06:観光案内
俺が貰ったクーポンのことを覚えているだろうか。
俺は少し忘れていたのだが、夕食を食べる店に向かっている途中にふと思い出し、スマホを確認してみたところ少々面倒なことになった。
まず1つ。
『現地民交流特別クーポン』とやらのせいで、ライネとレイネが俺に惚れたんだと思いこんでいたのだが、そうではないらしい。
ぶっちゃけこのクーポンの説明文を読み飛ばしていたのか、更新されたのか分からないが、改めて説明文を読むと『話が通じない相手とも話せます。提示すると仲の良さが少しだけ上がります。後は自分次第!』とよくわからない説明文が書かれていた。
(じゃあ、あの2人の好感度は本当に本能的な? 俺の臭い的なのが理由?)
その辺に関してはますます真相が闇に沈んでいった気がするので、もう触れないでおこうと思う。
ここでスマホをポケットにしまえばよかったのだが、クーポン一覧ページの一番上にある時間をぼそっと口にしてしまったのが原因だった。
「残り84時間か」
クーポンの表示にある『有効化――84:54:18:114』という数字を見てつぶやいたセリフをすぐに捉えたのはレイネだった。
「何が84時間なのー? なにかあるの~?」
そういえば言ってなかったなと、俺が滞在できるであろう残り時間を伝えたところ、がしっと腕を捕まれ路地裏へと引っ張り込まれたのだった。
◆◆◆◆◆
「えっと、どういうこと? あと84時間で帰っちゃうって、また来てくれるの?」
「や、やだ、帰らないで」
「ひ、必要なものがあれば何でも用意するから」
このクーポンの期限が切れたらこの世界から(たぶん)居なくなるであろうことを白状した結果、ライネとレイネに迫られた。
彼女たちの大きな瞳に涙があふれ始める。
だがこればかりは俺の力ではどうしようもないし、またこの街に来られる保証はどこにもない。
そのことを先に伝えるべきだったと謝罪をし、ともかく2人を落ち着かせるのだった。
あたりが薄暗くなる頃、少し落ち着いた2人に両端から連行されるように拘束された俺は何故か不動産屋の前に居た。
「来年ぐらいにはシェアルームを借りようかってレイネと話してたんだけどね。でもノユキに家を選んでほしい」
男が住処を用意し、女が食事を用意する。
それが彼女たちの一族の中では普通だそうだ。
つまり、俺が居なくなる前に、俺に2人が住む家を用意してほしい――そういうことらしい。
シェアルームを借りる予定が一軒家というのは飛躍しすぎじゃないかと思ったのだが、それに関してもお金は溜まっているから問題ないそうだ。
遅かれ早かれというやつらしい。
「俺が選ぶっていうけど、この街のことよく知らないぞ?」
「いいの。ノユキが私達のことを考えて選んでくれたなら、私たちにはそれが宝ものの家だし、それを一生大事にするから」
大事なことを伝え忘れていたにもかかわらず彼女たちの心に踏み込んでしまった後ろめたさもあり、そういうことならと了承した。
家をいくつか見学しながら観光もできる。彼女たちも満足ができる。
じゃぁ問題ないじゃないかと三人で話した結果、不動産屋の扉を叩いたのだった。
◆◆◆◆
「やっぱり1回目に見たところよかったね」
「だよね~。お姉ちゃんの希望していた浴室もあるし」
もう薄暗くなってくるからと2件だけ戸建ての家を見せてもらって、今日は2人がよく訪れるという居酒屋に入った。
俺を連れて三人で入ってきたライネとレイネに店主のおっちゃんがめちゃくちゃ驚いていたのが印象的だった。
「おまちー! ライネとレイネは狩り帰りなんだろ? 腹いっぱいくえよ!」
そう言って巨大なステーキを何枚も重ねたようなものや、フライドポテトのようなもの、それと罪悪感をなくすために置かれているのではないかと思うミニトマトのようなものが3個。
めちゃくちゃ体格のいい店主のおっちゃんが最後に俺に対して親指を立て「がんばれよ!」という感じで去っていった。
ちなみに頭から丸い耳が生えていたので、もしかしてクマの獣人なのだろうか。お昼に熊肉を食べたのでちょっぴり複雑な心境になる。
「じゃぁ乾杯しよっか」
「はーい!」
「かんぱーい!」
出された飲み物はサワーのようなお酒。
芋から作ったのかなと思う香りと、柑橘系の味。
「レモンサワーみたいでうまいなこれ」
「はぁ~、おいしー」
「今日は色々と疲れたから特においしーねー!」
丸いテーブルを三人で囲む。
ご家族で経営されているらしいこの店は、大通りから少し奥へ入ったところにあるのだが、店内はかなりのお客さんで混雑していた。
ざわざわと騒がしい店内の雰囲気が妙に心地良いお店だったのだが、入ったときは一瞬満席かなと思った。
だが一番奥にあるこの丸テーブルはライネとレイネの専用となっているらしく、いつ来ても確実に座れるようにしてもらっていると聞いた。
「明日は西のほう見に行く? レイネ、気になる家があるって言ってなかった?」
「うん~でもノユキが行きたいところ優先で、そのあたりに良いのがあれば見るってことでいいよ~」
「いいじゃん、レイネが気になるっていう家は俺も見てみたい。ライネが気になってる家はないの?」
「今日のところが1件とあとは南門近くかなぁ~市場からは少し遠いんだけどね」
2人ともなんとか機嫌は直ったようで、楽しそうに肉にかじりついているのを見て少し安心する。
しかし、椅子からはみ出てる2人の尻尾はダランと垂れており、やっぱり元気はなさそうだ。
俺は机の下でライネとレイネの足をちょんちょんと叩くと、何故か2人揃って太ももの間に手を挟まれた。
「……なんでよ」
「え、な、なんとなく?」
「ムラムラしちゃったのかな? って」
思い切り間違えているが、やはりライネは少しムッツリで、レイネがどストレートだった。
「ちげーよ。2人とも元気ないままだから、その――昼間までみたいに足に尻尾巻いてくれないかなって思って」
「――っ!?」
「~~ぅっ!!」
「お姉ちゃん! ノユキが愛おしすぎる! 死んじゃう!」
「だめよ! 私が先なんだから!」
感性的なやつにぶっ刺さったのか、俺の両手首が太ももと尻尾に固定されてしまう。
2人とも椅子をずらし、三人で壁の方を向いてしまう。
「お、おい」
「はい、あーん」
「えへへ、これも食べて食べて」
そして始まる半強制食餌タイム。
いやめちゃくちゃ美味しい肉だし、その辺は満足なんだが俺としては2人ともっと話したい。
だが肉の次に酒、酒の次に肉と次々と食べさせられていく。
「ほら――むぐっ……んぐ……れ、レイネも食べな」
「えっ!? い、いいのっ? あー……ん……」
「――っ!」
両手が使えない状態で、ライネが口に肉を放り込んだタイミングだった。
口の中に食べ物が残っているのに行儀悪く話してしまったのは俺が悪い。
まさか俺が食っているソレを、俺から直接食べに来るとは思わなかった。
あとは予想通りである。
レイネの行儀悪い行動に怒ったライネが「その代わり私も」と言い始め、店主のおっちゃんに怒られるまでぎゃーぎゃーと騒いでしまった。
周りの客からはなぜかほのぼのとした視線を感じながらも、俺は両手を2人から取り戻した。
あとは、ライネとレイネの冒険者の話を聞いたり、美味しいお店の話を聞いたりして、ゆっくり夜は更けていった。
☆★★★★
次回明日の20時投稿予定です!
21時にあちらでこの話の続きを更新します
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