そんな日常の八男
ではでは、我が家のスリーピングビューティーこと八男くんを紹介します。
コードカラーは紫色。
『下弟組』の真ん中のポジションである八男くんは、何分自己主張をしない子なので下手すれば五男くんより存在感がありません。
兄弟の中でも存在感の薄い五男くんは、四男くんがわりと気にかけてくれてるし、六男くんに至っては個人そのものの存在感は薄くても、周り存在感が半端じゃないから自然と目に付くけど。
八男くんはキョーダイの中でも、かなりの頻度で存在を忘れられます。
それはなぜかって?
いっつも寝ているからです。
八男くんは気が付いたら寝てる。いつの間にか寝てる。
どんな騒音の中でも寝てる。マイ枕抱えてスヤァと安眠してる。どれだけ寝るんだよ、って頻度で寝てる。
とにかく寝てる。
そんな八男くんなので普段の生活の中で喋ることが少なく、そのせいで忘れ去られることが多々あります。
具体的に言えば――――ちょっと山の中の湖近くに遊びに行くことになって。
みんなでお弁当とか用意して出掛けて、目的地で点呼とってみたら一人足りない状況になりまして。
「あれ? 五男くんはいるのに、誰がいないんだろう」と思ってたら、四男くんの「あっ……八男」の一言で、そういえばリビングで一人熟睡していた事を思い出す。
そんな感じの、おいけてぼり度が高い八男くんです。
ちなみに間もなくして六男くんと七男くんが八男くんを荷物のように運んで来ました。
それでもすやすや眠ってる八男くん。
寝顔は可愛いけど起きようぜ。というか自分で動こうぜ。
そんな四六時中寝ている八男くんの面倒を主に見ているのは、六男くんと四男くんです。
それぞれ六割、四割の割合で面倒を見ています。
よく放ったらかしにされる八男くんを連れてきたり、ご飯の時間になったら起こしたりするのが面倒見の良い二人が主にやっている事でして、ご飯時間になったらズルズルと八男くんがリビングまで引き摺られてくるのが我が家の日常風景になっています。
そこまで来たら起きろよ、ってお兄ちゃん思うんですけどね。寝顔は天使ですけど。
八男くんは性格的に起きようとしないから、お兄ちゃんはちょっと手を焼いている状況なんですよね。
性格的に起きようとしないって、どういう事かと言うと、
極度の面倒臭がりなんですよね、八男くんってば。
とにかく面倒臭がり。
いやぁね? 頼んだ事はちゃんとしてくれるけど、引き受ける時に面倒くさそうな顔で「おれじゃないとだめなの?」って必ず訊いてくるんだよね。
ここで言い淀んだら「べつのキョーダイにいって」ってまた寝ちゃうから、すぐに「八男くんじゃないとだめ」って答えます。
すると一息置いて「わかった」って言って、八男くんはちゃんと頼まれごとをするんだけど、終わって報告したらすぐ寝ます。
それに寝てばっかりで、そのまま放置してたら食事も入浴も何もしません。
曰く「うごくのがめんどくさい」からだそうで、しょっちゅうお兄ちゃんや四男くん六男くんで食事の席に連れて行ったり、お風呂に入れたりしてます。
まったく……自分でやりなさい! 八男くんってば!
けれど、八男くんって何も出来ないわけじゃないんです。
寝起きでぼけーっとしている事は多いけど、頭は悪くないし現実的に物事を考えています。
たとえば弟組でイタズラを企てる時は横から冷静に作戦の欠点とかを指摘するし、弟達がケンカに発展しようとしてたら「黒が困るよ」「白に殺されるよ」とその場で一番効果のある言葉を使って弟達を止めます。
ちなみに前者の場合は「それもそうか」と弟達は納得して引き下がりますが、後者の場合は「いいぜ逆にこっちが殺ってやらぁ!」と一致団結して七男くんを迎え撃つ準備をします。
結果的にはケンカは収まってるけど、新たな火種をまくのやめようよ、八男くん。
やれば出来る子である八男くんは、この通り面倒臭がりやなので無口なイメージがありますが、実は起きてる時は結構喋ってます。
逆に起きてても喋ることが少ないのが五男くん、六男くん、七男くんの三人です。
五男くんは性格から、六男くんは周りが喋るから、七男くんに至ってはマトモに会話するのは六男くん限定だからです。
なので八男くんは起きてさえいればちょっとクールなだけのいい子なんです。
すぐ寝るけど。
そんな八男くんにも、一つだけ。眠いとか面倒だとかそういうのを一言も言わず、自ら真剣にやる事があります。
それは――――整理整頓。
意外にも、八男くんは物の位置や本棚の本の並び方にうるさい子だったのです。
ちょっと潔癖症の気があるのでしょうか?
ソファーの上に無造作に置かれている雑誌を見かけると、すぐにテーブルの上に、しかも発行月順に並べますし、ついでにミリ単位でズレてるソファーの位置も元に戻します。
八男くんが皿洗いをしたら、戸棚の中に皿を綺麗に並べるまで皿洗いが終わりません。
八男くん、まだお皿乾いてないから。後で片付けようよ、ね?
また珍しく八男くんが怒ってるところを発見し、理由を訊いてみたところ、四男くんに宥められながらこう言いました。
「……せんたくものは、まるめずに出すべきだとおもう」
うん、主婦かお前は。
そんな面倒くさがり屋のくせに、妙なこだわりを持つ八男くんは、今日も涼しい日陰ですやすやと安眠しているのでした。
ところで、口の中に焼き鳥棒突っ込まれたままよく寝れるね、八男くん。




