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  作者: 昊
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ラブレターは突然に

拝啓 山本彦星 様


 突然のお手紙を失礼致します。わたしはあなたが通っている喫茶店のアルバイトです。名前は桜雅さくらみやびと言います。

 何を書けば良いのか全然分からないから、本題に入ろうと思います。


 わたしは山本さんが好きです。大好きです! もしよければ付き合って下さい!


 と、突然こんなこと言われても迷惑ですよね? すいません。でもあなたを毎朝見かける度に思う気持ちは本心です。ぜひご連絡お願いします。


 ×××-×××-××××


 桜雅



 彦星は手紙を読んだ後、固まってしまった。なんだこれ? そんな想いが頭をよぎる。そうなるのも無理はない。なぜならこれはいはゆるラブレターというものではあるまいか? と、なぜ自分にいきなり? と、混乱するのも無理はない。

 まずは彦星、前後左右を確認した。ここは自宅のポスト前、住宅街から丸見えだ。人がいたとしてもそれがラブレターだと分かるはずもないのに彦星はそんなことは気づかず、周りに誰もいないのを確認すると、泰然自若の様を装って家のドアを鍵で開けた。

 まだ母と妹は帰っていないようだ。家の中は静かであった。彦星はとりあえず誰もいないことを確認するとカバンを丁寧に部屋の中へ掛け、お菓子を取り出し、机に座った。

 まずは宿題を終わらせる必要がある。

 彦星はラブレターはカバンに放り込んだまま、宿題を始めた。高校数学は難しいが、分からないということもないくらいには、彦星は頭が良かった。

 やがて母が帰ってくる。

 ただいまー。と言って母が帰ってきた。手には仕事用のカバンと、スーパーのエコ袋。何か夕食でも買ってきたのだろう。

 「彦星、ただいま。かなえは?」

 と、母は聞いてきたので、彦星は、

 「知らない。どうせ今日も夜遊びでもしてるんじゃない。」

 と返した。

 その日は全くいつも通りの生活を彦星は送った。妹の叶は案の定友達と夜遊びに興じていたらしく父にひどく怒られたがしかめ面はそのままであった。




 翌日、彦星はいつも通り学校へ登校する。そう、魔法育成機関直属高等学校へ。

 いきなり話が変わったと思われる人のために一応説明をしておくと、魔法というのはアバダケダ○ラ! といえば人が死ぬ、みたいな簡単なものではない。詳しく説明すると話がややこしいし、長くなってしまうので簡単に言うが、大きく、物理魔法、精神魔法の二つに分かれている。彦星はそんな魔法を習ってもう4年目になる。中学に入ると正式に魔法を習い、行使することが許可されるのだが、彼は今年になって高等学校への入学が決まった。

 魔法育成機関直属高等学校――とは、政府直属の魔法育成機関である。イギリス、アメリカ、中国、といった先進国が魔法という分野において優れた国力を有するとされている状況の中、日本も対抗策として5年前から設立された機関だ。実はこのことについては90年以上前、つまり1960年代以降から盛んに内閣、および世論において魔法育成の議論が盛んに交わされたのだが、日本だけがその政策実行速度、また政策実行の慎重さという面も相まってようやく開講がされた学校だ。

 他の学校でも魔法は教えているのだが、政府直属の、魔法育成機関は未だここだけである。従って、入学する生徒は世に言う、エリート、ばかりになる。

 彦星が入学できたのは親のコネのおかげだった。父が内閣の大臣、母が大手企業副社長という家に生まれたので、親は必死に彦星をこの学校へ入れようとした。そして、まあ、入った訳だ。

 話がだいぶずれた。

 彼は東京の皇居そばの駅で降りた。学校の制服を着た生徒がたくさん周りを歩いている。皆学校に行くのだろう。襟の色で年上か年下かが分かる。

 学校前に行き、いつも通り彦星は足下の魔力認証装置により校門を抜け、指定されているクラスへ向かう。

 クラスに着いたら、カバンを机に掛け、授業用のノートとペンを用意する。始業まで十五分。いつも通りの日常だった。

 「お、おはよう山本くん。」

 「おはよう。」

 さて、今日の一時間目は何だったか。確か……、歴史? だっけ?

