第二十六話 ついに俺たちは港町の中に入れたゴブ! 歓迎されちゃって照れるゴブなあ!
領主と一緒に戦車に乗って、草原を進んでいく。
戦車は装甲付きの無限軌道じゃなくて、馬が車輪付きの大きなリヤカーを引っ張るタイプだ。
つまり横から丸見えで上もふさがってない。
あと狭い。
領主はガマガエルみたいにでっぷりしてるし〈ストレンジャーズ〉全員で乗ってるから狭すぎるゴブ! 乗った時にキツくてオクデラが『オデ、デカイ。オデ、走ル』って遠慮してたし! 不憫すぎて『なんとかなるゴブ!』って乗り込んだけどちょっと後悔してるゴブな!
でもでも狭いから腕にシニョンちゃんのおっぱいの感触が当たってこれが正解ゴブ!
領主? なんかエロそうだしアニキとオクデラをそっちに立たせてブロックさせてます! やっぱり見た目、第一印象って大事だよね! 俺ゴブリンだけど! ゲギャギャッ!
ガマガエル、おっと、領主もオクデラも重いのに、四頭の馬は問題なく荷台を牽いている。
最後尾の馬に乗った御者は、たぶんわざと戦車をゆっくり走らせてる。
『見てたぞ変なゴブリン! すげえ強かったな!』
『巡礼者さま! 俺、感動しました!』
『道を開けろ! 英雄たちのお通りだぞ!』
戦場の後片付けをしてる冒険者や警戒役の兵士たちから歓声を送られる。
領主は手慣れたものでときどき手を振ってた。
マネして俺も手を振ってみたら大ウケだった。
オクデラとアニキに手を振らせてもウケたけど、一番はシニョンちゃんだ。
さっすがシニョンちゃん、モテモテゴブ! でもおまえらにシニョンちゃんは渡さないから! ほらゲスい目で見てるからシニョンちゃんが怖がってるゴブ! 魔性のおっぱいに目線が吸い込まれるなんてまだまだゴブなあ! ゴブリオたまにしか吸い込まれないゴブ!
歓声を浴びながら、戦場になった草原を抜けた。
農地の先に、港町の石壁と半分開いた門が見える。
俺たちの左右には、騎馬兵の一部が馬を走らせていた。
あと冒険者ギルドのコワモテのおっさん。おっさんは徒歩で。いや走ってるけど。
『ほう、アニキは港町の通行許可証を持っているのか。シニョンは巡礼者で、ならば問題ない。残るはゴブリオとオクデラだけだな。おい』
『はっ! 先行して準備してまいります!』
『領主様、よろしいので?』
『ははっ、冒険者パーティ〈ストレンジャーズ〉のことを教えてくれたのはお主ではないか。英雄を迎え入れるのに何の心配があろうか』
コワモテのおっさんは走りながら領主と会話してる。
おっさん体力あるゴブな! あと領主と普通に話してて知り合いなの? おっさん実は偉い人?
領主に言われて、騎馬兵が一騎先行する。
門まであと少しだから、通行許可証を準備するんじゃなくて単に俺とオクデラのことを伝えに言ったんだろう。
けっこうギリギリゴブな! ゴブリオとオクデラ、前に港町に入ろうとして断られたんだけど大丈夫? 領主と一緒だし大丈夫だよね? オクデラも【人族語】話せるようになったし、俺たちはニンゲンに危害を加えないどころかニンゲンの街を守ったし大丈夫だって信じてるゴブ!
門が近づいてくる。
領主が乗る戦車、それに騎馬兵を前に、門は大きく開いた。
よーし、ついにゴブリオ、港町に入れるゴブ! 〈果ての森〉の街でシニョンちゃんが港町のことを聞いてからここまで、ほんと長かったゴブなあ! まあ漁村に入れたからたいして感慨もないんだけど! ハハッ!
石壁に近づくと、上にいたニンゲンたちから歓声が飛んでくる。
どうやら俺たちの戦いを見ていたらしい。
めっちゃ歓迎されてるゴブ! 手を振ったら『うおおおおおっ!』ってまるでアイドルゴブなあ! でも女の人は海上に避難してて男しかいないからめっちゃ野太い声だったけど! ゴブリオそっちの気はないゴブ!
歓声を浴びながら門にたどり着いて、そのまま止まることなく素通りした。
ヒュー、VIP扱い! さすが領主と一緒に乗ってるだけある! 門兵たちが並んで拍手してくれるのも気分いいゴブ! ダメダメ、調子に乗ったらだいたいヒドい目に合うからね! ゴブリオ学習したゴブ!
