勇者です。大精霊がへっぽこすぎてはじまりの街につきません
「さぁ。冒険するわよ」
青空の下。ラピスが両手を伸ばしながらそう叫んだ。
周りは森だ。道らしい道は獣道しかない。
そういえば、俺の体内時計だとまだ夜なんだがなんで空が明るいんだ。
「それは時差ってやつよ」
「時差?」
「あんたの住んでた田舎の村はこの場所から凄く遠いでしょ? 時間に差があるのよ。向こうが夜ならこっちは昼みたいにね」
「へぇ~よくわからんが凄いんだな」
時差ってやつはよくわからないが俺の住んでいた村がこの洞窟から遠いのは本当だ。
俺も昔、地図を見ただけだがうろ覚えだが、ある人がいうには足の速い冒険者が急いで旅をしても半年以上はかかるらしい。
「そうね。だから私をちゃんとあがめるのよ」
「あーはいはい。すごいですねラピス様」
「わ、わかればいいのよ」
そう言ってラピスは顔を赤らめながらそっぽを向いた。
まだ会ったばかりだがラピスの扱い方がわかったような気がする。
「で、大精霊ラピス様よ。こっからどこへ向かえばいいんだ。俺は魔王がいる場所も知らんし、そもそもこのあたりも全然知らないんだが」
「私に任せなさい。ほら、事前に地図用意してたんだから」
おおっ。事前に用意しているなんて。そこまでバカではなかったようだ。
「うーん。こっちね」
「そうか、で。どこへ行くんだ。いきなり魔王城なんて言わないよな。だって、俺農民だぜ」
冒険者にあこがれてはいたけど、剣なんてチャンバラレベルだ。
俺の村に大量発生するスライムを除くとモンスターと戦った経験なんてほとんどない。
「安心しなさい。今から私たちが向かうのは『はじまりの街』よ」
「はじまりの街……なんていうかめちゃくちゃメタ的な名前なんだけど」
「いや、比喩表現よ。勇者ならそれくらいわかりなさい。正式名称は忘れたけど私たちの間では『はじまりの街』って呼んでいるのよ」
「へ、へぇー。駆け出しの冒険者とかが集まる街なのか?」
「そのとおり。その街から冒険を始めるのがベターなの。ほら、私に任せておけば大丈夫。あんたを立派など……勇者にしてあげるんだから」
「何と間違えそうだったのかはわからないがどうせ俺の村は遠いしな。ラピスについていくよ」
ちょっと不安だが、ついていくしかない。
金と土地勘があればさっさとほっぽり出したいところだがどちらも俺は持っていないので残念だ。
「ついてきなさい」
ラピスが自信満々にそう言うのだから俺は黙って従った。
……。
「なぁ」
どれほど歩いただろうか。
さっきから同じところをグルグル回っているだけな気がする。
「なぁってば」
「うっさい、今地図見てんだから静かにしなさいよ!」
さっきからラピスは地図を見てばかりでこの調子だ。
ブツブツと何かを呟いては右へ行っては左へ行く。
もしかしてこいつ。
迷った?
「だから、うっさい! 勇者なら勇者らしく精霊の言うことは聞きなさい」
「さいですか……」
……。
「なぁ、やっぱり迷ってるだろ」
「ま、迷ってなんかないわよ! さっきからなによ! 私の導きが信じられないわけ!?」
いや、だったらなんでそんなに涙目なんだよ。
明らかに迷ってるだろ。
「あ、返しなさいよ!」
俺はラピスから地図をひったくると目を通す。
俺の住んでいた村じゃ考えられないほど高級な羊皮紙だ。
「なるほどな」
「何がなるほどなのよ。返しなさいよ。あんたみたいなド田舎の農民が地図なんか読めないでしょ」
まぁ、そうだな。
俺も文字だらけの地図だったらお手上げだったけど、この地図は凄い。
なにが凄いかって?
内容が細かくて絵がとてもわかりやすい。おまけに難しい文字は一切使っていないから俺でも簡単に読める。
空の洞窟がここで『はじまりの街』が向こう側。
太陽の位置がこうで、あの山があそこにあって、ここの獣道がこうなっているから目印が……ふむふむ。
めちゃくちゃわかりやすい!
「おい行くぞ、ラピス」
「ちょ、そっちじゃないわよ!」
「どう考えてもこっちだろ。つうか、空の洞窟って街の裏山じゃないか。街から徒歩30分。獣道だらけでわかりにくいけど、めっちゃ近所じゃんか」
「ななな……そ、それくらい私にだってわかるんだから! そう、試験。これは試験、試験よ! あんたが勇者としてふさわしいのか試してあげたのよ!」
「そ、そうか」
そういうことにしといてやろう。お前の中でな。
そんなこんなありつつも俺たちは『はじまりの街』へたどり着いた。
途中でスライムに何度か遭遇したが、ラピスからもらった聖剣……いや、サビた棒で叩き潰す。
そのたびにラピスは驚いていたがスライムなんてゴキ○リと同じようなもんだろ。
俺の母ちゃんなんて道で拾った手ごろな木の棒で叩き潰してるぜ。
冒険を始めてもう数時間。
迷わずに来れれば30分で終わるはずだったがな。
俺たちは『はじまりの街』へと入った。




