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勇者です。どうやら大精霊に選ばれたらしいです


「チャララ、チャッタッター。ハヤトは勇者になった」


 ん? なんだ?

 身体が激しく揺さぶられている。


 母ちゃんか? なんだよ、まだ朝になってないだろ。

 俺の体内時計は正確なんだ。


「あんたがハヤトね。早く起きなさいよ」

「ふぁ?」


 母ちゃんにしては聞きなれない声だ。

 いつものダミ声じゃなくて凛とした綺麗な声。


 ……いや、たぶんこれは夢補正だ。

 多分、母ちゃんがいつもよりきれいな声で俺を無理やり起こそうとしているに違いない。

 こういうときはロクなことがない。

 前も夜中にお隣の牛がうるさいから抹殺してこいとか言い出すし。

 まったく、困ったもんだよ。


「むにゃ……ハヤト君はまだ、寝てますよー」

「なによ、起きてるんじゃない。大精霊様を待たせるなんて勇者失格ね」


 ん? 大精霊? 勇者?

 何言ってんだ母ちゃん。ついにイケナイ宗教にハマってしまったのか?

 いつも言ってるんだろ、俺は大地の精霊シトリ様派なんだ。

 シトリ様以外の神様なんて信じないぜ。


「仕方ないわね……起きなさい!」

「うぎゃあ!」


 いきなり電流が走った。いや、比喩表現とかそんなんじゃなくて本物の電流だ。

 まさか、母ちゃん魔法使いにでもなっちまったのか!?


 ビックリして飛び起きて目を開くとやけに綺麗な母ちゃんが……いや、お前誰だ。

 

 透き通るような金色の髪に真っ白な頬。水晶のように綺麗な紅い瞳。

 一言でいえば美少女。それも目を疑うような美少女だ。

 少なくとも母ちゃんではない。桃を食べて若返ったわけでもなさそうだ。


「やっと起きた。勇者のクセに寝坊助すぎよ」

「はぁ……勇者? ってかここどこ?」

「流石は田舎村の農民ね。スローライフ過ぎて現状把握もできないわけ?」

「な、なんで俺のプロフィールを知ってんだよ。もしかしてお前は俺のストーカーか!?」

「失敬ね。私をストーカー扱いするなんて」

「ストーカーじゃないならなんなんだよ。そして、ここはどこなんだよ!」


 俺の質問に「はぁ」とため息をついた後、俺から距離を取ると仁王立ちで彼女は宣言した。


「聞いて驚きなさい! 私は大精霊ラピス様よ! そして、ひれ伏しなさい! わが勇者よ!」

「ま、まさか……あの大精霊!?」


 俺の驚きに彼女は「ふふんっ」と威張り声をあげる。

 大精霊とはこの世界を作ったとされる4人の神様のことだ。

 日の精霊ルビー、月の精霊モアッサ、大地の精霊シトリ、そして、空の精霊ラピス。

 多くの人に信仰され、大精霊と呼ばれている。


「ごめん……俺、大精霊はシトリ様派なんだ」

「な、なによあんなビッチが好きなの! ちょっと愚民たちに支持されてるからって調子に乗ってるアホ精霊よ!」

「ラピス様が好きなのはわかったけど、大精霊様を貶すのはやめてほしいな」

「ちょっと、なによその顔。信じてないわね」

「アホか。いきなり、私が大精霊ですって言う奴信じられるわけねーだろ。可愛いからって何をしても許されるわけじゃね」

「え、なんていった? もしかして、私のこと可愛いって言ったの? 私が可愛いのは当然でしょ! だって私は大精霊ラピスなのよ!」


 ダメだこいつ。話が通じない。

 もうここは話を合わせてとっととずらかるしかない。


「わかった、わかったから。百歩譲ってあんた大精霊ってことは認めよう」

「あんたじゃなくてラピス様! まぁ、わかったならいいのよ」

「そうかなら、ラピス様。改めて聞くがここはどこなんだ? 俺の家じゃないよな」


 周囲を見回してみる。

 ゴツゴツとした岩肌にロウソクの明かり。

 奥にある社みたいなものは小綺麗でお供え物が置かれている。


「ここは空の洞窟よ。私が生まれた場所。そして、あなたが勇者になった場所よ」

「勇者?」


 勇者ってなんだよ。

 そう俺が聞くとラピス(仮)はいろんなことを語ってくれた。


 先日現れた魔王が強すぎてラピスを含む大精霊たちが封印されてしまったこと。

 魔王を倒すために勇者を探しはじめたこと。

 そして、俺が勇者に選ばれたこと。


「じゃあ俺、パスな」

「えぇ!? ちょっとどうしてよ! 勇者よ! それも私が選んだ勇者よ! 光栄でしょ! 恐れ多いことでしょ!」

「いや、だから。自分が大精霊とか俺が勇者とか妄想を聞かされても困るだけだよ。こんなところにまで連れてきやがって、空の洞窟って言ったらウチから真反対の位置じゃねーか!」


