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第31話:監査報告『ブラック企業(実家)と丸投げ(両親)』

なぜ元・ロザリアは、あそこまで歪んだモンスターになってしまったのか。 その「根本原因ルートコーズ」を探るべく、実家の教育方針を監査します。


そこにあったのは、現代社会でもよく見る「最悪の職場環境」でした。

直面した「DV(コンプライアンス違反)」という強烈なインシデント(不祥事)記録。

あれは、単なる過去の映像ログではなく、今もなお私の精神の底によどむ、生々しい毒だった。


あれ以来、私は育児という最優先タスクの合間を縫い、ロザリア(元)の記憶データを「監査」する時間を意図的に増やしていた。


原因分析(Root Cause Analysis)――。


なぜ、あのロザリア(元)は、あそこまで合理性を欠いた「モンスター社員」……いや、「モンスター令嬢」へと変貌したのか。その根本原因ワースト・プラクティスを特定し、構造的に理解しなければ、「再発防止策(=私が同じ過ちを繰り返さないための絶対的な戒め)」も立てようがない。


その日、ロザリーが午睡ごすいに落ちた後の静かな居間で、私はマリエルと共に針仕事に没頭していた。(第24話~で修得した)まだおぼつかないガタガタの裁縫スキルで、ロザリーの服の補修(という名の雑務)を行う。


チク、チク、と乾いた布に針が通る単調な音。


私はその音に意識の表層を任せながら、精神の大部分を「監査対象メモリ」――ロザリア(元)の幼少期、その「育成環境(実家)」へと深く潜行させた。


(監査対象:ヴェルデ公爵家。監査項目:両親による教育マネジメント方針)


まず脳裏に浮かび上がったのは、母、ミランダ・ヴェルデ公爵夫人。

完璧な美貌を、氷のように完璧な淑女の仮面で覆った、社交界の絶対的女王。


記憶の中の幼いロザリアが、小さな指を赤くしながら必死に仕上げた刺繍ししゅうを、ミランダに差し出している。それは子供の作品とは到底思えぬほど、緻密で美しいものだった。

だが、ミランダはそれに温度のない一瞥いちべつをくれただけ。


『……まだあらが目立ちますわね。この程度のレベルで満足なさらないように。やり直しなさい』


その声には、ねぎらいも、驚きも、喜びもない。ただ、事実アラの指摘だけがある。


一度たりとも、「上手ね」という肯定的なフィードバック(評価)を受けた記憶が存在しなかった。

ダンス。歴史。政治学。

どれだけ過酷な成果ノルマを達成しても、返ってくるのは「できて当然ですわ」という冷ややかな承認(という名の無関心)だけ。


――典型的な「減点法マイクロマネジメント」だ。評価者マネージャーとしての能力が著しく欠如している。


次に、父、ヴァルカン・ヴェルデ公爵。

冷徹な統治者であり、国内トップの公爵家当主。


記憶の中のロザリアは、王族との乗馬会で、落馬寸前の馬を見事にぎょし、完璧な馬術を披露している。

ヴァルカンは、その緊迫した様子を、無表情のまま満足げに眺めていた。


『ふむ。王妃教育の成果としては順当だな』


……それだけ。

父が見ているのは、恐怖に耐え、必死に努力したロザリア姿プロセスではない。

ただ、「王家への政治的資産(投資)」として、どれだけの「仕上がり(リターン)」になっているか。その「成果バリュー」だけを値踏みしている。


(……ダメだ、これ)


私は内心で、音を立てずに、しかし盛大にため息をついた。布を打つ針の動きだけが、かろうじて現実の私を繋ぎ止めている。


(……この実家、完全に“ブラック企業(ワンマン経営)”そのものだ)


母親(直属の上司)は、明確な評価基準(KPI)も示さず、ただ「完璧(できて当然)」という曖昧な精神論スローガンで、部下ロザリアの成果物をひたすら「減点法」で突き返し、疲弊させる。


父親(CEO)は、「成果主義」を謳いながら、その実態は「成果(王妃教育)」という最終結果しか見ず、プロセス(本人の努力)やモチベーション管理(心のケア)は一切行わない。「丸投げ」だ。


(成果主義はいい。だが、フィードバック(評価)があまりにも雑すぎる)


これでは社員ロザリアのモチベーションが維持できるはずがない。

承認も、正当な評価も、達成感ボーナスもない。

あるのは「ヴェルデ公爵家(会社)の看板」という、息苦しいだけのプレッシャーだけだ。


「……ロザリア様? 針が止まっていますが」


不意に、隣から澄んだ声がかかり、私は過去の汚泥から現実へと引き戻された。

ハッと顔を上げると、マリエルの透き通るような青い瞳が、私を不思議そうに見つめている。


「あ、いえ。ちょっと……糸が、絡まっただけです」


私は慌てて取り繕い、再び無骨な針を進める。


(この環境ブラックで育ったから、あんなにも歪んだ“承認欲求(モンスター社員)”が生まれたのか……)


なるほど。原因ロジックは理解した。

だが、と私は思考を締めくくる。


(いや、同情の余地はある。だが、だからといってDV(コンプラ違反)が許される道理は、一切ない)


原因が何であれ、マリエルがその歪みの被害者であるという事実は、決して変わらないのだ。


私は、針先に集中するふりをしながら、隣にいるマリエル(=DVの最大被害者)の静かな横顔をそっと盗み見た。


――私の『人生補償プロジェクト』は、まだ始まったばかりなのだ。

お読みいただきありがとうございます。


「減点法の上司(母)」と「成果しか見ない社長(父)」。 典型的なブラック企業の構図です。 褒められることはなく、完璧以外は認められない。これでは社員ロザリアのメンタルが摩耗するのも当然です。


「承認欲求の暴走」は、承認が得られない環境が生み出した悲劇でした。 ……とはいえ、だからといって部下マリエルに八つ当たり(DV)していい理由にはなりませんが。


原因は特定しました。次は、なぜその矛先が「マリエル」に向いたのか。 次回、『監査報告『愛ではなく、合格通知(と、最悪の手段)』』。 彼女がマリエルに求めていたものの正体が判明します。


「いるいる、こういう上司……」「実家がブラックすぎた」と共感していただけた方は、 ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をお願いします!

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