 「あ、あれ? おはよう! 山本くん!」

 一時間目から歴史。校長め……、何考えてんだ、一時間目は楽な国語にしろって。

 「っておい!! 無視すんなよ! せっかく挨拶してるのに! こっちをみて!」

 「一時間目は楽な国語にしろってあれほど言ってるのに……って、うわっ! 何!? びっくりした。」

 考え事をしているといきなり声がかけられた。

 「何って、めっちゃ挨拶したのに。まあいいや。あの、私です。桜雅です!」

 「さくら、みやび? ああ、ごめん。今、それどころじゃなくて。ほら、あと十分で授業じゃん? もう集中していかないと。」

 「え、ああ、そうなんですか? すいません。じゃ、あとで返事もらえますか? あの、……、手紙について。」

 「はいはい、手紙についてね。じゃあ、昼休みに言うから。」

 「は、はい。その、ありがとうございます。 それじゃあ!」

 びしっと敬礼をかまして、さくらみやび、なる女性はクラスを出て行った。

 って今の誰!?

 完全に意識がほぼどこか飛んでる状態で話してた! 彦星は今更ながら自分の失態に至る。いや、だって、もう授業なのに、いきなり訳わかんないこと話すから! 完全に上の空で返事をしていた! っていうか大事なのはそこじゃなくて!

 誰? でもなくて、手紙? ……手紙!

 彦星はここでようやく己のした失敗に気づいた。ラブレターもらっといて、シカトしてしまった-!背景に雷がバシャーンと、マンガなら落ちていた。いや、そういえば昨日は宿題こなしているうちに手紙のことなんてすっかり頭から飛んで、……妹がいつも通り親に怒られているのでさっさと寝ちゃったんだっけ!

 「はーい。みなさーん。おはようございますー。これから朝のホームルームですねー。」 しかも、なんかさっき変なことを口走ったような……。何だっけ。

 「では日直さーん。号令お願いしますー。」

 「(号令)きりーつ。」

 はっ! 昼休みに返事します!? バカか僕は! いきなりそんなこと言っちゃって!顔も覚えてないんだけど。あれ? でもよく考えてみれば断る理由がないような……?

あれ? これ顔見て美人だったら付き合っちゃえばいいわけで、これいわゆる春が来たって奴なんじゃ……、今もう7月後半だけど。

 ここで彦星はようやく今のクラスの現状を認識することが出来た。

 完全に静まりかえっていた。今ままで長考にふけっていた彦星はようやく一人だけ座っているという状態に気づく。

 「しまった! いや、先生これは違うんですよ。」

 慌てて僕が弁明すると、先生はにこっと笑って、

 「分かってますよ山本彦星くん。明日、日直がやりたいんですね?」

 罰は明日の日直のようだった。

 即座に教室を席巻する笑い声を背景に、僕はこれから来る春の予感に一人内心ではほくそ笑んでいた。だが、もちろん春には嵐がつきものだということをこの後、僕は思い知る。




 彦星は知らなかった。嫉妬というものは時に人を狂わせるということを。恋がそうであるように。

 まずは、彦星が昼ご飯を食べに食堂へ向かう前を見てみよう。

 思えば、彼女は自分のどこに一目惚れしたのだろう? 彦星はクラスを出て、廊下を階段に向かいながら考える。他の生徒も何の用があるのか知らないが、廊下に出てきた生徒達がたくさんいる。さくらみやび、はいないようだ。どんな人なのだろうか。まあ、顔を見ないことには始まらない。いろんな意味で。

