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気が付くと広場に立っていた。
中央に噴水があり、その周囲にはまばらに人の姿が見える。
見上げると、空は青。頬にあたる風が心地よい。
「ようやく入れたか……」
大規模多人数同時参加型オンラインRPG。略称をMMORPGという。
このゲームの名前は……覚えていない。というか、頭をすっぽりと覆う機械も、ソフトも、接続も、全てママに準備してもらったから、ようやくって程でもないのだけれど。
このゲームの特徴は、ゲームの中に入り込む、という感覚を味わう部分にある。つまりVRMMORPGである。
この長すぎる略称はどうにかならんのか。
まあ、いいけど。
時は午前8時。休日とはいえ、こんなに朝早くからログインしているプレイヤーは少ないようだ。
さて、まずは何をすればいいのだろうか。
あたりを見回してみると、噴水の周りには2、3人のプレイヤーが集まって、何やら話しこんでいるようだ。さすがに、いきなりプレイヤーに話しかけるのは躊躇われる。
ということで、まずは基本動作の確認から入ろう。
右足を前に出した後に、左足を前に出す。これで前進。
「当たり前すぎる……」
まあ要するに、だ。何が言いたかったかと言うと、自分が思うままにこのキャラクターを動かすことができることを確認したかったのだ。それだけだ。
よし。次はNPCに話しかけてみようか。ここから見渡しただけでも、何人か話しかけてほしそうなNPCの皆さんが見える。そんなに話しかけてほしそうに見られてしまっては、話しかけないわけには、いかないなあ。
噴水の近くに居たメイド服を着ている、いかにもなNPCに目を付けて近づく。
頭の大きな、アニメに出てきそうな二等身の可愛らしい女性だ。
これがこのゲーム最大の特徴であり、売りだ。
現実のものをリアルに再現したゲームではなく、全て二次元のタッチで描かれており、まるでアニメの中に迷い込んだかのような印象を受ける。
目の前のNPCはサクラ、という名らしい。頭の上に表示されているのが、なんともいえずオンラインゲームだ。
髪の毛と瞳がピンクで、メイド服を身にまとった、おっぱいの大きなサクラさん。
「どうも!」
話しかけてみた。普段、女の子に話しかけるなんて到底無理だけど、NPCなら大丈夫だ。嫌われることなんてないだろうからな。
「憩いの広場にようこそ」
……それだけか。お前はこの人の多い広場を任されているNPCのくせして、それだけしか喋れないのか。
ねっとりと値踏みするような目で、サクラさんの体を見る。やはり胸が大きい。
風が吹き、彼女の綺麗な髪が揺れる。髪の毛を耳にかきあげる姿に思わず見とれてしまった。
その時。ほんの少しだけ邪な考えが浮かんだ。
――もしかしたら、胸を触れるのではないだろうか、と。
別にやましい気持ちがあるわけではない。いや、邪な考え、とか言った時点で信じてもらえないかもしれないが、決してやましい気持ちがあるわけじゃないのだ。
そう……、それは男としての自然な気持ちのあり方に近い。
ログイン直後に、目の前におっぱいを触って欲しそうに笑っている可愛らしいNPC(?)がいるのに、それを無視してゲームを始めるなんて、男として終わっている。
ログインしてからゲーム開始ではなく、おっぱい触ってからゲーム開始なのだ。
……なにをどう考えてもおっぱいを触る必要性しか出てこない。そこで、逆に考えてみようかと思う。サクラさんのおっぱいを触ってはいけない、と僕を納得させることが出来るほどの強い否定。
「――――」
だめだ、なにも出てこない。
覚悟を決めよう。
おっぱいを――触るんだ!
ママ! 今日、僕は、男になります!
アニメタッチの腕を、右ストレートのごとく打ち出す。
「――なに!?」
右腕を強く掴まれた。右ストレートのごとく打ち出された腕を目にもとまらぬ早業で、受け止めたのだ。
そして。
「ふべばっ!」
気がついたときには、空を見ていた。背中には固い石畳の感触。
なるほど、地面に叩きつけられたのか。
もそもそと、何事もなかったかのように装いながら立ち上がり、埃をはらう。
そして知った。
「HPが残り1になってる……」




