第二十五話 勝者はただ去るのみ……のはずがゴブリオ人気者すぎたゴブ!
港町の前、農地を越えた先に広がる草原。
丈の短い草に覆われ、ゆるやかな起伏を見せる草原に、血なまぐさい光景が広がっていた。
『耳を切り取って魔石を抜いた死体はこっちに運べ!』
『第一隊、および義勇軍は港町へ戻れ! 第二隊は周囲の警戒を!』
おうおう、さっそく働きはじめるなんて真面目ゴブな! 戦いに勝ったらすぐ祝勝会でみんなお酒を飲み出すものだと思ってたゴブ! 剣と魔法のファンタジー世界を舐めててごめんなさい!
ゴブリンとオーク、5000の大群とそれを率いるボスオーガ。
ボスオーガは倒して、ゴブリンやオークはけっこうな数を殺した。
士気が下がって逃げたモンスターも多いけど。
戦場になった草原には、無数の死体が転がっていた。
ヒャッハー、死体漁りの時間ゴブ! ボーナスタイムはまだ続いてたゴブなあ! 今度はライフポイントじゃなくてお金稼ぎだけど!
ちょっとテンションが上がるけど、実際に死体漁りはしない。
ほら死体漁りって窃盗じゃない? ゴブリオそんなのしたことないゴブ! いまはニンゲンの目もあるしコイツらたいした物持ってなさそうだし……じゃなくて盗みなんてしたことないゴブ!
ニンゲンたちはゴブリンとオークの討伐証明になる耳を切り取って、体内にある魔石をえぐり出してる。
それが終わったら、価値がなくなった死体はまとめておくらしい。
あとで燃やすか埋めるんだろう。
そのままにしてたら腐るしモンスターや獣に喰われるからね! 戦いに勝ったからってボーッとしてる場合じゃないよね! ニンゲンたちは大変ゴブなあ!
『ゴブリオ、オデ、ニンゲン守ッタ! 若女将、プティ、守ッタ!』
『そうだな、オクデラ。今度こそ、二人はケガもしないで無事ゴブ!』
『ウン! ソレニ、オデ、オーク殺シタ! タクサン殺シタ!』
『お、おう、よかったな、オクデラ』
健気だなオクデラってほっこりしてたのに一気に殺伐としちゃったゴブ! さすが【オーク the END】! オークを殺して喜ぶオークってそれどうなんだろうね! でも重装歩兵オークも強オークもオクデラがいたからゴブリオ助かったゴブ!
ニコニコとうれしそうなオクデラの背中をバンバン叩く。
俺と違ってオクデラは死んだら死んじゃうわけで、一緒に戦うって言い出した時は止めたけど。
無事に生き残って、それどころかオクデラはけっこうな戦果を見せた。
〈果ての森〉でビクビクしてた純情弱気オークが成長したゴブなあ。
子供の成長を見てるみたいでゴブリオうれしいゴブ! でも返り血を拭いてから笑おうな! 無邪気な笑顔と返り血の組み合わせはちょっと狂気を感じるゴブ! 【オーク the END】にバーサク要素ないよね? 怪しいもんゴブなあ!
『強敵を倒し、大群に勝利する。ゴブリオもオクデラも……弟たちは、俺の誇りだ』
喜び合う俺とオクデラの肩に、手が乗せられた。
アニキだ。
あいかわらずアニキはキザすぎるゴブ! これ素でやってるってのがすごいよね! 言われた俺の方が照れちゃったゴブ!
アニキが強敵と戦ったのは、ボスオーガの右腕を止めた一瞬だけだ。
でも俺が自由に動いてる間に、アニキはうまいこと立ちまわってくれた。
オクデラをカバーして、シニョンちゃんを守って、あの瞬間に俺の指示を受けてボスオーガを妨害する。
目立たないけどアニキの活躍っぷりはヤバかったゴブな! アニキがいなかったらオクデラとシニョンちゃんは危なかったし、俺も二回どころじゃなくもっと死ぬところだったゴブ!
