タナトスの話
わたしが昔、古い図書館で、よく調べ物をしていた頃の話。夢中になって、眠ることも忘れて、起きていると。
どこからか馬のひずめの音が聞こえてくる。図書館の外へ行くと、大きな中庭で馬に乗っている人がいるようだ。
月の光に照らされて、わかった。その馬には首がなかった。馬に乗っている人は、手綱をひいて、こちらを見た。その体にも首がなかった。その体は鎧を身に着けた女性のようで、左わきに美しい顔立ちの頭を抱えていた。
馬の上で女性は、その抱えていた首を、高く持ち上げて、辺りを調べているようだった。
そしてとうとう、わたしは見つかった!
わたしは、振り返らないで走った。後ろから、ひづめの音が近づいてきた。図書館の入口へ入ると、大急ぎで扉に鍵をかけた。
外ではしばらく、馬の足音が聞こえていた。わたしは、きっと、あれはタナトスだなと思った。わたしの古い友人が、教えてくれたのだけれど、タナトスは戦争で負けた女騎士なのだという。今でも敵兵の気配を探して、夜に走っているのだそうだ。
タナトスから逃げるには、死んだふりをするか、そのまま眠ってしまうのが一番いいらしい。
ほら、また外で、馬の足音が近づいてきた。はやく目をつむろうね。