私を呼んだのは何のため
時計も無い宇宙船の中では時間の経過を感じる事など出来なかったが、あと三時間でシルフィード号の係留地点に着くからと食事が運ばれて、そこで私の命があと三時間なのだと理解はした。
そして、最期の食事が六つぐらいの区切りがある安そうなプラスチックのようなトレイに、灰色に黄色に薄緑にと、マッシュポテトに適当に色付けされたような物とはどういうことだ。
私の時代だって、宇宙食はかなりグルメな固形化をしていたではないか。
え、私の時代?
私は何かを思い出した気がするが、とりあえず今を大事にすることにした。
あと三時間の命なのだ。
そこで、食事のトレイから透明なプラスチックのような物を外すと、まず、一番おいしくなさそうな灰色のものをスプーンですくって、それをエセルの口元に差し出した。
涙が止まった後に気恥ずかしさを感じたのか、彼はずっと私から顔を背けていたのである。
「はい、あーんして。」
私の小馬鹿にした感じの言葉を受けると、顔は背けたままだったが、彼は目だけは大きくぎろり動かして私を睨んだ。
「これが最後の食事。一緒の食事よ。一緒に楽しみましょうよ。」
「俺は一緒にいる。君が食べればいい。」
「だってこれ美味しくなさそうよ。あげる。」
エセルの鼻の穴は一瞬大きくなった。
顔の表情も少し緩んだし、彼は笑いかけた筈だ。
「この不味そうなもの、ぜーんぶ混ぜてあなたに食べさせようかな。そうしたら、私を見て笑ってくれる?あと私達は三時間なんだよ。」
「俺は三時間の為に君を呼んだんじゃない。」
「じゃあ、何の為よ。」
「愛し合うためだ。」
「このどすけべぇが!だから私の外見が人形みたいなのね。サマエルは言っていた。魂を入れる器は召喚士の思惑が入るって。だからエラーが出るんだって。こんな顔も体も、背中の六枚の羽根だって、こんなの、私じゃ無いんだからね!」
私の持っていたプレートは、エセルの顔を直撃した。
彼の顔は、無駄にされたマッシュポテトの残骸でべとべとだ。
「はっは。ざーまーみろ。何が私を選んだ、だ!ぜんっぜん選んでない。こんなの私じゃない。私は私を否定されてのこんな姿だ!」
もう最後は泣き声だったかもしれない。
なんだこの男は。
最低だ。
私はドアをどんどんと叩き、別の部屋に連れて行けと騒いだ。
最後の三時間、一人で、一人だけで、誰にも愛されない私を儚むのだ。




