そんな日常の十男
それでは最後に、我の家の末っ子を紹介します。
とうとう最後になりました我が家の一番下の弟。
末っ子こと十男くん!
コードカラーは青色で、末っ子らしく元気いっぱいでイタズラに好きで、七男くんに続き女装が似合いそうなキョーダイナンバーツーです!
見た目は全体的にチャラい印象があるけど、無邪気に甘えてる時は天使かなっ!
本気で甘えてるのは六男くんにだけだけど。
いやー、うん。最早罪のレベルだよね、あの天然ジゴロは。
性格は無邪気で天真爛漫――――に見えて、実は中身は三男くん並みに嫌なヤツである十男くん。
外面は良いけどキョーダイ間での素顔は計算ずくで、自分の顔が良いことを利用していろんな所に繋がりを持っている、中身真っ黒な末っ子です。
おそらく十男くんは街のあらゆる機関に顔が利くと思われます。え? なぜかって?
具体的に言うとですね――――五男くんが迷子になるじゃないですか。
捜しても見つからないじゃないですか。
それで六男くんが困った顔をしてたら、「じゃあけいさつかんにきいてみるね!」と笑って、派出所の警官さんに話かけます。フレンドリーに。
すると警官さん、無線で仲間に連絡して捜索を開始し、派出所でキョーダイ諸共もてなされること十分後。
「みつかったって!」
警官さんが見つけた五男くんとお土産を持って帰ってくる――――という。まるで貴族のような対応のされ方。
だって普通派出所で茶菓子とか出てこないと思うんですよ。はい。
十男くんの顔の広さはここだけに留まらず、たとえば「きょうゆうしょくなにかな」と六男くんが呟けば「しょうてんがいはこれがやすいよ!」と近所の主婦情報をかき集めたタイムリーなチラシと共に紹介し、買い出しに出た六男くんの帰りが遅ければ近所の暴走族を呼び止めてバイクに乗せてもらい迎えに行く。
なにしてるんすか、十男くん。
そう言わんばかりの数々の所行。
その上誰をどう使えば一番良いのかとか、計算してやってるから怖いんです。
嫌だこの子腹の中真っ黒じゃん。
しかも全部に六男くんが関わってるという点から察せられる通り、こやつも七男くんや九男くんに負けず劣らず六男くんが大好きなんです。
なんなのお前ら、六男くんのファンなの。というか好きすぎじゃね、三人共。
はい、まあ、そういうことで。
SP七男くんや泣き虫九男くん劣らず、チャラ十男くんは六男くんのことが大好きで、ヒマさえあれば九男くんと一緒に六男くんに引っ付いてます。
ちなみに六男くんの右側が九男くん、左側が十男くんのテリトリーらしく、あまりにケンカが絶えないので次男くんと四男くんを巻き込んで固定位置を決める話し合いをしたそうです。
そんな大事にするようなものかとお兄ちゃんは思いますが、当の九男くんと十男くんは真剣なので下手に口を出したら火に油を注ぐそうです。
何コイツらガチすぎて怖い。
あっ、余談ですが六男くんの片割れ七男くんの定位置は六男くんの後ろです。
ストーカーは安定の背後だそうです。ある意味怖い。
そうして、普段から六男くんにだけ定位置で撫でろとばかりにぐりぐり頭を押し付けて甘える十男くんは、そうやって甘えてる時や大人しくしてる時はまあ天使なんですけど。
何しろ三男くんのあのマッドサイエンティストなノリについていけてしまう部分があるので、タチの悪い方向に頭がキレまして。
口がかなり達者なんです。
たとえば誰かをどう罠に落とすだとか、現状を優位に持っていくための言質を取るだとか、そういった方向での悪巧みが得意でして。
特にある場所に人を誘導するための言葉掛けだとか、特定のキーワードを口にさせるための尋問だとか、そういうのに長けているんです。
まっ、キョーダイとかにあまり使うことはありませんが。
キョーダイ以外には子どもという自分の立場も理解した上で、大人を望む方向に動かしています。
警官さんを動かしたり、主婦から情報を得たり、暴走族を利用したりっていうのも、全て十男くんが言葉巧みに操っているのだとことです。
十男くん曰く「ちょっとウソがとくいならだれでもできるよ?」とのことですが、言わせてもらいます十男くん。
お前ほどなんとでもない顔をして息をするように嘘を吐けるヤツなんていないよ。
でも、やっぱり大好きな六男くんに対しては、あまり嘘を吐かないようです。たまにしょーもない冗談を言うようですが。
何でも昔、十男くんがキョーダイの中に入りたての頃、誰にも心を開いてなかった時にちょっと事件があったそうで。
その時、自暴自棄になっていた十男くんに声をかけたのが六男くんだそうで。
その時やり取りで何があったのかはお兄ちゃんは知りませんが、結果的に六男くんが十男くんを救う事になり、以来十男くんは六男くんを中心に少しずつキョーダイの中に馴染んでいったそうです。
その内容は十男くんの嘘に冠することらしいですが、お兄ちゃんも詳しくは内容を知らないのでとりあえずこの話は黙秘とさせていただきます。
でも、それをきっかけに十男くんは六男くんの事が大好きになったことは、どのキョーダイの目から見ても明らかだったそうで。
急に六男くんに引っ付くようになった十男くんと、それを見て嫉妬した九男くんによるケンカがしばらくの間繰り広げられたそうですが、それはまた別の話ということで。
今日とて口達者である十男くんは、九男くんにケンカを売ったり、七男くんを挑発して、日々を過ごしているのでした。
ちなみに今日もお兄ちゃんは十男くんに騙されました。
くそ……いつも長袖な三男くんが半袖でヘソまで出してるなんて嘘じゃないか…………くそぅ…………!
十男くんが過去に何があったのか。どういう風に生きてきたのか。
その全貌はお兄ちゃんのみならず、信頼されていろいろ本人から聞いている六男くんも詳細までは知らないそうです。
けれど、たとえそれを抜かしたとしても、
その言葉と眼は、あまりに欲深すぎる。
十男くんは気付いているでしょうか。
ただ一人向ける言葉の裏に、泥水のような感情が含まれていることに。
いいえ、きっと彼は何となく気付いているでしょう。
その人に注ぐ眼差しが、どろりとした熱を帯びていることに。
賢い十男くんは、自分が抱いているそれが普通のものでは無いことに気が付いているのでしょう。
けれども、まだ幼い十男くんは普通ではないそれの正体を知らないのでしょう。
だけどそれは、不特定多数が抱くようなものよりもっと浅ましく、歪曲した純真な気持ちであるですが――――おそらく、きっと。
十男くんはその歪みこそを、真実とするのでしょう。
数々の犠牲を踏み躙り、数多の意志を折り壊しながら、己が信じるがままに進むのでしょう。
その先に、想像も出来ない苦痛があったとしても。
描いた理想を叶えるために、己と理想以外の全てを切り捨てるのでしょう。
そんな一途な恋し方も、この世にはあるのだろうと。
お兄ちゃんは、思うのです。




