第一章 午前九時半の帰り道
第一章 午前九時半の帰り道
病院の自動ドアを抜けると、朝の日差しが目に刺さった。
まぶしい。
町田凪は目を細め、肩に掛けたバッグを持ち直した。時刻は午前九時半。駅までは歩いて十五分。電車に乗って、降りて、家まで歩いて、それからようやく眠れる。
まだ遠い。
夜勤が終わるたび、家と病院が隣同士だったらいいのにと思う。実際に隣に住んだら、休みの日まで病院が見えるのは嫌だと思うのだろうけれど。
歩道を、駅へ向かって歩き始めた。
昨夜、何度もナースコールを押した患者は、朝食を半分ほど食べていた。夜中には、もう何も食べたくないと言っていたのに。
少し安心したところで、別のことが気にかかる。
あの人のこと、申し送ったっけ。
明け方に眠れたことは伝えた。朝の様子も話した。では、その前に言っていたことは。
凪は歩きながら、申し送りの場面を頭の中で再生した。
自分が話して、日勤の看護師が頷いて、途中で質問されて、それに答えて。
……うん。言った。
言ったはずだ。
信号が赤になり、足を止める。
隣に立ったスーツ姿の男性が、腕時計を見た。その向こうでは、女性がスマートフォンを片手に、誰かと待ち合わせの相談をしている。
「じゃあ、お昼に連絡するね」
明るい声だった。
これから働く人たちの顔だ、と凪は思った。
きちんと整えた髪。まだ皺の少ないシャツ。今日の予定を話す声。
自分は今、どんな顔をしているのだろう。
少なくとも、昼の予定はない。
寝る。
できれば、誰にも起こされずに。
信号が青に変わった。周りの人につられて歩き出す。
記録は全部終わらせた。頼まれていたことも済ませた。返し忘れたものはない。ポケットの中も、着替える前に確かめた。
そこまで考えて、今度は自分のロッカーをちゃんと閉めたか気になった。
閉めた。
それは覚えている。
もういい。仕事は終わった。
そう思った直後には、また患者の顔が浮かんでいた。
体は病院を出ているのに、頭だけがなかなかついてこない。毎回のことだった。
家に帰ったら、まず靴を脱ぐ。それから顔を洗って、着替える。何か食べるかどうかは、そのときに考えよう。
冷蔵庫に何があっただろう。
卵。
あとは。
思い出そうとしたところで、前から来た人の肩が、視界の端に入った。
避けようとした足が、半歩遅れた。
どん、と肩に衝撃が走る。
バッグがずれ、凪はよろけた。反射的に足を踏ん張る。
「あ、すみません」
謝ってから、顔を上げた。
凪がぶつかったのは――。
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① ヘッドホンをつけた若い男性。
第一の選択肢を選んだあなたは、第二章へ進んでお読みください。
② 自分と同い年くらいの、意識高い系の女性。
第二の選択肢を選んだあなたは、第三章へ進んでお読みください。
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