オクデラの腹を叩くのを止めて、今度はアニキの肩を叩く。
鱗が固くて手が痛い。
くっ、アニキの【鱗鎧化】と【打撃耐性】で叩いたこっちにダメージが入る件! そりゃ雑魚ゴブが群れで襲ってきてもいまのアニキなら楽勝ゴブ! さすが新型アニキ!
『ゴブリオさん、やりましたね! オクデラさんも、アニキさんも!』
領主の勝利宣言の後、感謝の祈りを捧げていたシニョンちゃん。
お祈りが終わったのか、立ち上がって俺たちに飛びついてくる。
三人の中心にいたのは俺で、つまり俺がシニョンちゃんを受け止めたわけで。
や、やば、シニョンちゃん、当たってる、当たってるゴブ! しかも俺の身長が伸びたせいで顔がちかい、ちょっと俺が顔をあげたらシニョンちゃんとキキキキスできちゃいそうでヤバいゴブ! こらえろゴブリオ! 耐えろゴブリオのゴブリン!
やわらかい。
必死で戦ってきた甲斐があったゴブゥ!っていやそういうことじゃなくて! がんばったご褒美がおっぱいの感触で報われた気がするって安すぎるでしょ俺の命! あ、俺死んでも復活するんだったわ! つまりノーリスクでやわらか地獄でやったぜ! ハハッ!
大群と強敵、〈ストレンジャーズ〉は全員無事に戦い抜いた。
俺は二回死んだけど。
生き直しできたからそれはよしとして、四人であらためて、勝利を喜んで。
俺たちは歩き出した。
港町を背に、草原の先、木が茂る方へ。
戦場を後にして。
『おい待て〈ストレンジャーズ〉。どこに行く気だ?』
歩き出してすぐに、背後から声がかかる。
漁村の冒険者ギルドで俺たちの担当をしてくれてたコワモテのおっさんだ。
ボスオーガにトドメを刺したミスリルの短剣を俺にくれた……貸してくれたおっさんだ。
『逃げたゴブリンとオークを追うゴブ。仲間のフリすれば楽勝ゴブな!』
俺は振り返っておっさんに応える。
腰のベルトに鞘ごと挟んでたミスリルの短剣を隠すみたいになったのは偶然ゴブよ? そんな、おっさんが気付かなければまだ借りてようと思っただけで! ほら残敵掃討するつもりだし! だいたいいつまでに返すって約束してないし!
『ついでに一足先に漁村に向かって、途中の道も漁村の安全も確保しておくゴブ!』
漁村の村人は港町に避難した。
村の中には誰もいないから、逃げたゴブリンやオークが住み着くかもしれない。
そしたら若女将やプティちゃんやみんなが大変だからね! 俺がゴミ掃除しておくゴブ! ゴブリンに荒らされちゃったら大変だから! ……俺もゴブリンだけど荒らしたりしないゴブよ? 俺、火事場泥棒する鬼畜生じゃないゴブ! 『あーこれ野生のゴブリンの仕業ゴブなあ』なんて言わないから! 本当ゴブよ? ゲギャギャッ!
『おまえら……』
『おっさん、わかってるゴブな? 俺たち、港町には行かないゴブ』
コワモテのおっさんは顔をしかめて、ますます凶悪な人相になった。
おっさん優しいゴブなあ! やっぱりおっさんが俺たちの担当でよかったゴブ! 美人受付嬢ちゃんが担当にならないかな、とか思ってごめんなさい!
『おまえらは命を賭けて戦ったのによ……』
今度はしゅん、と肩を落とすおっさん。
俺はおっさんに近づいて、ポン、と肩を叩いた。
『俺たちはゴブリンとオークだから、気持ちだけもらっておくゴブ。ああ、シニョンちゃんは港町でゆっくりするゴブか?』
『もうゴブリオさん、怒りますよ! 私も〈ストレンジャーズ〉なんですから!』
ぷっくりと頬をふくらませるシニョンちゃん。
でも目は笑ってる。
俺が冗談で言ったってわかってくれたんだろう。
以心伝心ゴブ! まるで長い付き合いの恋人か夫婦みたいゴブな! ふ、ふうふ……ゲギャッ。
『んじゃおっさん、漁村で待ってるゴブ!』
元気がないおっさんと握手して、俺は歩き出す。
でも、また背後から声がかけられた。
『待つのだ〈ストレンジャーズ〉よ!』
チラッと【覗き見】して、スルーしようとしたのを止める。
俺たちに声をかけてきたのは、装飾過多でギラギラした鎧を着たガマガエルだった。
さすがにコレは無視できないゴブ! なにしろこのガマガエルは領主らしいし! 悪徳貴族っぽい見た目だけど先陣切って戦ってたし、下品な鎧は戦場で目立って敵からも味方からも目印になってたゴブな!
