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私たちはそのままバルコニーに陣取っていた。

と、いうのもここは私たち以外誰か来る気配もなく、内緒話をするのにちょうど良かったからである。

「…リリアンフィア姫が、愛し子様?!」

「ハル!シィ!声が大きい!」

侑李が口元に指を立ててハルディア君を睨み、ハルディア君はしまったと言うように手で口を覆った。

「大丈夫。誰もいないようです。」

レンブラント君が周囲を見回してホッとしたように言う。

「ユウリ殿の近くにある君たちは知っておいて良いでしょうけれど、この話はどうかご内密に。」

アルベ君がそう言うと、3人は神妙な顔で頷く。

とはいえ、ウォードガイア公爵家の人たちやその他の4大公爵家、それに王家のみなさんと、けっこう知ってる人もいる話だからなー。

そのうちバレてくるような気もするなー。

などと呑気に考えながら、白ワインをちびちび飲む。

これはさっきジーノ君が持ってきてくれたものだ。

ジーノ君。

彼はその後、私から目を逸らさない。

視線は温かく、不快というわけではないんだけど、なんだかとてもむず痒い。

「証拠って言われても、すぐにはちょっと。」

私はポリポリと頬をかく。

証拠になりそうなスマホはカテリーナさんが作ってくれた花柄の可愛いウエストポーチに入れていつも身につけているけど。

「このような神具、常に身につけて下さいませ!」とせっせと作ってくれた私のお気に入りだ。

だけど、ドレスの下に装着してしまっているので、取り出すにはドレスを捲り上げないとならない。

私のドレスはスカート部分が大きく膨らんだ、中世ヨーロッパ的なヤツだ。

カテリーナさんが準備した渾身の一品とのことで、薄紅色の光沢のある生地に宝石が縫い取られたかなり豪華なものだった。

ちなみに、よくあるコルセットはカテリーナさん率いるメイド軍達との激しい攻防の末、今回はなんとか免れた。

私がカテリーナさん達との激闘に思いを馳せていると、

「そんなの!証拠なんて必要ない!誰が見たってこんなに美しくて、清らかな人、リリアンフィア姫以外にいない!」

うわずったジーノ君の声が聞こえる。

おっと…。どうした少年。

ちょっと面食らっていると、隣の侑李がため息をつく。

そしてそんな侑李を見てレンブラント君もため息をついた。

「…そういう事でしたか。」

「どういうことだ?」

ハテナマークを浮かべているハルディア君にレンブラント君はやれやれと苦笑いを向けた。

「ハルには後で説明してあげますから。

それはそうと、だとするとハロルド殿下の召喚したという聖女は偽物で間違いないようですね。」

ふむ、レンブラント君が考えて、アルベ君を見る。

「王太子殿下、ハロルド殿下の件について、何かご存知ですか?」

アルベ君はひとつ頷いて話し始めた。

「そもそもハロルド殿は表向きにはユグドラシルの力を取り戻し、増加した魔物を抑えるため、と言っているが、手の内に聖女を囲う事で王権の簒奪を目論んでいるものと思われる。しかし、その聖女には王も私もまだ会っていないんだ。」

「なんですって?!」

レンブラント君が驚いた声を出した。

「ユグドラシルの愛し子、つまり聖女が現れたという情報が王宮にもたらされたのはハロルド殿の方がウォードガイア家よりも早かった。当然、王家として王宮へ謁見をと申し入れたのだが、まずは聖女への教育と、聖女がこの世界に馴染んでから、と拒まれてね。そうこうしているうちにウォードガイア家からも愛し子、さらには賢者が現れたと報告が入って…。どちらが本物だとしても王宮で庇護する事には変わりないと、リリアンフィア姫とユウリ殿にも謁見を申し入れたのです。」

アルベ君の話をなるほどなるほどと聞いているとやけに周りが静まっている。

ん?ふと侑李を見ると、わかりやすく体を縮めてタラタラ冷や汗をかいていた。

「侑李?どうしたの?」

私は侑李を伺ったが侑李は答えず、代わりに侑李の友人達がざわつきはじめた。

「ユグドラシルの、賢者?」

ジーノ君の声が低い。

「ユウリ、初耳なのですが。」

「おいおい、マジかよ。ユウリ。」

レンブラント君もハルディア君もごくりと息を飲んでいる。

おおう。

これは。

もしかしなくても侑李、お友達に話してなかったんだね。

「ごっ!ごめん!なんか、タイミングが無くて!けして隠してたとかじゃ!」

そんな友人達の様子に侑李は焦ったように謝りだした。

ほうほう。

侑李君。

君、自分だけ面倒な称号から逃げようと。

ほうほう。

「侑李〜。あんたズルいわよ〜。1人だけ普通〜の学生ライフを送ろうとしたってわけだね?」

「ねーちゃん…!いや!そんなこと!」

「あるんだね?」

「……。」

「あるんだね?侑李?」

ずずいと問い詰めると小さく頷く。

「だって…。だってさ!俺だって何にもわからないところでいきなりユグドラシルの賢者なんてご大層なこと言われてさ!元の世界に帰れる見通しも立ってねえし、少しでも普通に暮らしたいじゃん?!いきなり異世界転移だぜ?!しかも魔力インフィニティとか、なんなんだよもう!」

「侑李、あんたの気持ちは痛いほどわかる!だいたいお父さんが異世界人とか、ありえないって話よ。だけどね!あんた、私よりマシなのよ!なんなのよリリアンフィアって!よりにもよってリリアンフィアよ?!あんたは自分だけちゃっかりユウリで定着してきてるじゃん!」

「だったらねーちゃんも斗季子って言い張ればいいだろ?!妥協したのはねーちゃんじゃねぇか!」

わあわあギャアギャアと喚く姉弟の傍。

「殿下、私の耳がおかしくなったのでなければ、聞いてはいけないことをぶちまけているように聞こえるのですが。」

レンブラント君が呟き。

「うん。レンブラント。間違ってない。間違ってないから、今聞いた事は絶対に他に漏らすな。」

アルベ君が冷や汗を流し。

「ユウリ、迂闊すぎるよ…!」

ジーノ君が頭を抱えて。

「ジーノ、防音結界、張れるか?とびきり強力なやつ。オレはちょっと周囲の警戒と、あとウォードガイア公爵呼んでくる。」

ハルディア君がジーノ君にそんなことを頼み。

「もう張ってる。ちょっと僕は動けないから、うちの父上にも声をかけてくれると助かる。4大公爵が集まる事になるだろうからね。」

ジーノ君に言われてその場から走り去るハルディア君。

そんな周りのフォローにも気が付かず、私と侑李は仲良く姉弟ケンカを続けていた。




お読み下さりありがとうございました。

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