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最終話 犬から人へ……

「まぁ! ポチ! わざわざ来てくれたの?」


さすがに少し不安を感じていた彩妃も、健太の顔を見ていつもの笑顔に戻った。


「さぁ、お嬢様。帰りましょう」

「でも、まだ康人さんと紀香さんが……」

「彩妃!! 大丈夫か!!?」

「あらっ、康人さん! いつの間に」


完全に空気と化した男達が、我に返ってやっと悪党らしくなってきた。

車の中の男達は、彩妃を人質に取ったのだ。だが、いくら喚いてもまったく動じていない健太に少しビビり始めてもいた。


「て、てめええ! だいたい、どうしてこの車だって分かったんだよ!?」

「私は、お嬢様の匂いを嗅ぎ分ける事ができるんです」

「え、マ、マジで? うそ……だろ?」

「嘘です」

「てええええええめえええええええええ!!!!」


上ずった声で叫んだ男の後ろで、あろう事か、別の男が彩妃の腕を背中で捻り上げ、首に腕を廻した。

彩妃の「きゃあ、い、痛いです」という声を聞いた健太から、何かが切れる音がした。


――――ブチッ


健太は、そばに立っていたビデオカメラの男を指でチョイチョイと呼ぶ。


「あぁ? んだよ!?」


近づいた男に待っていたのは、顔面への健太の全力のパンチだった。「ぶへぇっ」と叫んで、男は遥か後方へ吹っ飛ばされた。

そして健太は静かに康人へ呼びかけるが、その声には、今まで感じられなかった程の、怒気と覇気が感じられた。


「……おい、害蟲」

「へ?」

「……貴様は今から、ゲス野郎に格上げだ……」

「え? いや、でもそれ、別に上がって」


健太の突然の言葉に、恐る恐るつっこもうとした康人は、下から見えた彼の顔を見て、即座に考えを改めた。


「今……コイツらを害蟲と、ハッキリ認識した……」

「あっはは、何でもなかったです。はい」

「害は……神速排除だっっ!!」


それからは健太の独壇場だった。


一番手前にいた男を、無理矢理に車の中から引きずり出す。

みぞうちへの一撃を決め、相手が怯んだ所にまたも顔面パンチ。

もう一人の男が車の中から出てきて、「てめえええ!!」と後ろから襲い掛かってきた。

そこへすかさず後ろ回し蹴りを喰らわせ、そのまま遠心力を使い上段回し蹴り。

あっという間に、三人の男を伸してしまった。


その気迫に満ちた後ろ姿は、最後の一人にトラウマを与えるには十分過ぎた。

そして康人にも。


結局、彩妃を捕まえていた男は、仲間がやられる姿を見て、泣きながら逃げ出した。

が、キレた健太に慈悲の心は無かった。

逃げる男を追いかけ、後ろから思い切り助走のついた跳び蹴りの食らわせた。

倒れる男を仰向けにし、止めの一撃を腹に打ち込んだ。


かくして、健太無双は終わりを告げた。



倒れた男達の間を抜け、怖くて顔を見れない康人の横を通り、車までいく。

一度、思い切り深呼吸をして車の中の彩妃へ言葉をかける。


「さ、お嬢様。帰りましょう」


そう言った健太の顔は、いつものポチに戻っていた。




彩妃を救出した健太と康人は、携帯で連絡をとり、紀香とセバスチャンと合流した。


紀香は、康人の腫れた顔と彩妃を見て事態を把握し、泣きながら謝った。

セバスチャンは「ポチ君、お疲れ様」と健太に言った。


「彩妃いいい!! ごめんねぇえごめんねえええ!! あたしの、あたしのせいでええ!!」

「そんな、わたくしは大丈夫ですよ」

「本当に!? どこも怪我してない?? 何もされなかった???」

「はい。ポチが来てくれましたからっ!」


泣いている紀香を慰めながら、彩妃は健太へ笑いかけた。

健太は、「当然の事をしたまでです」と言いつつも、少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「おいおい!! おれは!? おれも助けに行ったんだけど!? 殴られたし!!」

「おい、害蟲」

「ひっ! な、なんだ……ですか?」


急に自分の名前を健太に呼ばれて、康人は飛び上がりそうになりながら答える。


「貴様……さっきどさくさに紛れて、お嬢様の事を彩妃と呼び捨てにしたな」

「あ……バレてた?」


眉間にしわを寄せ、眉を八の字にした健太が、ゆっくりと近づく。

そして、二本の指を顔の横に掲げ、いたって冷静に言い放つ。


「排除する」

「ひいいいいいい!!! って、あれ? 待てよ、確かポチも……」

「排除する!!!!!!!」

「うわっ!! たすけてええええええ!!!!!」


そして一行は、それぞれの帰路につくのだった。



帰りの車の中、彩妃と健太の間には微妙な空気が流れていた。


お互いに一言もしゃべらず、それぞれに外の景色を見つめている。

特に何があったわけでも無いのに、お互いになにか気まずさを感じている様だ。

すると、彩妃の方が、先に沈黙を破った。


「ポチ。今日は、助けに来てくれてありがとう」

「いえ、主を助けるのは執事の役目ですから……」

「そう……。あっ、手、怪我してる」


彩妃が健太の手に触れようとした時、咄嗟に健太は手を引っ込めてしまった。

彩妃は少し寂しそうな顔をし「帰ったら手当てしてあげる」と言った。

そしてまた、二人の間には沈黙が流れる。そこには、先程よりももっと重たい空気があった。

だが、次に沈黙を破ったのは、健太の方からだった。


「彩妃……お嬢様」

「……ん?」

「……いえ、何でもありません」


何かを言いかけてやめてしまった健太に、彩妃は怒るではなく、まるで小さな子供に対してするように、優しく微笑みかけて聞いた。


「なぁに? 言ってごらん」


健太は、恥ずかしさと気まずさと遠慮で、何とも言えない顔になっていたが、意を決したのか、真剣な顔をして彩妃の目を見つめて言った。


「もう……もう、私のそばから、いなくならないで下さい、ね」


そう言うと、健太は彩妃の方を見つめ、さっき引っ込めた手を戻した。

彩妃はキョトンと何を言われたか理解していなかったが、自分の手の上に置かれた彼の手を、ギュッと握り、健太に屈託の無い笑みを向けた。


「うん。あなたも、ずっとわたくしのそばにいてね…………健太」


彩妃の笑顔と言葉を聞いて、健太は顔を真赤にしてまた外の景色を見るふりをする。



車内には相変わらず沈黙が広がっていた。

しかし、二人の手は、強く、きつく繋がれていた……。










そして、康人の執事は未だに学校で彼を待ち続けているのであった。


<お・わ・り>

ここまで読んでいただき、真にありがとうございます!


一応、これで完結です。

なかなか自分で書いてて面白かったので、満足しています。

ご意見、ご感想などがありましたら、どうぞ気兼ねなくお書きください。


ご拝読、ありがとうございました!

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