 食堂に着いた。彦星は大好きなうどん(180円)を持って、どこにしようか、と、うろうろしていると、突然、

 「おーい、山本くーん!」

と、やたら明るい声が聞こえてきた。

 彦星はそこで固まってしまった。意外にもその声の主が綺麗で、言葉が出なかったのである。

 「ふう。見つけられて良かった。そ、それじゃあさ、あっちの席とってあるからきてくれますか!?」

 「ちょっと、ちょっと待って。あ、あなたは誰ですか? もしかして、さくらみやび、さん?」

 「ああっ! そうだった! 自己紹介忘れてた! えっと、初めまして? 私が桜雅といいます。学年は3年。えっと、よろしく!」

 「ははは……。えっと僕は、知ってるのかな? 山本彦星。一年です。」

 彦星は言いながら内心では、やべえこの人めっちゃ胸大きい、し可愛い……、などという超失礼なことを思ってしまっていた。

 それはそれとして、彦星は少し不安になる。やっぱりすぐにあの手紙のこととか聞かれてしまうんだろうか?

 彦星達は近場の席を見つけて腰を下ろした。偶然にもその空いていた席は窓際で外の桜が綺麗に見える位置だった。

 「……。」

 「……。」

 互いに無言。何コレ? 彦星は目の前に女の子が座り緊張した。

 そして、無言は桜雅の言葉によって打ち消される。彼女は意を決したかのような声で、

 「きょ、今日は、……良い天気ですね! 山本くん!」

 「は、はい! そうですね。」

 「ですよね。 私はとっても晴れの日が好きなんです!」

 「僕も晴の日は好きですよ。良いですよね。気分が浮き立つようですよね。」

 彦星は言ってから何いってんの僕? と自分で突っ込んでしまったくらいにおかしなことを言っていた。

 「ははは……」

 「ふふふ……」

 二人はお互いにぎこちない笑いを交わす。遠目に見たら何とも怪しい二人であった。

 そこで桜雅が話し出した。

 「それで、その、手紙のことなんですが。どうでしょうか? 考えてくれましたか?」

 「え、ああ、うん。」

 彦星は、今までただ何となく生きてきた。彼女がどうとか、付き合おうとか、なぜかは分からないけれど、なんだかそれは遠い世界の出来事のような気がしていたからだ。

 「彦星さん……、と呼んで良いですか? 多分なんでと思われていると思うので理由を話して良いですか?」

 「うん。僕も聞きたいと思ってた。何で僕なんかを、……その、好きに?」

 「ずばり! 恥ずかしいんですが、彦星さんが好みだったからです! いや、そんなそれだけじゃないんですよ。でも、わたしは彦星さんのことを今までの3ヶ月間ずっと見てきました。 それで優しいところもたくさんあって、それで……」

 と続ける雅を彦星は見ていた。何だろう、と彦星はぼんやりと思った。なんだか、初めての気分だった。彦星は今まで話してきた女の人と、この人と何が違うんだろうと、少し不思議に思った。

 「ありがとう。」と彦星は言った。

 「でも、あなたは、とても素敵な女の子です。きっと、いや、絶対に僕よりもあなたにふさわしい人が、あなたのすぐ傍にいるはずです。」

 「いや、そんなことないです! わたしは、他のだれでもない、山本彦星さんが好きなんです。他の人じゃありません! 確かに、この世には彦星さんより素敵な人がいるかも知れません。でも、私がすきなのは彦星さんなんです!」

