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身体測定の時間

重大なことを忘れていた。

中学でも高校でも入学して最初にやること。


そう、身体測定だ。


普通の身体測定なら問題はない。

いや、問題があるのは僕のほうなんだけど。


僕は男の子、つまり女子に混じって身体測定を受けるとなると一瞬で男だとばれてしまう。

困った問題だった。


「あやめー、次の時間って身体測定だよね?」

「う、うん……」

「どうしたの?顔青白いけど大丈夫?」


ん、ちょっと待った。


あんまり使いたくはないけど、これはいけるんじゃないかな?

……仮病。


「あ、ちょっとおなかが痛くてその……」


なんとなく思いつく理由を口に出す。


「あーもしかしてあやめ今日あの日なの?」

「あの日?」


あの日ってなんだろう。

どの日のことだ……?


「もぅ~恥ずかしがらなくてもいいのに女の子同士なんだからー」

「えっ?ええと、どういう」

「女の子の日、でしょ?」


……。

忘れてた。


女の子の日、つまり、その……生理のことだよね。

な、なんかとたんに恥ずかしくなってきた。


「ちょ、今度は顔真っ赤だけど大丈夫?熱あるかもしれないから保健室で休んだら?」

「女の子の日……女の子の日……」

「もうどうしたのよ、ほら保健室いかないと!」


そうして僕は楓に保健室へと連れてかれたのだった。



◇



結局身体測定が終わるまで、僕は保健室で休んでいることになった。

桜ノ宮女学院には保健室は二つあり、ベッドで休む保健室と、測定などに使う保健室だ。


だから僕は今一人、じゃなくて二人だった。


「あやめー、私暇になっちゃったー」

「もう、そんな事言われたってどうすればいいかわからないよ」

「あやめの事聞きたいのだけれど、だめ?」


ふと、菫に聞かれたけど僕のことを話すべきなのかお姉ちゃんの事を話すべきなのか迷ってしまう。


「いいけど、何が聞きたいの?」

「そうねー、何でこの学院に入ろうと思ったのかとかだめかしら?」

「桜ノ宮女学院に入った理由かぁ」


正直に話すべきなのかな?

そうすると菫に僕が男だってばれちゃうけど。

でも菫は幽霊だし、他の人にばらしたりとかはないと思うし本当のことを伝えてもいいのかもしれない。


僕自身、この桜ノ宮女学院に入学して自分が男であることや本当はみんなが思うあやめではないことを誰かに伝えたかっ


たのかもしれない。

そんな勢いでつい菫に話してしまった。


「ええとね、どこから話していいのかわからないけど実は僕は男なんだ」

「はい?」

「え、だから男なんだってば」

「どこからどう見ても女の子だけれど?」


あろうことか僕が男だと信じてくれない様子。

どうしたものだろう。


と、僕が悩んでいたその時だった。


「えい!」


スカートがふわりと浮き上がる。

そしてパンツが丸見えに……なった。


もちろんまあ、そのふくらみも見えたわけで。


「わ、ほんとだ……」

「うぅ……」

「ご、ごめん、泣かないで」


泣きそうだよ。

もう泣きたいよ、ここから消えたいよ、穴があったら入りたいよ!


「まさか本当にあやめが男の子なんて思わないじゃない、こんな可愛いんだから!」

「でも男の子だって言ったじゃん……」

「ご、ごめんってば」


なんで僕幽霊にスカートめくりされてるんだろう。

というかなんで男なのにスカートめくりされてるんだろう。


……。

…。



◇



「なるほどね」


僕の話を聞きながら、一連の流れを理解した様子で菫は相槌を打っていた。

一通りこの学院に入学することになった経緯を伝えてみたのだ。


「つまり、亡くなってしまったお姉ちゃんの代わりになってここに入ったわけって事かしら?」

「そんな感じ、でも男だから身体測定とかやったらすぐバレちゃうでしょ?」

「うーん、まあ確かにそうね」

「だから入学したてなんだけど、結構滅入っちゃってて……」


実際これからもこういう問題があるといちいちしんどい思いをするのはちょっと嫌なところかな。


「そうだったのね、それはとても辛かったわね」

「うん、お姉ちゃんがいなくなっちゃったことがいまだに信じられなくて……」

「でも、この学校に通うことがお姉さんの遺言でもあるんでしょ?」


遺言なのかなぁ、お母さんに言いくるめられたような気もするけど。


「とにかく今はがんばって勉強してがんばって卒業しないといけないんだ」

「なるほどね、私もそしたら応援するわよ!」

「菫の応援は応援って感じしないんだけど」

「応援は応援よ!」


なんか心もとないけど頼りにしていいのかな。

でも、僕の話を聞いているときの菫の表情は真剣だった。

まだ出会って二日くらいだけどあんなに真面目な顔つきになったことはなかったし。


『トントン』


あれ、誰か来たみたいだ。

誰だろう?


「はい、空いてますよ」

「あ、あやめさん、大丈夫ですか?」


姫野さんだ!


「うん、もう大丈夫。ごめんね、迷惑とかかけちゃった?」

「ちょっと心配になって見に来ちゃいました、でも全然迷惑とかじゃないです」

「そっか、よかったー」

「もうそろそろ授業の時間なので体調が良くなってたら一度戻ってくるように先生にお見舞いがてらに頼まれたんです」


そうだった。

あんまり長く休憩するって事は伝えられてなかったし、そろそろいかないと!


「ありがとう、今から向かうね」

「いえいえ、あやめさんは私の大事なお友達なので♪」


天使がいました。

今なら……いける!!


「あ、ありがとう」


なでなで。


なでなでなで。


なでなでなでなで。


「あのっ、あやめさん……?」

「わっ!?」


あれ、僕は何を……。

僕は……。

……。


「ご、ご、ごめんなさい!!なんかなでなでしちゃってごめんなさいー!」

「え!あの、大丈夫です!むしろ……」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」


姫野さんに嫌われちゃうーー!


「あやめさん、いきなりでちょっとびっくりしちゃいましたけど嬉しかったです、私あんまり人に撫でてもらったことないので」

「ごめんなさいごめんなさい!……え??」

「あの、じゃあ教室で待ってますね。じゃあまた♪」


あれ……。

行っちゃったけど。

これってなでなでOKって事?


いや、駄目だろう……普通に考えて。


それからのことは熱があったのかなんなのか良く覚えてない。

そんな時間を過ごしたのだった。

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