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第十一章 〜変質〜 1

 街を出ると、そこには広大な雪原が広がっていた。白銀の大地はどこまでも続き、冷たい風が吹き抜ける。陽は傾き始め、雪に反射した光が柔らかく周囲を包み込んでいた。


 「寒さが増してきたな」


 バルドが肩をすくめながら、酒瓶を軽く振った。


 「少し飲んどくか?」


 「歩きながら飲むものじゃないでしょ」


 リヴィアが呆れたように言うと、バルドは笑いながら瓶を仕舞った。


 「まぁ、動いてりゃ温まるだろ」


 ミレイは、雪を踏みしめながら前を見据える。


 「砦まではどれくらいかかる?」


 「徒歩なら二日はかかるわね。雪の状態によってはもっと時間がかかるかも」


 リヴィアが答える。確かに、雪道を進むのは思ったよりも体力を奪う。足元が沈み込み、一歩一歩に余計な力を使う必要がある。


 「この寒さと道の悪さで、魔物が出てこないといいけど」


 ミレイが呟くと、バルドがニヤリと笑う。


 「そりゃあ願ったところでどうにもならねぇ。むしろ、出てきたら動いて温まれるぜ?」


 「それで怪我したら意味がないでしょ」


 リヴィアが鋭く言い返すが、バルドは気にする様子もない。


 三人は寒さに耐えながら、砦へと続く雪道を歩き続けた。


 しばらく無言のまま歩いていたが、バルドがぽつりと口を開いた。


 「こんな雪道を延々歩くんじゃ、退屈で仕方ねぇな。何か面白い話でもしねぇか?」


 「面白い話って……何の?」


 ミレイがそっけなく答えると、バルドは考え込むように顎をさすった。


 「例えば、今までの旅で一番マシな飯は何だったとか?」


 「……食事の話?」


 リヴィアが呆れたように言うと、バルドは笑った。


 「当たり前だろ? こういう旅で食いもんの話は大事だぜ? 特にお前ら、最低限のもんしか食ってなさそうだしな」


 「それほどでもないわよ」


 リヴィアはため息をつきながらも、思い出すように言葉を続けた。


 「前に立ち寄った町で買った焼き林檎は美味しかったわ」


 「ほう、それは意外だな」


 バルドが驚いたように目を細める。


 「何が?」


 「いや、お前さんはもっと硬くて保存が利くようなもんしか食ってねぇと思ってたが、甘いもんも好きなんだな」


 「栄養を考えれば、そういうものも必要よ」


 リヴィアが淡々と言うと、バルドは面白そうに笑う。


 「お前さんがそういうなら正論なんだろうよ」


 ミレイはバルドとリヴィアのやり取りを聞きながら、少し考え込むように雪道を踏みしめた。


 「……私は、あまり食事のことを気にしたことがないな」


 「だろうと思ったぜ」


 バルドが笑いながら、酒瓶を軽く振った。


 「で、どうなんだ?」


 「ん?」


 「この旅で、特に美味かったもんは?」


 ミレイは少し考え込むと、ぽつりと答えた。


 「前に、焚き火で焼いた肉が美味しかった気がする」


 「へぇ、塩もなしでか?」


 「うん。ただ空腹だっただけかもしれないけど」


 バルドは満足げに頷きながら、酒を一口飲んだ。


 「そういうのも悪くねぇな」


 寒さの中、雪道を歩きながらの何気ない会話が、少しだけ三人の距離を縮めていた。


 しかし、その平穏は長くは続かなかった。


 「……待って」


 ミレイが足を止め、雪を踏む音すら消えるほどの静寂が広がる。


 「どうした?」


 バルドが軽く眉を上げる。ミレイは周囲を見渡しながら、耳を澄ませた。


 「何かがいる……」


 ミレイが静かに槍を構え、リヴィアも剣に手をかける。


 吹きすさぶ雪の向こう、微かに揺らめく影が現れた。そのシルエットは異様に長く、関節の角度が不自然だった。


 ──ギギ……ギチチ……


 氷を擦るような、不快な音が響く。


 「……妙な気配ね」


 リヴィアが低く呟いた。


 雪の中から、異形の生き物が現れた。それは細長い体躯を持ち、脚は異様に長く、骨がむき出しになったかのような関節をしている。その身体は氷のように透き通っており、皮膚の代わりに雪と霜がこびりついていた。


 「……雪鬼か?」


 「知ってるの?」


 ミレイが視線を向ける。


 「ああ、吹雪の夜に現れて旅人を喰らうってな。まあ、実物を拝むのは初めてだが……」


 雪鬼は細長い腕をゆっくりと振り上げる。指先は氷の刃のように鋭く、空気を切り裂くような音がする。


 「……来るわよ!」


 リヴィアが声を上げた瞬間、雪鬼が異常な速さで飛びかかってきた。


 ミレイは瞬時に槍を突き出し、リヴィアも剣を振るう。

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