 ここら辺で、食堂がざわつき始めた。雅の声が大きくて、その内容が周囲に丸わかりだったからだ。

 「ま、まあ、桜さん落ち着いて。丸聞こえだから。」

 「えっ? ……ああ! うあああ! ……忘れてた。」

 穴があったら入りたい。ブラジルに行きたい。そんな様子で机に突っ伏してしまった。

 だが、ここでさらなる事態が彦星を襲った。




 「おいおいおいおいぃぃぃぃいいいい! ああ? 何だてめえらこんなところで何、なめたまねしてんだ、おい、そこのくされ野郎。 あ?」

 彦星は大変驚いた。まず、こんなチンピラがいたことに驚いたし、自分が絡まれたことにも驚いた。

 「ちょっと待って! いきなり何なんだよ!」

 と彦星が言うと、

 「前田くん!? なんでここにいるのよ!」

 「いや、雅さんの様子がおかしいから親衛隊みんなで雅さんをこっそり見張ってたんです! するとなにやらこの男が辱めをしているようなので!」

 「余計なお世話よ! 彦星くんは私が呼んだの。 だから邪魔しないで。」

 彦星は全くそうだ。と情けなさ過ぎることを考えていた。

 「いいや、それはいいとしてもですよ! 俺はこいつが告白されていたのが納得いかねえ!」

 前田、と呼ばれた男は大柄な男だった。彦星はやせているから、対して体格がより大きく見える。

 そして、どうやら彼はこの桜雅の親衛隊をしていることが分かった。そして告白を聞いた彼はこうして怒り狂っていると言うわけだ。ただの逆恨みである。

 「俺はな、みやびちゃんが大好きで親衛隊にまで入ったんだ。だのに親衛隊にすら入っていないお前が、みやびちゃんに告白されてるなんて絶対認めねえ!」

 彼はそう言うと突然僕に殴りかかってきた。

 「死ねええええ!」

 一瞬、全てがスローモーションになった。彦星くん! という桜雅の叫び声と、鬼のような形相の前田君の右拳が見えた。

 僕は迷った。魔法を使うか、使わないか。彼は、襟を見ると一応上級生であることが分かる。怖い。でも、目の前で好きと言ってくれた女の子の前でかっこ悪いとこ見せたくない。

 ――身体強化! 彦星は脳の中で魔法のトリガーを唱えた。

 通常、魔法と言うのは、アバ○ケダブラ! みたいに杖を構えて呪文を唱えるというものではない。だが、言葉がトリガーになることは確かだ。ただし、口に出して言うのは幼稚園までで、その後は読書と同じように頭の中で言えばいい。それはトリガーと呼ばれている。トリガーを唱えることによってそれに応じた魔法を想起しやすくし、魔法を発動させる。また、魔法を発動させる魔法力は周辺の精霊の力を借りて行う。このプロセスの各段階で個人差があるため、魔法育成機関へ通う必要があるのだ。

 彦星は魔法が身体を覆うのを感じた。一旦自分が自分を上から眺めて、そしてそのまま身体の中に入り込んでくる感覚が彦星を襲った。と、同時に身体強化が正しくかかったことが分かる。

 彦星は素早く拳を左に避けた。

 「うらああ!」

 構わず彼は左足で攻撃してきた。僕はその足を掴んで、意識せずに床に投げ倒してしまった。彼はそこで一旦戦意を失ったようだった。しばらく黙っていると、彼はのそりと起き上がって、

