 あたしをじっとりと睨んでいた眼差しはどこへやら。座敷童さんは赤くらめるとそっぽを向こうとする前にあたしの言葉に慌てて向き直った。

 実際汗水たらして働いている座敷童さんなんて皆目見当もつかない。のんびりと縁側でお茶をすすっているイメージならあるんだけど。ちなみにバット両手に乗り込みは割とマジ。気分的には「うちの座敷童さんに何しとんじゃ!」って感じ。

 それにしても座敷童さんっているだけで福を呼び込むのか、そこら辺は普通の座敷童子伝説と同じなんだなぁ。

 ……福を呼ぶと言えば、この間のスーパーの安売りで最後のお肉をゲットできたのも月一でパンクしてた自転車がパンクしなくなったのも、もしかして座敷童さん効果なのだろうか。パンクしすぎだろって話なんだけど。なにそれありがたい。

 思わず、なんか落ち着かなくあたしに目線を投げた座敷童さんを拝めば、大げさなくらい肩を跳ねさせて怯えられた。


「な、なんだい!?」

「いつもありがとうございます、座敷童さん」

「え……い、いや。その。こちらこそ」


 頬のほんのり染まめてはにかんだ座敷童さんの笑顔があまりにもまぶしくて。


「じゃあ、そろそろお出かけましょうか」


 そうやって、あたしは。もうずっと、家族以外にそんな風に笑えない、笑えていない自分をごまかしたのだった。






「君、お待たせ!」

「いいえ、全然待ってませんよ」


 郵便局の自動ドアから出てきた座敷童さんが嬉しそうにあたしに向かって駆けてくる。

 一応家主と言っても、ひとがお金をおろすところを見る趣味などないあたしは、外にある公園の噴水の縁に座りぼんやり空を眺め待たせてもらった。あたしが行っても何もすることがないし。

 にしても今日は若干冷え込む。待っている間、少し寒かったのは秘密だ。風邪とか心配されかねない。そもそもそんなに引いたことないんだけど。

 というか、誰も座敷童さんのことを気にしないんだな。白髪桃目、しかも白い着物と全身漂白されたんですか? ってくらい真っ白で、注目されるには十分だと思うんだが。失礼だけど一発でコスプレとか疑われそうなのに。不思議だ。似合いすぎるからスルーとか? そんな事ある?

 無意識のうちに着ていたカーディガンに手を埋めさすっていると、座敷童さんの白い手が目に入る。


「座敷童さん」

「ん? もしかして寒いのかい? どこか店にでも」

「手、貸してください」

「? あぁ、ほら」


 差し出された両手を優しくつかむ。綺麗だけれど骨の感触のわかる男の手に身を引きたくなるが、我慢して。やっぱり指の先まで冷たいそれを、あたしの口元に当てる。

 口から温かい息を吹きかけて両手でもみ込んだ。これで少しは温かくなればいいんだけれど。

 きゅ、きゅっと数度もみ込んだとき、座敷童さんが声を上げた。


「き、君!」

「なんですか? 温かくなかったですか?」

「あ……いや、なんでもない。ありがとう、俺の君。もう大丈夫だぜ」

「そうですか?」

「ああ。それにしても、君も寒いだろう?」

「いえ、あたしは」

「え?」

「あなたの笑顔が見られれば、それだけで温かくなれますから」


 まぶしさは温かさに変わる、思わず笑いながら。「だから笑ってくださいね」と言えば、一瞬にして炎よりも顔を赤くした座敷童さんが、顔を押さえて頭が痛そうに唸った。どうしたというのか。そんな変なことは言っていないつもりだ。ひとの笑顔というものはこちらの胸まで嬉しく温かくさせるものじゃないの? 普通に考えて。それとももしやあたしだけ?

 わからなくなって考えていると、意を決したように顔から手を離し、「満面」の言葉が似合うくらいその美しい顔を崩して笑みかけてくれた。


「こんな感じかい?」

「はい、素敵な笑顔です」


 つられて口端を上げれば、座敷童さんも顔を紅潮させてしばらく2人でにこにこと微笑みあっていた。どこでやめればいいのかわからなくて。なんだこの空間。

 ちょっとはたから見たら不審極まりないので早々に切り上げ。


「君、懐も温かくなったことだしぱんけーきの店に行こうぜ! 一度行ってみたかったんだ」

「パンケーキ、ですか? ……あぁ、駅前の」

「てれびでやっていてな! ほら、女子(おなご)は甘いものが好きだからな!」


 君もそうだろう? と弾んだ声で笑う座敷童さんの後ろを歩きながら、噴水のある公園を駅の方に向かって出る。たしかに甘いものは好きだが、今回に関しては座敷童さんが食べたいんでしょうに。テレビの画面を食い入るように、甘そうな桃色を輝かせて見ているのを想像して。仕方ないなと苦笑を抑えて頷いたあたし。

 そのまま歩を進めながら、スキップしそうなくらいご機嫌な座敷童さんについ。


「どんなに甘いお菓子も、あなたという存在にはかないませんけどね」


 滑り出た言葉に固まってしまった座敷童さんが再び起動するのに、十五分ほどかかった。

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