【Scene04:風音の斬撃/静と疾の肉弾戦】
【Scene04:風音の斬撃/静と疾の肉弾戦】
耳鳴りがするほど、静かだった。
廃ビルの屋上。
夜風が鉄骨の隙間を抜け、どこか遠くで小さく金属音が鳴った。
人の気配は、ない。いや──“ここだけ、時間が止まっている”ようだった。
対峙する二人。
一人は黒装束。風に溶け込むような佇まい、影のような存在。
もう一人は白いコートの格闘家。足元の砂をわずかに沈ませる重い重心。
動かない。呼吸さえ、敵に読まれる。
空気が張り詰めている。
一歩、踏み出した方が──死ぬ。
白コートの唇が、わずかに動いた。
「……来いよ」
その瞬間だった。
音が、切れた。
空気の密度が変わった。風が──斬れた。
シュッ。
それは“風音”だった。
風が鳴ったのではない。“斬撃”が、風を鳴かせたのだ。
頬を、裂いた。見えない一閃。反応すらできなかった。
肉が薄く裂け、温い血が流れる。すぐ隣に、死がいた。
白コートは目を細めた。
──音がない。
足音も、呼吸も、気配もない。
ただ、風の「途切れ方」で、そこにいると知るしかない。
「やるな……」
言葉と同時に、砂が爆ぜた。
拳が風を裂く。だがそれは空を切った。
いや、切らされた。
背後。
黒影の気配が一瞬だけ浮かび、肘が飛ぶ。
ガンッ
骨がぶつかる鈍音。
受けた前腕が痺れる。鋼のような衝撃。
「……見えたのか?」
「空気の、ゆらぎだ」
二人はわずかに息を呑む。
その呼吸一つにも、命が賭かっている。
風が一度、止まる。
──そして、爆ぜた。
五連撃。すべてが“音より速く”、斬り込んでくる。
一撃ごとに風圧が肌を削ぎ、視線では追えない。
白コートは本能で捉え、肩で、肘で、膝で受ける。
だが、一発ずつ、確実に距離を奪われる。
一歩、一歩、足場を崩されていく。
「遅いんじゃない。お前が、速さを“理解できていない”だけだ」
その言葉と同時に、白コートが踏み込む。
風を裂いた。
拳が、一直線に黒影の懐を狙う。
──黒影が、初めて後退した。
「……見えた?」
「いや。……風の“鳴き方”が、変わっただけだ」
静寂。数秒。
次の瞬間──
風が吹き抜け、どちらかの体が倒れた。