 「くっそ! 覚えてやがれ!」

 と吐き捨てて他の連れたちと去って行った。

 彦星は未だ恐怖で震えながらも、それをかろうじて表には出さずにいられた。そこへ桜雅が近寄ってくる。

 「大丈夫ですか!? すいません、私の関係者達が迷惑かけて! 今度きちんと言っておきます。」

 彼女はおろおろしながらも謝ってくれた。ストレートの髪が揺れる。

 「いや、全然平気だったけど、その……。」

 彦星はここまで言って、言葉が詰まった。可愛いとは思ってたけど、親衛隊がいるとは思わなかったのである。

 すると、彼女の方から口を開いてくれた。

 「わたし実は親衛隊なんていうものにつきまとわれてて。ほんとに迷惑なんですけどね! でもなかなか突き放せなくて……。」

 「ああ、そうなんだ。」

 「はい。でもありがとうございました! 追い払ってくれて。彦星さんは強いんですね!」

 彦星はつい赤くなってしまう。女の子にこんなことを言われたのは初めてだった。

 ありがとう、と小さな声で彦星は返すと、

 「あ!! もうこんな時間です! 授業が始まっちゃいます! また今度会いましょう!」

と、言いながら彼女は小走りに食堂を出て行った。女の子走りだった。

 後に残った彦星は考える。

 まずラブレターの返事を考えなくてはいけないし、彼女には親衛隊が付いているということも考えなくちゃならないし、何よりも頭が痛いのは前田とかいうすこし可哀相な人のことである。こちらが身体強化を使っているのに向こうが使わなかった道理なんてないだろう。ということはあの人は1年の彦星よりも超基本的な魔法、『身体強化』が劣っていたということになるし、何よりそれ以外の物理干渉魔法を使えない、知らないということにもなる。

 彦星は、はっきり言って桜雅が好みのタイプであった、が、親衛隊とかのことを考えると付き合うにはちょっと危険かも知れない。

 そんなことを彼は床に散らばるうどん(180円)を見ながら考えた。

 「おばさん! これ前田につけといてくんない?」

 「ばか言うんじゃないよ! きっちり掃除して、新しいの買いな!」




 午後の授業はホームルームだった。どこの高校でもホームルームというものは青春の一ページに違いないようで、彼らは来る文化祭に向けて議論を交わさんとしていた。僕もなんとなくテンションが上がってきて、誰かが言った、お化け屋敷! という案を僕は、

 「はあ、お化け屋敷とかむりでしょ。暗幕とか面倒くさ過ぎるし。」

と言って、「じゃあ、お前はやらなくて良いよ」とクラス中から責められた。ちょっと正論でリア充をぶっ飛ばしてやろうかと思っただけなのに! みんなそんな言わなくても! みたいなこともあったが、それ以外は他の高校生達と同じような感じだった。

 「こらぁ! 山本くんはふざけてばかりいないでちゃんと意見出してよね!」

 いや、ちょっと違うことがあるかも知れない。うちのクラスの委員長が熱すぎる。パクりっぽいこと言ってみたけど、これはほんとにその通りで、うちの委員長はおそらく他の高校より絶対に熱いし、そして可愛い。もはやミス委員長日本代表である。

「うるさいな、委員長は。もっとおしとやかになれないの?」

 彦星は敢えて冷たく、委員長には言ってしまうという男子小学生みたいな部分があった。

 「そっちが真面目にやってないのがいけないんでしょ!」

 「怒るとシワが増えますよ。」

 そこまで言うとクラスからの視線が痛くなってきたのでやめておいた。委員長は若干涙目になって、副委員長に「あとやっといて」と遺言のようにいって机に伏せてしまった。かわいい。

 そんなこんなで彦星の文化祭は焼きそばの屋台をやることに決まった。




 家に帰り着くと彦星はカバンを掛けて、宿題を始めた。今日は古文だ。

 妹はいつも通りいないし、親もいつも通り帰りは遅いはずなので、彦星は手短に宿題をやっつけると何もすることがなくなった。少しだけ桜雅について考えてみる。

 桜さんには親衛隊がいて、その筆頭が残念な前田先輩。

 桜さんも大変だろう、あんな親衛隊がいては学校が暮らしにくかろうに。

 そんなこんなで今日と言う日も更けていくのだ。また妹は遅くなって怒られている。バカなのかあいつ。僕は何かあっても助けてやれないんだからな?




 その後、僕のクラスは焼きそばの研究、および出店の準備が着々と進んだ。みんな、文化祭が何だかんだ言って楽しみなようで、ワイワイ準備している。

 そんな中、だった。

 「こんにちわ、山本さん。デート……、、、しませんか?」

 桜雅が、そう言ってきたのは。

 時刻は、何時だったろう。覚えてないけど、帰る時間の少し前。

 「え?デート?」

 桜雅は、やや前傾になってやたらすごい目力だった。

 「はい! やっぱり、何事においてもデートって大事だと思うんです。っていうかデートしたいんです!……けど、どうでしょうか?」

 「ああっと……、いいよ。」

 「ホントですか!? ありがとうございます!!」

 歓喜の表情を見せる桜雅。

 「いや、桜さんみたいな人とデート出来るなんて、うれしいよ。いつ行く?」

 「今日です!!」

 「オーケーオーケーって今日!?」

 いきなりすぎるなオイ!

