最強ギルド、帝国騎士団本部にて
「ここが最強ギルド、帝国騎士団の本部だ。まあ支部なんてないけどな」
憩いの広場の端の方あったきらきらしていた石に鈴が触れると、なぜかこんな場所に飛ばされていた。僕たち3人は現在パーティーを組んでいるから、ひとりが触れれば、パーティー全員が飛ばされるというシステムなのだろう。
「ここはエリアひとつ分がすべて帝国騎士団の領土になっていてだな、建物を建てるのも、畑を耕すのも、訓練所を作るのも、自由にできるんだ」
「ほー……、与えられるのは領土だけなのか?」
僕は目の前の大きな城を見上げ、そして周囲の広大な土地を見て言う。
これが帝国騎士団本部。四畳しかないギルドJBとは格が違う。
「城も与えられたものだ。もとより帝国騎士団はPKなどの犯罪行為を禁止として、それを普及させ、いまだ犯罪防止活動も行っているからな。管理者側から気に入られているんだ。そしてサミー、あまりうろつくな。いくら呼ばれたからと言って、それをここの人間全員が知っているわけじゃないんだ。つまみ出されるぞ」
それを聞いたサミーは、いそいそと戻って来る。鈴に注意を受けた時のサミーは、なぜか愛嬌があって可愛らしい。
大きな扉を開けて城の内部に進入する。
「おおう……」
城の内部は、外観よりもさらに豪華に造られており、設計者のセンスの高さがうかがい知れる逸品となっております。
くらいの褒め言葉しか出ないのは、いたしかたないだろう。どう褒めていいのか分からないし、なにを褒めていいのか分からない。
そんな僕の苦悩を知らずか、鈴はずんずんと城の内部を、迷うことなく進んでいく。
「鈴、これから会うのは帝国騎士団のひとなんだよな?」
当たり前過ぎる質問だが、鈴は面倒くさがること無く、ああ、そうだ、と答えた。
「なんで僕たちが呼ばれたんだ?」
「それについては大方の予想はついているが、しかし結局、相手方に聞くしかないだろう。まったく……、人を呼び出すとは偉くなったもんだ。普通、用があるのなら自分から足を運ぶべきだろうに」
……この偉そうなもの言い。
相手は最強ギルド、帝国騎士団なのだ。もし反感を買って、キサマラ、ウチクビ、ゴクモン! とか言われたらどうしようもないぞ。
このゲームは現実世界とそう変わりは無いのだ。生きづらくなったからといって、このゲームから逃げられるわけでもないし、だからといって、現実世界のように逃避行ができるほど広い世界でもない。
ある意味、現実世界よりもずっと現実的であり、残酷な世界であるといえるのかもしれないな……。
「ここだ――失礼するぞ!」
「ちょっと……」
情けない声を出しながら、よろよろと鈴に付いて行く。
今の入室はあきらかにマナー違反だ。返事を待たずにドアを開けたことや、ドアを壊すほどの勢いで開けたことなど、むしろいい悪い例といえる。
サミーも居心地が悪いのか、僕の後ろにぴったりとくっついて、まるで隠れているかのようだが、とんがり帽子がそのまま丸見えだと思う。あえて指摘はしないが。
「こっちに来い。そして座れ」
イスを引いて、座れ、と指し示す鈴。
がしり、と両手首を後ろから掴まれた。そして早く前に進めと言わんばかりに、僕の足を蹴り上げるサミー。こいつは僕の動きに合わせて隠れるのではなく、僕を動かして隠れようとしていたのだ。しかしこの状況でそれを咎めることは躊躇われる。仕方が無いので、げしげしと蹴りつづけられていた足を前に動かし、なんとかイスの目の前までやってきたわけだが。
さて、……ここから、どうするつもりだ?
「……よいしょっと」
サミーがまずイスに座り、さらにその膝の上に僕を座らせようと試みているが、イスの大きさや高さ、そして二頭身である僕たちには、それを実行するのは至難の技だった。
「……ん! ……んん!」
しかしサミーはあきらめきれないのか、ぐいぐいとイスに深く腰掛け、僕をとにかく引っ張って無理やり座らせようとしている。僕もその努力に報いたいとは思うのだが……。
「……貴様ら、いったい何をやっている?」
鈴は、今までに聞いた事のないような低い声で、そしてなぜかこめかみに血管を浮き上がらせて、僕たちを睨んでいた。
「い、いや……」
咄嗟に言い訳を考える。
「鈴が指示したイスに座ろうとしているだけだ。だって鈴、このイスに座れって言っただろ? でも僕たちはふたりいるわけだから、どっちかが突っ立っていないといけないって思ったんだけど、でもそれだと僕たちの間に優劣が付いてしまいそうだったから、それを避けるためにふたりで一緒のイスに座ろうって話しになったんだ」
「なるほど。わたしが悪いのか」
こめかみをひくつかせ、こぶしを握り締めて、彼女は言った。
「いや、別に誰かが悪いとか、犯人捜しをしようとか、そんなことを言っているわけではなくてですね……」
もごもごと声が小さくなっていくのが自分でもわかる。
しかしサミーは、これはチャンスだと言わんばかりに立ち上がった。
「だったらこうしましょう。みんな目を瞑って、そして自分が犯人だという人は挙手してください」
「お前はどこの教師だ!」
最近流行ってんのか、教師ネタ。
「帰りの会で、鈴さんから発言がありました。どうやらこの教室のイスがひとつ、無くなってしまったようです」
「帰りの会って!」
懐かし過ぎる!
