第11話 ジャガイモ王国の王子と、血を狙われる私
私は口の中に残ったさつまいもケーキの甘さを、
紅茶で無理やり流し込んだ。
(……生贄? 尊き乙女の血?
こちとら現世では成分献血の予約が生きがいの、
“歩く献血推進ポスター(非公式)”よ)
(そんなに血が欲しいなら、400mlしっかり抜いてから
「歯磨き粉」と「けんけつちゃんタオル」でも置いていきなさい!)
動揺は「モブ令嬢スマイル」で覆い隠す。完璧なポーカーフェイス。
(落ち着け。情報収集が目的。
収穫アリ。生きて現世に帰ってコミケも行くんだから――)
「……随分と物騒なベジタブル・ファンタジーね、キタアカリ嬢。
でも、どうしてそんな機密事項を私に?」
「……あなたが聞いたんでしょう?」
キタアカリ嬢はため息混じりに肩をすくめた。
そして続けて答えてくれた。
「私の家も代々軍人の家系。
イモ男爵家を守るのが役目なの。
……まあ、男爵本人からも『彼女を守ってやってくれ』と頼まれてるし」
「えっ? 伯爵のあなたを、格下の男爵がアゴで使ってるんですか?」
(イモ男爵、天然盾のくせにブラック上司!?)
「えっ、食いつくのそこ!?」
思わず素でツッコむキタアカリ嬢。
「普通は『男爵様、素敵……抱いて!』とかじゃないの?
彼なりにあなたを指の隙間から
こぼれ落ちるデンプン並みに案じてるはずよ」
(なんじゃそりゃ)
「例えば?」
「ベニハルカ嬢を舞踏会のパートナーに選んだのも、
嫉妬を煽る高度な作戦、とか」
(それはない! 断じてない! ただの天然ボケだろ)
「単に、私への関心がジャガイモの芽ほども無いだけよ」
「……まあいいわ。議論は平行線ね」
キタアカリ嬢はあっさり切り上げる。
「さて、そろそろあなたを帰さないと。
お屋敷までガードするわ」
こうして私は、
キタアカリ嬢の護衛付きで帰路につくことになった。
「ご親切に痛み入ります。
でも一点、どうしても解せぬのですが――」
「……なぜ伯爵のあなたが、男爵を守るのですか?
縦社会のバグですか?」
「……何を言ってるの?」
彼女は呆れ顔で返す。
「男爵は『ジャガイモ王国』の次期王位継承者よ」
(ああ、そうだった。野菜のスペックが
階級に直結する世界だったわね
確かに男爵イモはキング・オブ・ポテト!
……ということは、女王メークインや
煮崩れしにくい刺客も出るのか!?)
「何をブツブツ言ってるの?
安全に届けるから大人しくしてなさい」
「ありがとうございます」
窓の外を眺め、思考を巡らせる。
(――どこの手の者かは確認したいけど、
ここはキタアカリ嬢を使うべきね)
「尾行の話だけど……どこの不審者か、
突き止められないかしら?」
「部下にマークさせるわ。判明したら連絡する」
少しだけ口元を歪めるキタアカリ嬢。
「……でも、まずはあなたが動かないと始まらないの」
「尾行者も、野菜売りの格好で
道端に立ち尽くすだけじゃ限界でしょうし」
(……つまり、私が“釣り餌”ってことね)
「そうそう」
彼女はあっさり頷く。
「あなたが男爵邸へ帰れば、
ストーカーさんも安心しておうちに帰れるでしょう」
(扱いが雑だな、でもいい。その正体
――拝ませてもらおうじゃないか)
窓の外、街灯の陰に揺れる影。
私は馬車は乗りこんだ。
尾行者の気配はひんやりと背を撫でる。
――物語の次の幕が、静かに、しかし確実に動き出していた。




