そんな日常の五男
とにかくマイペースに我が道を進む、我が家の五男くんを紹介します。
個性豊かなキョーダイ達の中でわりと影の薄い、大人しめの五番目、五男くん。
コードカラーは茶色で、大体いつも四男くんと行動を共にしている。
というのも、彼、五男くんはなんと方向音痴でして。
目を離せばすぐどっかに行ってしまうんです。
なのでいつも四男くんが面倒を見てます。流石俺達の兄貴!
そんなどっか抜けてる五男くん。
彼を一言で言うならば、
天才です。
いや別に、贔屓とかそんなのじゃないです。
親バカのノリである兄バカとか、そんなのじゃないです。
本当に天才なんです、彼。
具体的にどんな天才かって言うと、例えばたった一日で四則演算の基本をマスターしたり、やったことが無い木登りを目の前でやったらあっさり出来るようになったり、この前まで洗濯機のことも知らなかったのにコンプライアンスについて理解してたり。
とにかく、何でも簡単にこなせちゃうんです。
教えればスポンジみたいに、あっという間に。
いや、もう、本当に驚きました。
足し算教えたらあっさり掛け算覚えちゃって、「割り算って何?」って掛け算について説明した直後に訊かれたからびっくりしながら「えっと……掛け算の逆かな?」って、どう考えても投げやりでしかない返事をしちゃったら、五男くん少しの間考えて。
「……そうか。兄弟で木の実をわける時のヤツか」
と、いとも簡単に割り算を理解しちゃいました。
マジかよ、とお兄ちゃん驚愕しましたね。
何この子天才かよ、と。実際天才だったんですけど。うん。
――――ところで。
なんで五男くんはそんなに天才なのかっていうと、お兄ちゃんどころか他の兄弟もその理由は知らなかったんだけど、ある日ぼそっと「なんであんなにいろいろ覚えるのが早いんだろ」って零したら、まさかの場所から返答が来まして。
まさかの場所というのは、五男くんと一緒くたにされて『天然コンビ』って呼ばれてる弟だったんですけど。
その子は、それはもう名高い剣道家のように木刀を素振りする五男くんからお兄ちゃんへ視線を移すと、「しらないの?」と小首を傾げるなりこう言いました。
「茶色はよくばりなんだよ。
よくばりだから、ほしいと思ったものはぜんぶ、じぶんのものにするんだよ」
最初「うん?」と意味が分からず目をパチパチさせたお兄ちゃんですが、次に弟くんが言った言葉で、何となく、五男くんの才能について理解してしまいました。
「ほしいって思ったら、茶色はもう、じぶんのものにすることしか考えない。だから、なんでも茶色はじぶんのものにしちゃうんだよ」
「…………ああ、そういうことか」
納得したお兄ちゃんは「なるほどな」と五男くんを見ます。
どういうことかって? まあ、これは分かっちゃえば非常に簡単な話でして。
つまり五男くんは、貪欲なのでした。
たとえばとある剣技を見て心の底からカッコイイと思ったとする。
おおよその人はその次には「自分もああいう事が出来たらな」と、微かに憧れながら、半分は感動、そしてもう半分は自分への諦めを抱く。
意識しながら、もしくは無意識に。
それが五男くんの場合は、カッコイイと思った瞬間には「自分もああいう事が出来たらな」と半分は感動もしくは感心しながら。
もう半分では、「自分もああいう事をしたい」という欲望から同じ事が出来るための行程を考えている。
欲求に忠実に、ストイックに。
欲しいと思ったもの、手に入れたいものを、その手に得るために。
無言実行。
確実に、着実に。
自分の持てる能力全てを駆使して、欲したものを自分のモノにする。
つまり努力しているという事だから、お兄ちゃんはその辺「密かな努力家なんだなぁ」という感じで思っていましたが、ある時思いました。
あれ、これ、今は技術とかだから努力家とかって言えるけど。
もし五男くんが欲しいものが『物』だったら、どうなるんだろう。
なんて――――ぞわってしますけど、五男くんはいい子です。
ちょっとカタい喋り方で初対面なら取っ付き難い感じがしますけど、いい子です。
根っこは真面目なのか、一度身に付けた技術は空いた時間にコツコツと復習してるし、それを周りにひけらかすこともしない。
口数も多い方じゃないけど、代わりに行動で示す、武士のような子です。
…………天然で素直だから、冗談が通じないところがあるけどね。
「枇杷の実からアリが生まれるんだよ」ってこの前冗談で嘘教えたら、至極真面目な顔で「アリの数が減るからビワはあまり食べないようにしよう」って弟達に教えてまして、非常に申し訳ない気持ちになりました。
ごめん五男くん、それお兄ちゃんの嘘だから、枇杷たくさん食べて良いんだよ?
大好物だよね、枇杷?
そんな頭がカタくて頑張り屋さんな五男くんを、お兄ちゃんは今日も陰ながら応援するのでした。
でもいい加減家の中で迷子になるのは勘弁して欲しいかなっ!