門を抜けて、石壁の下の薄暗い空間を通る。
外に出ると、明るさで目がくらんだ。
一瞬目を閉じて、また開くと。
門の前の広場に集まっていた男たちが、俺たちを拍手で迎えてくれた。
俺はゴブリンで、オクデラはオークなのに。
でもあいかわらず男だらけで歓声が野太くてぜんぜんうれしくなんてないんだからね! 『ありがとう』とか『よくやってくれた!』なんて涙ぐんだ住人から言われてもうれしくなんてないゴブ! ちょっと目にゴミが入っちゃったけど!
領主と俺たちを乗せた戦車は進んでいく。
女子供や老人は海上に避難させてたらしいけど、港町にはちらほら男たちの姿があった。
きっと見まわりでもしてたんだろう。
ほら火事場泥棒がいるかもしれないからね! 誰も見てないから盗むとかヒドいヤツがいるものゴブな! ほーんと鬼畜生ゴブ! ゴブリオ鬼畜生だけどそんなこと考えもしないから!
石やレンガの建物、くすんだ赤い屋根。
まるで地中海あたりの港町みたいな景色だ。
ほとんど人を見かけないし、窓や戸は閉ざされて活気がないけど。
石畳の上を馬車は進んでいく。
そういやこれどこに行くゴブか? これで見物客が多かったら市中引き回しっぽいゴブなあ!……え、大丈夫? ゴブリオ見せ物じゃないし市中引き回しの上打ち首獄門とかシャレになってないゴブよ? そんな鬼みたいなことしないゴブな? 俺はゴブリンで小鬼だけどね! ハハッ!
内心のドキドキを隠していると、だんだん潮の香りが強くなってきた。
港が近づいてきたんだろう。
建物の間、道の先に海が見えた。
ありったけの帆船や小舟が浮かぶ、海が。
戦車の行き先は、デポールの街の港らしい。
音楽が聞こえてきた。
弦楽器っぽい音色と、キレイな歌声。
『ほう、一足先に迎え入れの準備をしておったか』
誰に言うでもなく呟く領主。
目を細めて微笑んでるけど、どう見ても悪徳貴族が悪いことを企んでる顔だ。
コイツ見た目で損するタイプゴブな! まあ俺ほどじゃないだろうけど! ほら俺、純真無垢だけどゴブリンだから! ピュアゴブリン!
視界が開ける。
海ぞいにはいくつかの大きな建物、たぶん倉庫やドックだろう。
船着き場に続く広い作業スペースに、人だかりができていた。
中心にいるのは一人の女性だ。
リュートだかギターだか、とにかく手持ちの弦楽器を弾いて、歌ってる。
尖った耳で。
あれエルフゴブな!? 俺、ドワーフも獣人もリザードマンも人魚もサハギンも見たことあったけど、エルフは初めて見たゴブ!
目を丸くして見つめてると、隣にいたシニョンちゃんがギュッとくっついてきた。
くっ、腕におっぱいの感触が! シニョンちゃんに嫉妬されてゴブリオの幸せ感がヤバいです!……ところで参考までに、いや俺はシニョンちゃん一筋だからほんと参考までに、エルフはエロフでしょうか?
そんなことを考えていたのはただの現実逃避だ。
避難から戻ってきた女性や子供、老人たちの中心にいるエルフが歌っているのは、さっきの戦いの様子だったから。
ゴブリンとオークと新種と巡礼者が、命を賭けて大群に立ち向かい、強敵を倒す感じの。
つまり〈ストレンジャーズ〉の英雄譚ってことゴブな! え、歌にするの早すぎない? そんでこれめっちゃ恥ずかしいゴブ!
俺たちに気付いたんだろう。
エルフは即興で節をつけながら、こっちを指し示した。
馬が止まる。
集まった女子供と老人と、避難民の護衛をしてた冒険者が俺たちを見る。
最初に領主が戦車を下りた。ふうふう荒い息を吐いて。
注目を浴びながら、領主が大声を出す。
『戦いは我らの勝利だ! 我が妻が歌った通り、善なるゴブリンとオーク、変異種のリザードマン、巡礼者! 彼ら〈ストレンジャーズ〉の活躍によって!』
まだ戦車に乗ったままの俺たちを紹介する領主。
船から下りて集まっていた人たちはざわついている。
なんか『え、さっきの歌は本当だったの?』『あれゴブリンよね? オークも……街に入れるなんて』『でも領主様が善なるって、それにさっきの歌が本当なら』って半信半疑で。
そりゃそうゴブな! ゴブリンとオークがニンゲンの味方でいいヤツだってすぐ信じられるわけないゴブ! 実際に見てた領主や兵士や冒険者は別だろうけど! いくら歌われてたって、ねえ? でも港町に入れるようになったんだし、ちょっとぐらい疑われてたってゴブリオ気にしないゴブ!