 「はい。思い立った日が吉日ですから。」

 桜雅にしては、中々学術的なことを言っていた。彦星は少し驚いた。

 「今日……? は、もう時間がない気がするんだけど。」 

 「いえ、あるじゃないですか、今から一緒に帰れば良いんですよ!山本さん電車ですよね? 私も駅までは道が一緒なんです。」

 「そうなんだ。」

 「はい。じゃあ、6時に校門で会いましょう!」

 そう言うと、桜雅は去って行った。

 デートか。果たして一緒に帰ることをデートという女子校生がそんなにいるのか、ちょっと疑問に思う彦星だったが、そんな些末なことは一瞬で吹っ飛んで、今はただ、少しいつもと違う帰り道を少しうれしく感じていた。




 僕は教室でそわそわしていた。どんな風にそわそわしていたかというと、先生が午後の授業をしているのにも関わらず何もないのに窓の方を向いていたり、プリントが前にいる人から回ってきてもぼーっとしてて気づかなかったりするぐらい、僕はそわそわしていた。 やばい。なんだコレ。帰るのが楽しみで仕方ない。あくまでも「帰る」のが楽しみで仕方がないのであって、別に家に帰ること自体は何にも楽しくないのだが。とにかく、彦星はこう思った。かつて今日ほど下校を待ち望んだ日があったかと。

 だが、こんな風にそわそわしているとろくなことがあるもんじゃない。六限、つまり最後の授業が終わった瞬間、委員長が話しかけてきた。

 「ねぇねぇ、山本くん。何かさ、山本くん隠し事していない? なんかさっきから怪しいよ?」

 「え? ……え? 何のこと?別に隠し事なんてしてないよ?」

 彦星はいきなり委員長に絡まれて驚いた。が、もちろん彦星は下校を待ち望んでいることは隠せている(つもり)なので平静を装い、応じた。

 「うそ! さっきからプリント回すの遅かったり、一人だけ窓の外見たり、なんか筆記用具片付けるのも超早かった!」

 「ぐっ……! そんなことはない……ですよ? っていうか委員長自分のことどんだけ見てるんですか! 怖いんですけど!?」

 「そ、それは……別にいいでしょ! あたしは委員長なんだから!」

 おいおい、それはいわゆる職権乱用だろ。

 「ま、まあそんな訳で、あたしには山本くんが何か隠しているなって分かっちゃうの。だから観念して教えてよ。何かあったの?」

 今日に限ってなんでこんな面倒くさい目に遭わなきゃいけないんだ、と彦星は思いもしたが、むしろ思い切って言ってやることにした。本当はあまり人に知られたくないが、自慢したくもある。

