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03:異世界観光スタートの予感

「おーい、ノユキ……帰ったよ?」

「ん……んぁっ? ごめん寝てた……っておぉぃっ! 血だらけ!?」


「ごめんね、返り血――その抱きかかえている荷物からタオル出してもらっていい? 水浴びしてきたい」


「あぁ、ごめん、タオルはー、えぇっと、これ?」

「ぁっ……それは胸のやつ……それも使うから、貸して……そうじゃなくてそっちのやつ、引っ張り出して」



 ライネにタオルを差し出すと、汚さないように指先でつかみぴょんと下へ飛び降りた。

 下を覗き込むとレイネも戻ってきており同じように背嚢からタオルを取り出しているようだった。



 

「レイネもお疲れー」

「あー、ただいまぁー、水浴びしてくるねぇ」


 そう行って二人とも何処かへと走っていった。

 水浴びということは川でもあるのだろうかと、地図を開くとどうやら池か湖のようなものがあるようだった。


 




 それから待つこと10分程度。

 すっかり汚れを落としたのか、髪や服がまだ濡れた状態で戻ってきた。


 俺はここに登ってきたときと同じように、ライネに抱っこして降ろしてもらった。



 

「ノユキ助かったよぉ、ほんとに居たんだよ!」

「ほぼ索敵無しで遭遇したみたいで、追いついたらこの娘、既に首に一撃いれていてさ。あっさりしたもんだったよ」

「直接見たわけじゃないけど、そんなすぐに倒すなんて、二人共すごいんだな」


「えへへへへ」

「わっ……私はほとんど何もしてないよ。解体したぐらいだよ」


 

 その後、二人で獲物を解体をしていると、近くを通りがかった知り合いのパーティーがいたそうだ。

 空振りだった彼らに報酬を分けるわかりに倒した魔獣の素材を半分以上を持ってもらい、二人は持てる分だけを持ってここへ戻ってきたとのことだった。





 

「全部持っていってもらったらよかったんじゃないの? それ重くない?」


 見れば、大きな葉に包まれたモノ――血が滲んでいるのであのクマの肉なのだろう。

 これをわざわざ、手持ちで戻ってきたとのことだが干し肉でも作るのだろうか?



 

「えー、だってノユキにご飯食べさせて上げたかったんだもん、朝ごはん、ただの干し肉だったし」


「お、おう……それはありがとう、嬉しいよ」

「えへ、じゃぁ早速火起こしするね」



 やはり、ライネとレイネから地味に好感度が高い気ような感じだ。

 理由は……もうクーポンのせいだとしか思えなくなってきた。


 

 レイネが火をおこし始めたのだが、ライネは俺の隣に座って濡れたままの尻尾の毛をぺろぺろと毛づくろいしている。

 もしかしたら2人揃って一目惚れの可能性もあるので、ライネにこそっと聞いてみた。


 


「なぁ、なんか二人の好感度高くない? 俺の自意識過剰? それともこのあたりの人ってそうなの?」


 自分でいつまでも考えていても分からないものはわからない。

 こっちの人たちの考えや風習の可能性もあるので、こういうことは聞いてしまうのが一番なのだ。



 

「えっと……んんんーなんだろう、なんかねぇ……『良いな』って感じ」

「えー、お姉ちゃん何のはなしー? ノユキのことなら私も好きだよー」



 

 俺は「なんで?」という視線をライネに向ける。

 会話した時間なんてせいぜい合計しても一時間程度。出会ってから半日も経っていない。


 こういっちゃ悪いがやっぱりあのクーポン以外、好かれる理由がわからない。



 

「なんかこう……キュってなったのよ。本能……かなぁ……発情期はまだ来るはずがないんだけど……これがそうなのかなぁ」

「わかるー。私もね、ノユキの匂いを嗅いでるとね、なんかお母さんみたいで安心するし守ってあげなきゃって思う。あとこの人の赤ちゃんだったら産みたいなって思った」


 

「ちょ、レ、レイネ、流石に男の人にそういうことは面と向かって言わないの」



 なるほど、ライオンはメスが狩りをして好きなオスに餌を運んでくるという。

 そう思いながら、ドンと置かれた肉の塊を見る。



 

 

 理由はわからないが二人とも何故か本能的に俺のことが気になって仕方がないらしい。

 『本能的に』というのがどれぐらいの感覚なのかよくわからないのだが、例えば個室で二人きりになると確実に発情してしまうぐらいにヤバいそうだ。


(レイネははっきりと子供生みたいとか言ってるけど、ライネも同じ感じなんだろうか……)


