将来の夢
僕たちがカトレアに襲われてから丸一日が経った。
鈴の情報によるとカトレアは、スコッチーと呼ばれるギルドマスターであり、そのギルドは犯罪行為を率先して行っている。そのため以前、帝国騎士団に所属していた鈴とは面識があったのだ。そして現在もPKなどを行っており、帝国騎士団が攻略に力を入れることができないのも、彼らのせいだと言われている。
それはさておき、今現在の僕たちはというと、今日も今日とてギルドルームでまったりとした午後を送っている。どいうやら鈴は、今日は攻略に参加しないらしく、壁に寄りかかったまま誰かとメールを送り合って暇を潰している。
しかし昨日と違う点がひとつ。
僕たち三人は皆、布団にくるまっているのだ。鈴は座っているために下半身にのみ布団をかけているが、僕は寝転がって布団をかぶっている。サミーに至っては、布団から顔が半分くらいしか出ていない。本格的に寝るときの体勢だ。
この布団は鈴が作ってくれた。昨日、僕たちがフィールドに出た理由を離すと、『布団ごときで死なれてはかなわん。欲しい物があったらわたしに言え』と言って、鈴の手持ちのアイテムを合成なりなんなりして、いとも簡単に作ってしまった。しかもヒヨピーで作る布団よりもずっと質がいいらしい。ちなみに僕たちには枕は必要ない。なぜなら二頭身、頭が大きいからだ。敷布団は欲しいところだが、この狭いギルドルームにそんなものを川の字に並べてしまっては、文字通り足の踏み場がなくなる。
「お、カク。喜べ、攻略は順調に進んでいるらしいぞ」
こうやって鈴はたまに攻略の情報を僕たちにくれる。今は最前線のプレイヤーとメールを交わしているのだろうか。意外と交友範囲が広い。
「となってくると、そろそろゲームから脱出したときのことを考えておかないといけないな。お前らはなにか考えているか?」
僕は首を横に振り、そして僕の横に寝転がっているサミーもまた首を横に振った。そもそも高校生である僕たちは、選択肢はそう多くないだろう。脱出が遅くなれば留年、早ければそのままの学年に残ることが出来る。取りあえず、高校くらいは出ておきたいのだ。
「わたしはもう考えてあるんだ。ここを脱出できたら、小説家になろうと思う」
「……ふん?」
あまりにも意外な職業が出てきたため、自分でも驚くような声が出た。
「実はもうなにを書くかは決めている」
「……へえ」
「わたしの自叙伝だ」
「いや、それはお金と時間の余った年寄りがするやつだからね」
24、5年しか生きていない人間が自叙伝とは、ちゃんちゃらおかしい。
「題名も決めてあるんだ」
あんまり聞きたくないけど、いまはそれを言うべきではないか。
「題して、その日暮らしの泣く頃に」
「あんた、ニートだからその日暮らしじゃないでしょ」
「名作をぱくったことをつっこめよ!」
「自覚あったのかよ!」
その『日暮らしの泣く頃に』である。
「いいから早くつっこめよ! 恥ずかしいだろうが!」
「えー……」
鈴が布団を投げ飛ばして立ち上がり憤慨している。正直引くわあ。
しかも、つっこみ担当から言わせてもらえば、つっこみたくないボケにつっこむことほどストレスのたまるものは無い。いちおう僕は、ボケを選んでつっこんでいるのだ。
だが、鈴はいまだ怒っている。まあ、ギルドマスターの言葉は絶対だ。仕方ない。
「なんでやねーん」
そう僕が言った瞬間、鈴のこめかみあたりで、なにかがピキリと音をたてた。ボケ担当はボケたときに、ちゃんとつっこんでくれないとこうなってしまうらしい。
「なんだ、そのおざなりなつっこみは……!」
「いや、そう言われても、もうつっこむタイミングを逸しているんだけど」
いまさらつっこんでも寒いだけだ。
「でも、さっきのは鈴にも問題があるぞ。ひとつの文にふたつもボケを設置して」
「あーあー、そうか! わたしが悪いのか! 分かった、謝ればいいんだろう? ゴメス!」
「謝る気もないのに謝るな! ていうか、今のどこに謝罪の言葉があったんだ!」
僕も立ち上がって、サミーの真上で鈴と相対する。
「だからゴメスって言っているだろうが!」
「だからゴメスってなんなんだよ!」
「中日にいたプロ野球選手だ! そんなことも知らないのか!?」
「謝ってねえじゃねえか!」
「…………!」
「…………!」
ふたりで無言の言葉を飛ばし合ったが、どうも不毛だと感じ取ってしまったので、同時に畳の上に座った。これほどまでに口喧嘩が半端なのは、この部屋に流れているどうしようもないくらいの、やる気のない空気のせいだろう。
その主な原因が布団である。
「悪かったよ、鈴。今度からはちゃんとつっこむから」
「ああ、慰謝料として四十五兆万億光年ユーロでいいぞ」
「なんでやねん……」
つっこみどころが多すぎる……。
僕がそうつっこむと鈴は、ふ、と笑って布団に潜り込んだ。どうやら満足してくれたみたいなので、僕も布団の中に潜り込む。サミーを中心に川の字になって寝ている状態だ。
「でもな、小説家になれない場合のことも考えて、お笑い芸人への道も考えているんだ」
と、鈴は天井を見上げ、まるで将来の夢を語っているような口調で言う。
「お笑い芸人の最終的なポジションって知ってるか?」
「いや……、なんなんだろうか。MCとか?」
僕がそう言うと、鈴は間髪いれずに違うと答える。
「お笑い芸人の最終的な目標は映画監督だ」
「……うーん?」
違うだろ、とは言えないが、確かにそうかも、とも言えないくらいに微妙だ。
「あいつら、自分がクリエイティブな才能を持っていると勘違いしているから、映画監督をしたがるんだ」
お笑い芸人を目指そうかという人間の発言とは思えない。まあ、これも否定できないからつっこまないけど。
「しかもヤクザものの映画を撮っている人間に心理、知ってるか?」
知らない、と答えた。そういえばヤクザものの映画を撮りまくって、世界から称賛を受けたお笑い芸人もいたな。
「あれな、中学生が不良に憧れて不良漫画を読み漁るのと同じ心理なんだぞ」
「そうだったの!?」
なんかしっくりきた!
そうだったのか……。なまじお金と権力を持っているから、つい映画を作っちゃったんだ。もちろんヤクザになる、という選択肢もあったのだろうが、今の芸能界でそれは許されない。むしろ、クリーンだからこそ、そういったものに憧れを抱くのだろう。
まさに中学生の思考だ。
「それでな、映画を一通り撮り終わったら政治家になりたいんだ」
「夢が大きい! しかもけっこう現実的な道!」
歳をとってくると、どうにも政治的な発言が多くなってくるから、意外と政治家というのはアリだと思う。有名人ならばなおさらのことだ。
「でもな、小説家もお笑い芸人も才能の世界だろ? だからもうひとつ現実的な仕事を考えてみたんだ」
……こんなにも熱く将来の夢を語る24歳が、他にいるだろうか。
「それが探偵だ。京都に事務所を置こう。あそこは毎週殺人事件が起こっているからな」
「テレビの見過ぎだ!」
「お洒落な小料理屋で、殺人事件の会議」
「事務所でやれ!」
「捜査に行き詰った時、何気ないゲンタの一言で真相に辿りつく」
「なんでゲンタくん!?」
「そしてここで決め台詞――ニートの勘!」
「結局ニートかよ!」
ふざけ過ぎました。ごめんなさい。
次話からは真面目にやりますので、引き続き読んでくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