 「ふ、ふん。まあ、別に今日ちょっと待ち合わせをしているんだ。」

 「待ち合わせ? それでそんなに喜んでるって……、まさか……デートなの?」

 「ま、まあそんな感じ。」

 言ってから自分で、いやちょっと違くね? という声があがったが、他人に話すときは盛るのが大切なマナーである。

 「まあね? もちろん男じゃなくて女の子と? 誘われちゃって? デートの待ち合わせしてるんだ。」

 どう考えても嘘っぽいこの話をすると、委員長は大げさに驚いていた。

 「……! 山本くんが、デート……! どうせ相手は実は妹でした、とか言うんでしょ。」

 「いや、それが桜雅っていう……」

 「うそっ。あの親衛隊がいる桜さん!? どうして山本くんが桜さんと。」

 純粋に驚く委員長。

 内心。あ、やばい。コレは委員長から情報が垂れ流しになる予感しかしない。委員長のメガネが情報漏洩マシーンに思えてきた。

 「あっ、委員長、ほら先生が呼んでる。手伝って欲しいらしい。」

 「そんな、まだ話が終わっていないでしょ……、あ、先生今行きますね。」

 彦星は先生へ輝く笑顔を向ける委員長を見ながら、こう聞いた。

 「そういえばさ、委員長って名前なんて言うんだっけ?」

 また、こちらを振り向く委員長。

 「知らなかったの?」

 情けない物を見るような目を向けてくるが、今まではずっと委員長ということしか知らなかったのだ。

 「あたしは加賀知美ともみ 何で名前知らないかな?」

 そう言って委員長、又の名を加賀知美は先生のもとへ走り去った。

 同時に僕のプライバシーのようなものも走り去っていった気がしてならない。

 でも、やっぱり僕は下校が楽しみで、ならなかった。




 待ちに待った下校の時間帯がやってきた。挙動不審な僕は加賀さんにジト目で見られつつも、内心そんなことはどうでも良いくらいに楽しみで仕方なかった。

 が、そう易々と人の幸福を問屋は下ろしてくれない世の中である。僕は約束の6時になる30分前ほどには校門に着いたのだが、そこに待っていたのは前田くんだった。

 ……。

 って前田くん!?

 「おう、来たな山本。」

 校門前まで走ってきた僕にやたら親しげに手を振ってきた。

 「なんで前田先輩が?」

 「実はな。残念ながら桜さんは今日はどうしても早く帰らなくちゃいけなくなった、と言って先に帰って行ってな、それを伝えるように言われたんだ。」

 「ああ、なるほど。」

 さすがに校門に来て待ち合わせしてる人が男ってのは、心をえぐりに来るシチュエーションだった。

 だが、桜さんは用があって帰ったらしいし、しょうがないか。

 「ええと、じゃあ僕はこれで帰りますので、それじゃあ失礼します。」

 彦星は無難に逃げるために最善の返答をしたつもりだった。だが、

 「まあ、そう言うなよ後輩。どうにもお前と桜さんにはなにかあるようだし、ちょっとそこまで付き合えよ、な?」

 彦星はこのとき本当に後悔した。やばい、捕まってしまった。どうする?

 その後、彦星は彼と近くの公園にやってきていた。街角によくある普通の公園。滑り台と砂場とそして、僕たちが使っているブランコがあるだけの公園で、人は他には居なかった。

 「まあ、飲み物でも飲めよ。」

 と、前田先輩は先ほど公園に来る途中でコンビニで買った缶コーヒーをつきだした。

 「お前、名前はなんて言うんだっけ?」

 ここまで来ていて名前は知らなかったのか。凄いな。先輩って凄い。

 「あ、えっと山本彦星と言います。すいません。」

 「なあ、お前は。」

 そう言ってから、前田先輩は少し言葉を止めた。あたりを落ち着き無く見渡してから、よく聞き取れない声で、

 「お前は、桜さんと付き合ってるのか?」

 と聞いてきた。

 僕はなぜ、こいつがそんなことを言うのか今一つ理解出来ず、

 「え、あ、いいえ。全然違いますよ。ただの友達です。」

 と答えた。

 「そうか、そうだよな。付き合ってるわけないよな。なんてったって釣り合ってねえしな!」

 がはは、と大きな声で笑う先輩に、僕は若干のショックを胸にそうですねー、と返す。

 「いや、親衛隊としてお前のことをどうしようかと思っていたが、気分が晴れて良かった。じゃあ、またな。」

 そう言って、前田先輩は公園を去って行った。何となく足取りは軽いように見える。

 僕は、そのまま公園で少し時間をつぶしてから、なんとなく逃げるように公園を後にした。

 先輩に目をつけられていた、という事実にすくみ上がっていたが、どうやらそこまでの敵意はなかった。

 何だったんだろう?

 そう思いながら彦星は帰途を急いだ。

なんとなく投稿させて頂きました。もし読んで頂けたら恐縮です。

今回は、初めての投稿ということで、短いです。ぜひ酷評お願いします。

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