裸族な設定とその後な生活
私、ミミこと桜原咲里は召喚獣管理局SSUN地区支局長の妻であり、シルフィードと呼ばれる妖精型改造人間の女王である。
本当はティターニア・アンブレイズという名の美少女外見であったが、紆余曲折で私が私であった頃の姿へと戻っている。
これこそファーディアが愛した姿であり、こっちの日本人であった姿の方が自分にしっくりくるので美少女仮面を失った事は悲しくはないが、背中の六枚の昆虫的な羽はどうにかならないのかと悩み中だ。
「悩むことは無いよ。俺はミミが最初から妖精だって思っていた。本当の姿に戻ったんだ。」
虫人間を私の本当の姿にしないでくれ。
私の夫、エセルバート・グレイン、人に知られてはいけない本当の名はファーディアという、外見だけどころか頭も良かった男のはずの彼は、頭が悪そうにガウン一枚で居間の絨毯に転がっている。
日本様式とは何か。
私を愛しすぎる男は、結婚するや私の過去の生活を色々と尋ねてきた。
そこで、畳の部屋に寝っ転がって本を読むのが好きだったと私が答えると、なんと、彼はその日のうちに非常識な程にふわふわな絨毯を購入して居間に敷き詰めてしまったのだ。
「ゴロゴロしよう!ずっと二人でゴロゴロしよう!」
君がゴロゴロしたかったんだね。
今日はサマエルが我が家に泊まっているのでガウンを羽織っているが、普段は全裸で絨毯に埋もれているのである。
だがしかし、私はそんな彼を見て口では怠け者だと揶揄うが、気持ちの上では恋をしたエンデュミオンの転寝を見守るアルテミスの気持ちである。
ずっと眺めていたいから、このままずっと眠らせてあげたいって気持ち。
彼はこんなんだが、沢山悩んで来たのだ。
発端は二十年前に管轄地域に漂って来た衛星型移民船の発見だ。
その船を開ける鍵が船員の遺伝子操作された人々、羽があるのでシルフィードと呼ばれるようになっているが、彼は、というか召喚獣管理局の召喚士達にシルフィードの召喚の指令が下ったのだ。
しかし、召喚したシルフィード達は鍵穴に嵌らずに悉く鍵穴に処刑されるばかりだ。
最高の召喚士である彼が完璧なシルフィードを呼び出せるのにしなかったのは、召喚を試みた時点でティターニアが私の転生後の人格の一つだと知っていたからに他ならない。
彼が私を殺せるはずは無いのだ。
そこで起きた部下の恋物語。
彼が停職になっても見逃したのは、逃げた二人に私との過去を重ねたからだ。
そして、自分が何もしなくても次々とシルフィードが召喚され殺されている事実に、彼はとうとう鍵穴に絶対に合うはずの女王を召喚する覚悟を決めた。
でも、初めて彼は失敗した。
完璧に錬成した肉体に最後の魂を入れるところで、彼は恋人を思ってしまったのである。
私だ。
私だからこそ、彼は私を鍵として差し出せなかった。
私だからこそ、彼は私でない私の外見からずっと目もそらしてもいたのだ。
私に触れたいのに、私ではない私。
私は絨毯に転がるファーディアの隣に転がった。
「ミミ。」
「私を呼んでくれてありがとう。隠れていた私を見つけてくれてありがとう。」
ファーディアは私を見つめ、その緑色がかった宝石のような瞳を煌かせた。
嬉しそうに微笑む目元には笑い皺が寄り、私は彼の右目の皺をそっと撫でた。
「あなたは苦労ばかりね。」
「おはよう。苦労しているのは俺様こそですよ!」
居間に入って来たのはサマエル・ローグ召喚獣管理局公安部長様である。
「裸族はこいつだけじゃないんだよ。俺がエセルの面倒を見ているってだけで、他の裸族の苦情迄俺に言ってきてね。いや俺は召喚獣管理局の局長様で、再生人間管理局の人ではありませんって、何度説明しなければいけなかったか。」
「はははは。だからローグが歴史的生活様式保護法を作ったんだよ。」
「まあ!あなたが作った法律だったの!」
伝説の局長は私に肩をすくめて見せた。
「丸出し人間の文句を俺に一々言ってくるんじゃない、法だ。俺こそ悩みもなくゴロゴロしたいんだ!」
再生三回の偉い男は私とファーディアを挟むようにしてファーディアの横に転がり、私は自分が起きて皆の朝ご飯を作るのも癪だと転がったままでいることにした。
ファーディアが家族に囲まれていると幸せそうに微笑んでいるのだ。
飢え死にするぐらいまで、散々に転がっていてやろう。




