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あたしとお給料日2

 こほん、目を閉じた座敷童さんが小さく咳払いをする。あらためるように閉じていた目を開いて、まっすぐにあたしを見つめてくる。その桃色の中に不思議そうに首を傾げたあたしが映った。なんでフリーズしたの?


「さ、さて。気を取り直して、行こうじゃないか俺の君」

「そうですね、飴呑(あめのみ)さん」

「ふぐっ!?」

「ふぐ?」


 え? Howの次は河豚か。どうしたの本当に。あたし、座敷童さんのこの発作みたいなの本当に心配なんだけど。

 胸を押さえてうずくまってしまった座敷童さんに慌てて背中をさすれば、びくんと砂浜に打ち上げられた魚のごとく大きく揺れた後、静かになる。い、生きてる? 生きてるよね? 怯えるしかないよこんなの。

 大丈夫かこれ。パンケーキが食べたいとか言ってる場合じゃなくない?


「座敷童さん、体調悪いんですか? 今日はやめておきます?」

「い、いや、大丈夫だ。うん、問題ないとも。……と、ところでなんで名前呼びになったのか聞いてもいいかい? けして、けして嫌な訳じゃないが!」

「だって、街中で『座敷童さん』なんて呼べませんし」

「うっ。それは……そうだな、じゃあ。飴呑って呼んでくれ」

「はい、飴呑さん」


 街中で人に向かって「座敷童さん」と呼びかけるなんて痛い子になってしまう。そんな事案は却下だ。目立ちたくないし、絶対に嫌。ゆっくり立ち上がり足を駅の方へと進めながらもなんか悶えている座敷童さん。器用だな。

 でもそんな座敷童さんを街行く人々はスルーしている。なんで? 少なくともあたしは目の前でこんなに派手な格好している人があーうー呟いていたら二度見どころか三度見くらいする自信がある。むしろ進んで通報する。不審者として。

 この街の皆さんスルースキルが高すぎるのかしら、すごいな。もしかして座敷童さんが出歩き過ぎて皆さん慣れてるとか?


「飴呑さんは、どうして注目されないんですか?」

「ん?」

「あたしだったらこんなに綺麗な人、二度見くらいしちゃいますけど」

「きれ……君なぁ。……まぁいい」


 俺たち座敷童は自分の意思で存在を薄くしたり消したりできるのさ。ちなみに今は薄めてるんだぜ? 座敷童さんは苦笑気味に教えてくれた。

 ……それってつまり、今あたしは何もない空間に向かって喋りかけていたり背中をさすったりしていたということだろうか。何も知らない他の人から見たら。

 何その痛い子。あたしのほうが通報される案件じゃんか、やめてほしい。というかそういうことは先に言ってほしかった。だからと言って座敷童さんを心配しないわけじゃないんけど。話しかけも背中を撫でもするけど!

 思わず引きつったあたしに何か察したのか、あわてて座敷童さんの弁明が入る。


「って言っても薄めてるだけだから! そこに誰かしらがいるっていう認識はされてるからな!?」

「そ、そうですか。よかった」


 安堵に小さく息を漏らせば、座敷童さんもなぜか額を拭う仕草をした。暑かったのかな? 今日冷え込んでいるのに。座敷童さんってば代謝がいいのかしら。そんなことを思っているとき、ふいに前から車が来るのに気付いた。


「あら車が」

「!?」


 危なかったので思わず腰に手をまわし抱き寄せる。座敷童さんのいたぎりぎりを通り去っていくのをその場で見送った。息を呑んだ座敷童さんはとりあえず無視。あたしはむしろ腰の細さに驚いた。着物の厚さを加味したってなんでこんなに細いの? 同じもの食べてるよね? おっと、一瞬思考がずれかけた。

 命の危機だ。嫌だろうがなんだろうが我慢してもらわねば。怖くてたまらないと言うのなら話は別だけど。

 というか、本当に危なかったな。存在を薄くしているときに車道側になんて立つものじゃない。ましてや話し込むなんてもってのほか。危険極まりない。今回の件でよくわかった。


「飴呑さん」

「は、はい」

「今後お出かけの時は私が車道側に立ちますね」

「え……でも、危険で」

「あなたが危ない目に合うくらいならいっそ、閉じ込めてしまいそうです」

「!」


 なんか急に敬語で返事した座敷童さんを言い含めれば。いつの間にか、胸を押さえた座敷童さんが蹲って震えている。耳まで赤くなって、暑いのかな?

 ……もしかして怒ってるとか? 男性としてのプライドが傷ついたとか? え、でも座敷童さんが危険だったし。ならいっそ家にいた方が危なくないじゃん、むしろ座敷童って本来家にいるものでしょ。という考えのもとでの発言だったんだけど。この思想間違ってる!? あたししか回答者のいない質問が頭を巡る。


 何も言わない座敷童さんの背中に静かに手を添えれば、うつむいていた顔が上がる。

 白い頬は鮮やかに色づき、いっそ美味しそうなくらいだった。目は溢れそうなほどに潤み、どこかのCMの小型犬を彷彿させる。


「飴呑さん?」

「……ぱんけーきはやめよう。団子を買って帰ろうぜ」

「え? でも食べたいって」

「いいんだ。俺は今、この余韻に浸っていたい」

「余韻?」


 君は気にしなくていいと言う座敷童さんに流され、結局あたしたちは家の近所のお団子屋さんでみたらし団子を買って帰った。

 歩道側を歩く座敷童さんは、なぜかご機嫌な様子だった。


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