 思わず苦笑してしまいそうなほどの野性的な告白――というか心中の吐露。

 真相は闇の中かもしれないが、現実問題、俺のことを好きだと言ってくれる女の子が目の前にいてて、男としては嬉しいに決まっている。





「お姉ちゃんどうしたの? 恥ずかしいの?」


 

 くるっと俺に背を向けて毛づくろいを再開させたライネに、妹のレイネが抉るようなセリフでエグリに行く。


 

 レイネは言動がアレだが、別にアホの子というわけでもなさそうだ。

 わかっていて、あえてこういう言動をしている可能性もある。

 そう思うとレイネはどこまでがマジなのかが気になってくる。

 

(いま、薪を素手で2つに割ってたぞ……)


 だがそんなレイネは、これ以上姉に絡むのはヤバイとでも思ったのか、食欲が勝ったのかあっさりと焚き火の準備に戻った。


 



 

 お昼は熊肉で焼肉、あと二人が水浴びしたついでに取ってきた魚だそうだ。

 思っていた以上に豪華な内容で、焼いている途中から既に腹がなり始めていた。



◆◆◆◆◆



「おーうまそう」


 焼けた肉と魚はまず功労者の二人にと思ったのだが、最初は俺に食べてほしいと頼まれ、焼けた肉にかぶりつく。

 ジビエ料理のような獣臭さはあるものの、ハーブの香りがアクセントになっており、ジューシーな肉汁が口いっぱいに広がった。



 

「はー、なにこれめっちゃうまい……二人の料理が上手いからか? 魚も……ん、うめぇ」


「えへ、良かったぁ~いっぱいあるからお腹いっぱい食べてね」

「よし、どんどん焼いちゃおう! ノユキ、次どっち食べたい? 足が速いから先にお魚かなぁ」


 そう言いながら次々と肉と魚を焼いてくれる二人に世話されるように、俺は限界近くまで熊肉と焼き魚を味わったのだった。



☆★★★★

★★★★☆

 


「ついたよー! ノユキーここがベルグの街だよー」

「いや早いって……生身で時速60キロ超えは死ぬかと思った」


「あはは、慣れれば平気になるから」



 『観光周遊マップ』の地図はリアルタイムで自分の位置がプロットされておりとても便利なのだが、移動距離も出るわけだ。

 そして俺はライネに背負われたまま、猛スピードで走ってきたのだった。


 移動時間がざっと30分だったが、移動距離は30キロを超えていた。



 

 恐るべしライオン――。



 

 ご飯を食べて移動開始までの間、想像以上に色々仲良くなってしまった時にしれっと聞いたのだが、ライネとレイネは思った通りライオンだった事が判明した。

 こちらでは『獅子族』という種族らしいが、結局はライオンだなと思った。



 他、気になることといえば、言葉だろうか。

 

(色々と俺の知識に都合がいいんだけど、多分これ違う言葉を喋ってるんだよな)


 何らかの力が働いているのであろう、普通に日本語で会話をしているのがコンマ何秒程度、二人の口の動きとセリフがずれるのだ。

 あまり気にならないので突っ込むつもりはないのだが、日本語翻訳映画を見ている感覚に近いものがあった。



 

 

 

「それはそうとここは結構、人口は多いの?」

「そうだねー多分3万人……ぐらいかなぁ。このあたりだと大きいかもね」


 

 見上げるほどの大きさでもないが、大きな壁に囲まれた街のようで、入り口の門には兵士が何人か立っている。

 そこまで外敵の心配は無いのか、ところどころに見える門は開け放たれているようだった。


 壁の外にはかなりの広さで畑が広がっており麦や野菜が色々と作られているようで、遠くからは豚のような鳴き声も聞こえる。



 

「結構のどかなところだなぁ。二人はこの街出身?」

「うん、そうだよ。実家は近くのおっきな平地で移動しながら生活してるけど、私達と何人か同族はこの街に住んでいるよ」


 

 色々と街のことを説明を聞きながら街の入口へと歩く。

 だが歩きながらライネはしっぽを足に巻き付けてくるし、レイネは腕に頬ずりしてくる。

 

「えっと、ふたりともどうしたの?」

「んー……縄張りっていうか、匂い付け……かなぁ」

「どうやるのかお母さんに聞いておけばよかったね」

  

 なにやら『これは私のもの』アピールだそうだ。

 

 なるほどと苦笑しながら、俺はやっと到着したこの世界初めての街の入口を見上げる。

 

 二人はギルドに行って換金と報告をするので付いてきてほしいとのことで、それから街の観光案内をしてもらう約束をしたのだった。

次回明日の20時投稿予定です!


もし気に入っていただけた方は「ブクマ」や下の評価【★★★★★】などよろしくお願いします!

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