『話は聞かせてもらった! なればこそ、行かせるわけにはいかぬ!』
やけに芝居がかった感じで大声を張り上げる領主。
装飾が反射してチカチカして、まわりの目を引きつける。
コイツもしかしてぜんぶ計算ゴブか? いまの大声もわざと? なんかゴブリオと似たニオイを感じるゴブなあ!
『どうしてゴブ?』
『決まっておろう! 〈ストレンジャーズ〉はこの戦いの功労者! 感謝を伝えただけで行かせたとあっては民に顔向けできぬ!』
領主の言葉に、コワモテのおっさんと冒険者が『おおっ』と声をあげて、期待に満ちた目を領主に向ける。
周囲の反応を確かめた領主は、また口を開いた。
『我が港町・デポールは、〈ストレンジャーズ〉を歓迎しよう! いや……港町で行う戦勝の宴の主役として、ぜひ港町にお招きしたい!』
両腕を広げて宣言する領主。
まわりの冒険者も兵士も手を叩き、指笛を鳴らして歓迎の声をあげる。
『ゴブリンとオークだからと心配はいりませぬ! 〈ストレンジャーズ〉の勇敢な戦いを見て、歓迎せぬ男たちはおりません!』
歓声がいっそう大きくなる。
俺の肩に手が置かれた。
シニョンちゃんだ。
シニョンちゃんは、ニッコリ笑ってた。
ニンゲンが怖かったシニョンちゃんが、ニンゲンたちに囲まれてるのに。
『ゴブリオさん、行きませんか? ゴブリオさんとオクデラさんのこと、みんなが認めてくれたんです』
目から汗がこぼれる。
シニョンちゃんの成長っぷりと、漁村に続いてここでも認められたことに。
『そして男たちは、海上に避難していた者に伝えるでしょう! 勇敢なゴブリンのことを! 精強なオークのことを! 明敏な新種族のことを、高潔な巡礼者のことを! 〈ストレンジャーズ〉のことを!』
歓声がまた大きくなる。
というかこのガマガエル、断らせる気がないゴブな! ゴブリオ、この空気で『いや行かないんで』とか言えないゴブ! なにしろ小心者、おっと【森の臆病者】だからね!
目を合わせたシニョンちゃんは頷いてくれた。
アニキは『ゴブリオに任せる』と目で訴えてくる。
オクデラはちょっと首を傾げてる。
いやわかりやすい話だったでしょオクデラ! アニキもアニキであいかわらずゴブなあ! ほんといつも通りすぎて安心するゴブ!
俺は領主に向き直った。
答えは一つだ。
『じゃあ、港町に行くゴブ!』
そう言うと、領主もコワモテのおっさんも冒険者も兵士も手を叩いて喜んでくれた。
オクデラはまだ首を傾げてる。
小声で『港町に入れて若女将とプティちゃんに会えるゴブ』って言ったら喜んでたけど。
ただ。
『ではみなさま、我と一緒に凱旋を! さあ、こちらにお乗りください!』
領主にそう言われたのは予想外だった。
なにしろ手のひらで指し示されたのは、ド派手な戦車だったから。
ちょっ、これすごく目立つゴブな! これめっちゃ見られるヤツゴブ!
おうおう、こちとら見せ物じゃないゴブよ? おひねりくれたらいくらでも見ていいゴブよ?
ところで功労者って領主に認められたわけで褒美は出ますかね? あと美味しい食べ物も! 美女はその、シニョンちゃんがいてくれるから俺そんなハーレム状態とか求めてなくてでも言いよってこられたらゴブリオ困っちゃうゴブなあ! ゲギャギャッ!
次話は10/6(金)18時更新予定です!