 それに俺、シトリ様派なんだ。


 っとまぁ、こんな頭のおかしい奴、相手にするだけ無駄だ。

 さっさとこの洞窟から出て……。


「待ちなさい。モンスターが出たわ!」

「え」


 ラピス(仮)の言う通り、モンスターがやってきた。

 俺はただの村人だ。

 毎日、農作業やら家畜の世話で体は鍛えているがモンスターと戦ったことなんてない。


「おいおい、嘘だろ。おい、お前! 俺をここに連れてきたってことは魔法使いなんだろ! あくなんとかしろよ!」

「お前じゃなくてラピス様よ! 勇者なら少しは敬いなさい! あと、さっき言った通り私は封印されているの! 雑魚ですら勝てるかわからないわ」

「いや、ショボすぎだろ大精霊。ホントに大精霊ならモンスターくらい倒してくれよ。ほら、さっきだってビリビリしてたじゃん!」

「うっさい、戦うのは勇者の仕事よ! ほら、伝説の聖剣あげるからちゃっちゃっと倒しなさい!」

「伝説の聖剣? ってサビだらけの棒じゃないか! 棒でももっと新しい奴くれよ!」

「贅沢いわないでこのクソ勇者! それしか持ってないのよ!」


 仕方ない。

 ラピス(仮)が戦えそうにないってことはホントそうだし、ここは少しでも男気ってやつをみせてやろうじゃないか。

 サビだらけの剣を構える。


 持ち方なんて知らないから冒険者の見様見真似。ホントにコレ勝てるのか。


 そうこうしているうちにモンスターが顔を見せた。


「なんだスライムじゃないか」


 ヌメヌメとしたスライムが入り口付近から顔を覗かしていた。

 俺はえいっと聖剣を振るってスライムをつぶす。


「っ……スライムを一撃で!? さすが私の見込んだ勇者ね!」

「いや、スライムだよ! 近所のガキでも瞬殺できるわ!」


 ホントなんだんだよこのイタイ大精霊様は。


「誰がイタイ大精霊様だって?」

「こいつ……俺の心を読んだ!?」

「こいつじゃなくて大精霊様よ……まぁいいわ。とりあえずは許してあげる。なんたって私は大精霊様だからね」

「ああ、はいはい」


 もう疲れたよ……母ちゃん。

 早くおうちに帰りたいぜ。


「で、勇者ハヤト」

「ああ、はいはい」

「さっき言ったとおり私は封印されているの」

「ああ、はいはい」

「だから、魔王を倒して私の封印を解いてほしいの」

「ああ、はいはい」

「早く封印を解いてもらわないとこの世界が滅ぶの」

「ああ、はいは――はぁっ!?」


 世界が滅ぶってぶっ飛びすぎだろ。

 ダメだコイツ、早く何とかしないと。


「その顔。まだ私のこと信じてないわね」

「当たり前だろ。いくら俺が大精霊を信仰してるからって、目の前に突然現れても信じられるわけないだろ!」

「はぁ、仕方ないわ。今日は特別に見せてあげるわ。私の力を」


 パチンッ

 ラピス(仮)が指を弾いた。


「え? う、うわぁあ!」


 急に景色が変わった。

 薄暗い洞窟から真っ青な青空へ……ってか、俺飛んでる!?


「私は空の精霊ラピス。ほら、あがめなさい」


 宙に浮いている俺と並走するようにラピス(仮)


「おい、お前が魔法使いってことはわかったから早くおろせよ!」

「まだ信じないの? じゃあ、魔法ではできないことをやってあげるわ」

「えっ」


 その後、俺は空の上で凄まじい体験をした。

 それはもう言葉に表せないくらい凄い体験だった。

 とてつもない速度で何度もクルクル回ってそれから……「うっぷ」いかん、リバースしてしまいそうだ。


「これでわかったかしら」

「ああ、わかったよ……あんたがラピス様ってことは十分にわかったよ……だから、もうジャイアントスイングはやめてくれ」


 俺がそう告げるとラピスは誇らしげに「ふんっわかったならいいのよ」と言った。

 たしかに魔法であんなアクロバットな飛行はできない。

 とりあえずは信じよう。こいつは本物だ。まだ、あまり信じられないが本物だ。


「はぁ、はぁ……うっぷ、ってことは俺が魔王を倒せってことか」

「そうよ。あんたには才能があるわ。勇者になれる才能が。この私が見込んだんだから間違いないわ」


 どういう基準で俺を選んだのかは知らんが魔王を倒すまでは付きまとわれそうだ。

 できるどうかわからないけど倒しにいくか、魔王。


 それに俺は田舎村の農民だけど、冒険者にあこがれていたんだ。

 冒険者になって敵を華麗にバッタバッタとやっつけるんだ。

 そして、有名冒険者になってみんなにチヤホヤされたりするんだ。


「低俗ね。勇者のクセに」

「いいだろ。それに協力してやるって言ってんだ。少しは感謝しろよ」

「勇者に選ばれたんだから協力するのは当然でしょ!」


 やれやれ。

 とんだ大精霊様だ。先行きが不安だよ。

 サビた棒を握りしめながら俺は小さくため息をつくのだった。

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