そんな日常の九男
どこの兄弟にも一人は必ずいるようなタイプの、我が家の九男くんについて紹介します。
下から二番目の弟にして、一番下の弟としょっちゅうケンカしている九男くん。
コードカラーは赤色で、ちょっと不機嫌そうな顔がデフォルトの九男くんは、まあ、どこのキョーダイにもいそうな特徴を一つ持っています。
泣き虫という、ステータスを。
拗ねて泣く。叱られて泣く。寂しくて泣く。どうすればいいか分からなくて泣く。一番下の弟とケンカして泣く。
キョーダイの中で誰よりも涙腺が緩いらしく、とにかく泣いてしまう九男くんはいっつも目を真っ赤に腫らしてまして。
堪えようと懸命に唇を引き締めますが、次第にぼろぼろと泣いてしまう九男くんを、いつも慰めている六男くんの姿を我が家ではよく見かけます。
六男くん優しいからね。九男くん以外が泣いてても必ず慰めに行くんだけど。
そのせいか、それとも九男くんが昔大怪我した時、寝る間も惜しんで渾身的に看病してくれたという過去があるからか――――九男くんは六男くんが大好きです。
どこぞのSP七男くんのようにベッドの中までストーキングはしませんけど。
でも時間が許す限り六男くんにべったりしてます。
お手てを繋いでいます。街中で知らない人に会ったら六男くんの後ろに隠れます。
人見知りなのと、怖がりな性格なので、お兄ちゃんでさえ目線を合わせずに喋ろうとするとちょっと涙目になります。
うん、可愛いよ九男くん。泣き虫っていうそのステータス。天使だね。
そのあたり六男くんは庇護欲が刺激されるのか、結構九男くんを庇ってくれます。
たとえば九男くんが転けたらすぐにやって来て、絆創膏貼りながら宥めたり。
三男くんにイタズラされてぐすぐす言ってるところを慰めたり。
チャラい弟とケンカしたことについて六男くんが叱るけど、その後九男くんと弟くんまとめて仲直りさせていい子だねって褒めたり――――
あー……おそらくそのせいでしょーねー…………うん。
SP七男くんに負けず劣らず、めっさ六男くんにスキスキオーラ出してるのは。
そうです、九男くんは六男くんの天然ジゴロの被害者です。
でもいつか九男くんも理解してしまう日が来ると思う。自分にだけ特別優しいんじゃなくて、六男くんはみんなに優しいんだってこと。
その時のことを考えると修羅場が起きそうで、お兄ちゃん今から内心ガクガクブルブルしてますが、せめて現在言えることといえば。
――――九男くんが女の子じゃなくて良かった。
それだけです。まだそこに修羅場軽減化の希望はある…………!
おっと話がそれちゃいました。
えっと、九男くんのその他の特徴についてですけど――――九男くんの個性を紹介する上で、最大の特徴が九男くんにはあります。
まあこの特徴があるから、九男くんは悲しくて泣いちゃって、それを六男くんが「大丈夫だよ」って慰めるのだとお兄ちゃんは思いますが。
慰められることによって九男くんは六男くんをちょっと……いやかなり、特別視してるのだと思いますが。
九男くんは、度を越した怪力の持ち主です。
脅威的なレベルでの怪力の持ち主です。
一体あの細腕にどれだけの筋肉が折り畳まれて収納されているのかと思うぐらい、力が強いんです、九男くん。
しかもそれが火事場の馬鹿力とか、そういうレベルじゃなくて、元々肉体的に怪力になっているっていうのがまた厄介な事でして。
たとえば――――火事場の馬鹿力的な能力での怪力なら、力を使い過ぎると自分の身体に負荷がかかるじゃないですか。
すると多少なりとも負荷を避けるために、怪力を使う事にブレーキを意図してなり無意識になりかけるわけですよ。
そうすることで周りとのパワーバランスを徐々に保っていって、日常生活を普通に送れるようになっていくわけですよ。お兄ちゃんの同級生の中にそんなタイプの怪力男がいました。
しかし、九男くんの場合は『元々そういうもの』――――どうにも身体の作りから怪力であることを前提にしたタイプの力持ちであるらしく、当然であるかのように板ガムを曲げる感じで鉄のスプーンを曲げます。
厚さ九ミリの鉄板を折り紙のように扱い、この前なんか鶴を折っていました。
嘘だろ九男くん。
しかもこの怪力、本人の意思ではコントロールが出来ないらしく、日常生活の中では全ての物に精巧なガラス細工を扱うような感覚で気を張り巡らせていても、子どもなのでうっかり力加減を間違えて物を破壊してしまうことがあります。
以前力加減を間違えてキョーダイの骨を折ってしまったらしく、それがトラウマになっているため人と関わる時は一定の距離を置くようになっている九男くん。
ですか、そんな日々トラウマ刺激され気味な九男くんに、それでも普通に接し続け、コントロール出来るようになろうと励まし続けていたのが――――骨を折られた張本人である六男くんでして。
今や六男くんのお陰で、弟と口喧嘩出来るぐらいには普通に生活出来ている九男くんは、そういった意味でも六男くんを慕っているのでしょう。
この話を聞いてお兄ちゃんは「天使かな」と思いました。いやホントに。普通骨折られたら怖くて近寄れないでしょ、常識的に考えて。
なのに常識を覆して、六男くんはずっと九男くんに優しさをくれた。
一緒に生きようと、並外れた力を持つ九男くんを支え続けた。
これによって今の泣き虫九男くんがあるので、お兄ちゃんとしては天使がいっぱいコレクションでとっても嬉しいですが。
うん、今日も涙目で六男くんを探す九男くんが可愛いです。
なので九男くんに対し心のシャッターを切りながら――――ああでもそろそろ泣き虫は卒業しないとお兄ちゃん心配かな? とか思いながら、お兄ちゃんは九男くんと一緒に六男くんを探してあげるのでした。
やっぱ、下弟組は天使が多いかなっ!
だからでしょうか。いや、それともこれは、そうなってしまう運命なのでしょうか。
巡り巡って、そのようになってしまったのでしょうか。
それとも、元々そういう風な予兆はあったのでしょうか。
たまに、九男くんの六男くんに向ける想いが、「おかしい」時があります。
それは不意に、九男くんの視線や、言葉といった些細なところから、まるで色のついた水滴が布地に染み込んでいくように、じわりと感じることがあります。
それは好意と言うには、澱んでいるような。
想いと言うには、重々し過ぎるような。
おそらくこれは言葉にしたら、狂気と分類されるような事なのでしょう。
何かが、逸脱してハズれてしまっているような。
それを疑問に思うことなく、さながらたった一つの真実であるかのように掲げているような。
けれど、一切を寄せ付けない強く据えられたそれは――――否定するには、あまりに真っ直ぐで。
肯定するにはどこかハズれ過ぎているそれは、きっと他者からの理解など到底得られないのでしょう。
理解を得られずとも、九男くんはソレを貫き通すのでしょう。
そんな一途な愛し方も、この世にはあるのだろうと。
お兄ちゃんは、思うのです。




