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「でやぁぁぁぁ!!!」
リーズレットさんの叫び声と共に、目の前の巨大な岩に鉄槌が振り下ろされる。
岩は見事に真っ二つに破壊され、ガラガラと崩れた。
「はぁっ!!」
リーズレットさんの手から氷の刃が放たれ、的に突き刺さる。
的は突き刺さったところからみるみる凍結し、土台部分まで凍りついた。
「!!……なんだ!お二人とも、強いじゃないですか!」
周囲ではドワーフとエルフによる模擬戦が繰り広げられていて、みんなかなり戦い慣れているように思えた。
なんだー。
あんな事を言うから心配してたけど、全然戦闘力あるじゃん!!
私は侑李と頷き合って安堵した。
侑李も安心したような顔になっている。
自分とミカドちゃん達に丸投げされると思っていただけに、かなりホッとしている様子だ。
「………そりゃ、全く動けないというわけではないぞ。」
リーズレットさんは肩に重そうな鉄槌を軽々と担いで言う。
「そうね、領地に出る魔獣を狩るくらいなら、出来るわね。」
エレンダールさんもそう頷いた。
私と侑李は笑顔で2人にタオルと飲み物を渡す。
いやー、よかった!
なんだよもう、全然強そうじゃん!
「………これで全力か?」
ふと、ミカドちゃんの低い声が背後から聞こえる。
振り返ってみれば、ミカドちゃんは難しい顔をしていた。
「全力、って事はないけれど、まあ、こんなものかしら。」
エレンダールさんがそう答えると、ミカドちゃんは顔を引き攣らせて、固まってしまった。
「ミカドちゃん?」
私が声をかけると、ミカドちゃんはふう、と小さく息をついて、視線を外に向ける。
その先には広い砂漠地帯が広がっていた。
ミカドちゃんはそのまま高く飛び上がり、淡い光と共に竜化して滞空した。
何をするのだろう、とみんなでそちらを見ていると、どうやら何か体に力を入れているようだ。
そのまま、大きく口を開く。
そして。
コォォォォ……。
ミカドちゃんの口から、光が放たれる。
その閃光は周囲を広く照らし、目を開けていられないくらい眩しくなり。
ドガァァァァ!!
ひどい地響きと、立っていられないくらいの爆風。
「えっ?!ちょ……うぎゃあ!」
地面にしゃがみこんで、頭を庇って衝撃に耐える。
ゴォォォォ……
徐々に爆風が落ち着き、混乱しながら顔をあげ、あたりの様子を伺えば。
「なっなっ……?!」
砂漠に突如現れた巨大なクレーター。
その中央はマグマのように赤く染まり、砂地がドロドロと溶けている。
その熱はまだ燻り、離れた場所にいる私の顔に熱を届けている。
呆然と、その様子を見ている私の隣に、ミカドちゃんがふわりと降り立った。
「竜族の戦闘力はこんな感じだと思うぜ?姐御。」
なんでもないように告げられた言葉に、私は愕然とした。
こんな感じ、って。
こんな、こんな。
「かめ○め波じゃないか!!」
いやいや!!
無理でしょう?!
普通の人間は死んじゃうでしょこれ?!
せめてスーパーサ○ヤ人にならないと!
「どーすんですか?!こんなの、無理ですよ!」
エレンダールさんとリーズレットさんに聞けば、2人は視線を逸らして困り顔になっている。
こんなの、もし当たりでもしたら余裕で死ぬ!
せめて、防御が出来たら……。
そう考えてもう一度2人を見るが、その様子からはどうにも解決策が見つかりそうにない。
本当にどうしよう。
何か、ないだろうか。
防御、防御。
岩を並べる?
いや、砂漠がマグマ化するような高熱、岩も溶けるだろう。
それに、機動力の面で現実的ではない。
何か、こう、バリア的な。
パッと張れるような、よく、アニメとかで見る「マジックバリアー!」的な。
そんなものを期待して、魔術が得意だと言うエレンダールさんに話を持ちかける。
「……聞いた事、ないわね。」
エレンダールさんは難しい顔で考え込んでしまった。
「そのようなものがあるのか?もしあれば、心強いのぅ。」
リーズレットさんも首を傾げつつ言う。
そうか、この世界にはないのか。
魔術が存在するから、可能性あると思ったんだけど。
「っていうか、トキコちゃんは出来ないの?」
突然エレンダールさんにそんな事を振られて、へ?と口が半開きになる。
「おお!そうじゃな!トキコよ。おぬしの知識にあるのなら、具現化できるやも知れぬぞ!」
「え?いや、無理だよ!私、魔術なんて使った事ないよ!」
両手をフリフリしながら言うと、2人は揃って首を傾げた。
「なぜじゃ?おぬしはもはや神という身。何某かの力を持っておるのではないか?」
リーズレットさんにそういわれて、はたと考える。
え?そうなの?
「そうね。やった事がないなら、試してみてもいいんじゃない?」
エレンダールさんにも促され、私はうーん、と考える。
魔術は、《ユグドラシルの賢者》の侑李の領分だ。
だから、自分が魔術を使うなんて考えてもなかったけど。
たしかに恵みを付与したり、魔術っぽい事はしてるよね。私。
「出来るかどうかはわかりませんが、試すだけなら。」
なにしろ今は少しでも可能性があるなら、やってみるべきと思う。
私は両手を前に伸ばした。
手を広げて、手のひらに意識を集中する。
えーっと、盾のような、相手の攻撃を防げるもの。
物理だけでなく、魔術の攻撃や、ミカドちゃんのブレスみたいな攻撃からもちゃんと守れるもの。
必死にイメージして、ひたすら集中する。
出来たら、範囲を変えれるものがいい。
1人を狙ったものでも、大勢を狙ったものでも、対応出来たらとても便利だ。
目を閉じて頭にイメージを浮かべると、もやもやとそのイメージが具現化してくる。
お?これはもしや、成功する?
たしかな手ごたえに気分も乗り、浮かんできたイメージにさらに集中。
よし…あと少し。
でも、なんだ?このイメージ。
どこかで見たことがあるような。
頭に徐々に浮かんできたのは白い長方形。
いや、でも真っ白じゃないな。
両端に、水玉模様のような、赤と黒のドットが並んでる。
ん?なんだこれ?
真ん中にも、何か……。
「手拭いバリア!!」
口から飛び出た声は、自分の意識したものではなかった。
勝手に口をついて叫び声となり、その瞬間、目の前にズラリと長方形が整然と並ぶ。
「!!!」
「トキコ……?!」
「なっ……?!ねーちゃん?!」
エレンダールさんの驚愕した顔。
信じられないものを見るようなリーズレットさんの反応。
そして何より、侑李の呆れを含んだ声。
な……なんだ、これ。
目の前に並んで、私を囲うように壁を作っていたのは、真ん中に温泉マークの書かれた、手拭いだった。
お読みくださりありがとうございます。
皆様のおかげで100話目……!
本当にありがとうございます!
更新が滞りがちですが、温かく見守っていただけると嬉しいです。