そして帰りの会なるものは、おそらく日本独特のものだぞ、サミーよ。
そんな感じで、いい具合に緊張がほぐれてきた時、
「いい加減にしろっ!」
どうやら我慢の限界が鈴に訪れたらしく、完全にブチ切れて僕の襟首を掴み、無理やりイスに座らせた。そして立ち上がっていたサミーにも、視線だけで、座れや、と命令してようやく全員着席と相成った。
しかし鈴は未だ怒りが収まらないのか、テーブルの下の方で、カツカツカツと、隠すことなく貧乏ゆすりをしている。
そんな状況がいつまでも続いてしまうのかと思った頃。
「帝国騎士団にようこそおいで下さいました」
テーブル、円卓の反対側に最初から座っていたであろう騎士が、そんな風に口を開いた。真っ黒な瞳と長い髪が特徴的な美人さんだ。
円卓は7人が掛けられる数。ここは会議室かと推測されるが……。
「わたしは帝国騎士団大団長の亜妃と申します」
ダイダンチョウのアキさん?
「帝国騎士団のギルドマスターだ。久しぶりだな、亜妃。こいつがカクで、こっちがサミーだ。よろしくたのむぞ」
鈴がこそりと教えてくれた。そしてそのついでにギルドメンバーの紹介。省エネだ。
しかし最強ギルド、帝国騎士団のギルドマスターがいったい何の用なのだろうか。
「皆さんもご存じの通り、わたしたちはこのゲームの中に閉じ込められました」
そう言って、帝国騎士団大団長さまは僕の方に視線を向けて、同意を求めた。そして僕は、こくりと頷く。
「世界の終末――この言葉を覚えていますか?」
世界の終末。
「確か……。だらだらとゲームクリアをするのはカラクサの本意ではないから、世界の終末という期間を設けた。それを過ぎると世界の終末と言う名の裁きが……。っていう感じのことを言っていたと思う」
うろ覚えだが、たしかそんな感じの、というか世界の終末と言うくらいだからそんな感じのことなのだろう。
「世界の終末というのはおそらく、プレイヤーが期間内にゲームクリアを出来ない場合、世界の終末と称して、プレイヤー全員を殺すことだと推測されます」
もちろんこれは、最悪のケースを予想したまでですが、と大団長さまは言う。
「ここで問題なのは、ゲームの中に閉じ込められたと言う事ではなく、世界の終末を問題にしているわけでもありません。わたしの言いたいこと、分かりますか?」
僕たち3人を順にねっとりとした眼つきで見る。
まるで僕たちを責めているかのような。
そんな視線で。
ゲームの中に閉じ込められたことは問題ではなく、世界の終末も問題ではない。
それはきっと――避けようのない、決定した事柄だから僕たちがそれについての議論を交わすことは無意味だと言っているのだろう。世界の終末に関しても、憶測の域を出ていない。
「…………?」
なにかが引っかかった。
……憶測の域を出ていない。
僕たち3人が呼ばれた理由。
そして責められるような視線を送られている意味。
「そうか……」
「どうかしましたか?」
大団長さまの優しげな口調。
「僕たちがあそこで、カラクサの邪魔をしたから、世界の終末の内容も、世界の終末までの期間も分からなかったんだ」
世界の終末の内容は予想出来ても、世界の終末までの期間は予想できない。
「そうです。わたしも伝え聞いた話でしかないのですが、あなた達がカラクサの発言の邪魔をしたために、いま、わたしたちはいつ来るかも分からない世界の終末とやらに怯えなくてはならない事態になっているのです」
いずれ近いうちに死ぬ、かもしれない。
死の恐怖というものは、他のなにかから与えられる恐怖とは別物だ。世界の終末が、死、という予想は、予想から確信に簡単に変わってしまう。それが本当かどうかは別として、だ。
そして更に、その期間が分からない、ということも拍車をかける一因といえる。ナイフを常に突きつけられているようなものだ。1日、1週間、1か月過ぎるたびに、今日ではなかった、と安堵する。そんな緊張が続けば――人なんて簡単に壊れてしまう。
そもそもこのゲーム内での、死の概念すら分かっていないのだ。PKされてしまったら死んでしまうのか、そうではないのか、モンスターに負けたら死んでしまうのか、そうではないのか。この部分が分からなくては、ゲーム攻略もすんなりとは進まないだろう。
この状況を生んだのが――まぎれもない僕たちである。
「ちょっと待ちなさいよ」
サミーが急に声を上げる。
僕の隣の鈴のさらに隣。イスに頬杖をついて、足を組み、目を細めて。
「なんで帝国騎士団大団長サマにそんなことを責められなければならないの?」
「それは、あなた達が原因だからですよ」
「確かに。それは事実よ。でも私達が罪悪感を覚えることが必要であっても、あなたから罪悪感を覚えさせられる理由はないわ」
大団長さまは視線だけをサミーに向ける。
「なにが言いたいのですか?」
「そもそもこの状況は、カラクサが原因であり、責められるべきはカラクサ。でもそのカラクサはここにはおらず、責めることが出来ない――だからあなたは、とにかく責めるべき対象を見つけたかった。この状況を誰かの責任にしたかった。そうでもしないと、恐怖に押しつぶされそうだったから。違う?」
「…………」
「弱者とは、常に誰かの所為にしたがるものなのよ。いちいち取り合っていては、キリがないわ。だからカク、顔を上げなさい」
サミーの言葉に驚きつつも、しょんぼりと下を向いていた顔を上げる。しかし大団長さまの顔も見れなければ、サミーの顔も怖くて見られない。
「そんなことはどうでもいい」
と、鈴が口を開く。
「すまんな亜妃、サミーは寝不足だからイラついているんだ。それよりも本題に入ろう。わたし達を責めるために呼んだわけでは、ないのだろう?」




