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第7話 帰還

もう否定はできなかった。


その夜、女将を帳場に呼んだ。彼女は来た日に私の顔を見て涙ぐんだ女性だ。彼女なら知っているはずだった。


「奥さん」と言った。「正直に教えてください。あなたは、私を知っていますね」


女将は長いあいだ黙っていた。やがて帳場の引き出しから一枚の古い写真を取り出し、私の前に置いた。


色褪せた写真だ。鳴神館の玄関の前で撮られたもの。二十数年前だろう。そこには若い頃の女将と、その横に一人の少年が写っていた。八つか九つくらい。よく日に焼けた痩せた少年。


その少年の顔は削られていなかった。


それは、子どもの頃の私だった。間違いようがない。目元。眉の形。口の端。鏡で毎朝見ている顔。二十年以上前の姿がそこにあった。


私はこの村にいた。この旅館の玄関の前で笑っていた。


「あなたは」と女将は絞り出すように言った。「この村の子どもでした。神社の下の家に、お母さんと、二人で暮らしていました。お母さんが亡くなって。あの夏祭りの後、あなたは村を出ました。遠い親戚に引き取られて」


「私は、なぜそれを覚えていないんですか」


女将は目を伏せた。


「村の、大人たちが。あなたに忘れさせたんです。あの夏祭りの出来事を。そして、それと一緒に、村のことも。何もかも」


「忘れさせた?」


「あなたが村を出る前、あなたは何日も、あの公民館に入れられていました。村の偉い人たちと、それから、村に来ていた医者のような人と。あなたが出てきた時、あなたはもう、私たちのことも、自分の名前以外のことも、何も覚えていなかった」


誘導された記憶。改竄された過去。心因性の健忘ではない。忘れたのではなく、忘れさせられたのだ。組織的に、意図的に。私という人間の子ども時代そのものを、村が消したのだ。


「なぜそんなことを」


「あなたが」と女将は震える声で言った。「あの祭りの夜、見てしまったから。あの子と、一緒に。神社の裏で、埋められているものを。そして——」


彼女はそこで口をつぐんだ。


「そして何です」


「それ以上は、言えません。本当に」


写真を、もう一度見た。子どもの頃の私。


『顔のない少年』。図書館で見た、澪と手をつないでいた、あの削られた少年。私は、あれが自分だと心のどこかで思っていた。けれど違った。あの写真の少年は私ではない。顔を残されている。


では、あの、顔を削られた少年は——


神崎蒼だ。


澪の双子。村に消された、もう一人の子ども。私の幼なじみ。神社の下の家に住んでいた私と、神崎家の双子は、いつも一緒に遊んでいたのではないか。澪と蒼と私。


あの夏祭りの夜。


私たちは神社の裏で村の秘密を見てしまった。その先に何が起きたのか。空白の中に、それはある。卒塔婆の文字が頭の中で鳴った。


『加害者は知っている』


この手が何をしたのか。もう、薄々わかり始めていた。けれど確かめなければならなかった。たとえどんなものであっても。

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