というか領主! あのエルフさんが『我が妻』ってどういうことゴブか!? こんな悪徳貴族っぽいガマガエルと清楚な美人エルフさんが夫婦って! ゴブリオとシニョンちゃんみたいで勇気づけられるゴブなあ! やっぱりニンゲンは見た目じゃないよね! 俺ニンゲンじゃないけど! あと俺たちまだ結婚してないけど! まだね、まだ! ゲギャギャッ!
そんなことを考えていた。
受け入れられないのはちょっと悲しいけどしょうがないと思うし、港町に入れるならいつかわかってもらえるって。
でも。
『オクデラさん! 無事でよかった!』
『デラっち! プティ、ちゃんと帰ってくるって信じてたんだよ!』
『女将! プティ! オデ、ミンナ守ッタ! オーク、殺シタ!』
人ごみの中から駆け寄ってくるニンゲンが二人。
二人を見て、オクデラが戦車から飛び出した。
本当か疑われてちょっと悲しそうな目をしていた領主とエルフの夫婦も、港に帰ってきた避難民たちも、驚いて目を丸くする中。
オクデラの胸にプティちゃんが飛び込んだ。
オクデラはたくましい腕で抱きとめる。
続いてプティちゃんごとオクデラを抱きしめる若女将。
オクデラは泣いていた。
今度こそ、自分を受け入れてくれたニンゲンを守れたって。
若女将もプティちゃんも泣いていた。
えっ、なんかちょっといい感じなんですけど! ガマガエル領主と美人エルフに続いてオークのオクデラと若女将もいい感じなんですけど! 若女将とプティちゃん、俺とシニョンちゃんとアニキもいるの気付いてるゴブな? デカいからオクデラが最初に目に入っただけゴブな?
プティちゃんも懐いてるしこれオクデラひょっとするゴブか!? 称号が【オーク the ED】から【オーク the END】に変わってEDじゃなくなったか確かめる感じゴブ? くっ、ゴブリオ置いてかれちゃう!
とか思ってたら。
後ろから抱きしめられた。
『本当に、無事でよかったです、ゴブリオさん』
シニョンちゃんに。
あったかくてやわらかくて後頭部に幸せな感触がうへへっていまそれどころじゃなくて。
抱き合う三人を見た領主が、ふたたび叫ぶ。
『我が領民たちよ、眼の鱗を落とせ! 善きゴブリンとオークは存在し、我らは助けられたのだ! 英雄たちに拍手を!』
今度は拍手が巻き起こった。
涙をこぼしながら、エルフの領主夫人が楽器を奏でて盛り上げる。
シニョンちゃんが、俺を抱きしめる腕にギュッと力をこめた。
ところで目から鱗ってこっちでも言うゴブな! そんでオクデラは若女将とプティちゃんに抱きしめられて俺にはシニョンちゃんがいて、アニキは?
振り返ったらアニキはいつの間にか、船の護衛から戻ってきたリザードマンに囲まれて揉みくちゃにされていた。
さっすがアニキ、モテモテゴブな! 難なくハーレム作るってやっぱりアニキはチート持ちゴブか? そのハーレムぜんぜんうらやましくないけどね! ほら俺元人間でゴブリンだから! リザードマンのかわいさとかよくわからないから! というかそもそもメスかオスかもわからないゴブゥ!
港に、拍手と歓声が鳴り響く。
続々と船から下りてくる避難民たちや、戦場から戻ってくる男たちにも広がって。
ゴブリンとオークと新種と巡礼者を囲んで、いつまでも、いつまでも。
次話は10/13(金)18時更新予定です!
10/25発売の『ゴブリンサバイバー 3』、活動報告で書影を公開しました!
今巻が最終巻となりますのでみなさまよろしくお願いします!
……ということで。
web版ゴブリンサバイバーも、10/13(金)、10/20(金)、10/25(水)に更新して完結となります!
あ、ちなみに打ち切りではなく予定していたラストまで書き上げての堂々完結ですw
所感等は完結後に活動報告で。
残りわずかではありますが、お楽しみいただけるようがんばります!