第五話 魔法
魔法使いかぁ……。実感とか何もないのだけど、近接戦闘から離れられそうなので少し気が楽になった。
目の前で横たわる頭の潰れたゴブリンを見ていると、ちょっと近寄りたくない。戦闘は距離をとって一方的に安全に行いたいのだ。
それにしても運が70とか飛び抜けているのだけど、出来るものならHPかMPに割り振りたい。バランス悪すぎるだろう。
「魔法の詳しい説明とかないのかな……」
バサバサバサッ
僕の言葉に反応した『冒険の書』が新しいページを開いた。たまに便利に思える時がある本である。動きが止まり開かれたページには魔法の章と書かれていた。
魂浄化 使用MP2
邪なる者の魂を浄化する魔法とされる。効果は敵1グループを対象とすることができ、邪なる者を光の彼方に消し去ることが出来る。但し、失敗する場合もありその確率は不明。成功した場合、敵は文字通りこの世界から消え去る。また、戦闘終了後の経験値は手に入らない。
「今の僕のMPは10だから、この魔法魂浄化は5回使用できる訳か。魔力の回復はどうなったら行われるのかな。まぁ普通に考えるなら自然回復とか? なのかな」
ところでせっかく覚えた魔法なのだけど、最後の文章を見てがっかりしてしまった。
『また、戦闘終了後の経験値は手に入らない』
ハズレ魔法を覚えてしまったのかもしれない。まぁ、レベル1で覚える魔法だし、所詮はこんなものなのだろう。
「全く! レベルを上げたいのに、経験値の上がらない魔法とか意味ないじゃないか!」
希望を言えるのなら回復魔法を覚えたかったな。休める場所がまだない以上、体力の回復や怪我の手当ては非常に重要だ。はっきりいって生死に関わる。
「しょうがない。またゴブリンを倒すしかないのか」
1体のゴブリンを倒すのも大変だったというのに、次は何体倒せばレベルが上がるのだろうか。ゴブリンって経験値どのくらいあるのかな。確か次のレベルアップまで50って書いてあったよね。
バサバサバサッ
『冒険の書』が僕の考えに反応してページを捲り始めた。まだ何か新しいことが書かれているのかもしれない。
開かれたページには魔物図鑑と書かれていた。これはあれか。倒した魔物の情報が記載されていく的な奴か。
おー、これはまたなかなか便利な機能かもしれない。出来れば弱点とか気をつけた方がいい注意点とかもあったら尚嬉しかったけどね。
ゴブリン
HP:20
MP:0
経験値:10
ゴブリンのくせに意外にHPあるなぁ。僕と10しか変わらないのかよ。とりあえず、経験値が10と書いてあるから5体倒せばレベルアップ出来るっぽいな。次のレベルアップでは是非とも回復魔法を覚えてもらいたい。水魔法で水を飲むというのもありかもしれない。
靴下の武器はあと一回ぐらいは使えそうだけど、そういえばゴブリンが木の棒を持っていたな。棒の方がリーチが長いし威力がありそうだ。先端が赤黒くなっているのはあまり気にしない方向でいこう。使えるものは使わせてもらおうじゃないか。それにしても魔法使いなのに木の棒が武器になるとは悲しい限りだ。
ちなみにセーブし直したところ木の棒は+10という意外に頼りになりそうな武器だった。
「た、頼むぞ相棒。棒だけにな!」
ダジャレを言っても誰も反応してくれないのはとてもさみしい。早速、人恋しくなってしまった。この世界に来てからゴブリンとデカイ鳥ぐらいしか見てないからな……。人、住んでるよね? いや、生きてるよね? なんだかすでに絶滅してそうな気がしてちょっと不安になる。
まぁいい。今は他に考えなきゃならないことがいっぱいある。そういえば魔法ってどうやって使えるのかな。言葉にすれば自動的に発動するのだろうか? どこかで試しておきたいな。何か都合のよいターゲットとかあればいいんだけどな。
ガサゴソッ
「!? ゴ、ゴブリンか!」
フゴッフゴッー、フガフガッ プギー!!
音のした方に振り返ると豚っ鼻の大きいイノシシがいた。牙が異常に発達していて明らかに危ない。鼻息も荒く充血しているかのような紅い瞳を向ける彼からはどうやら敵認定された模様だ。いや、彼女だったらごめんね。
何もしていないのにそんな血走った目で見るなよ!
「つ、次から、次へとこの森は危険生物だらけかよっ!」
僕の声に反応したのかイノシシは真っ直ぐに突っ込んできた!
ガスッッ!!
直線的な動きのおかげで間一髪かわすことができたのだが、先ほどまで僕が登っていた大きめの木の幹をがっつり抉っていった。うわぁー、これ当たったら死ねる……。
獲物に当たらなかったことに怒りを覚えたのか、すぐに反転するとイノシシはターゲットである僕を睨み付ける。いや、だから僕が何をした!
迷っている暇はない。そっちがその気ならやってやろうじゃないか! 僕はイノシシを見ると左手を突きだして魔法を唱えた。
魂浄化!
なんとなく、使い方がわかる気がする。イノシシを追い掛けるように光の粒子が囲いこむと体を包み込むように一塊になっていく。
プギー プギー プギィィィ!!
苦しそうな断末魔の声をあげたイノシシは次の瞬間、ブラックホールに吸い込まれるかのように光の中に小さくなって消えていった。
魔法成功だ。
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