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二章 10 『湖談義』


 「あれ・・・?今日は市場に行ったんじゃなかったの?」


 シルバが馬車に牛を積んだまま帰ってきたのを見て進藤が尋ねた。


 「いやー、私としたことが勘違いしてね!今日は市場に卸す日じゃなかったんだよ!ハハハ!うっかりしてたよ!」


 シルバは笑い飛ばしながら答えた。


 「そうなんだ。シルバにしては珍しいね」

 「まあ私も人間だ、こういうミスもあるさ!次から気を付けるさ!それじゃあ私は牛を牧場に放しに行ってくるよ!」

 「ああ、うん・・・」


 シルバはいつも通りの様子だった。しかし進藤は何かが引っかかった。それは言葉で説明するには難しいほどのわずかな違和感だった。


 それから進藤は湖を訪れていた。今日は定期的お供えをする日だった。これも水道水の水質を保つのに大事なことだ。サラスの機嫌を損ねれば安心して水が飲めなくなるかもしれない。


 毎度のワインとパンを湖の畔に並べた進藤は湖に向かって念じる。頭の中でサラスに呼びかければそれに反応してサラスが湖から顔を出す流れだ。


 「・・・ぷはぁー!!」


 湖からサラスが豪快に顔を出す。濡れた髪を左右に振り水滴を飛ばしながら上がってきた。


 「ご苦労様♪熱心な信者がいるとやっぱり違うわねー!今じゃこれがすっかり生き甲斐だもの!」

 

 そう言いながら供えてあったワインに手を伸ばすサラス。見た目は完璧美人なのだがどうも言動がおっさんくさい。水で模したコルク抜きでワインの瓶のコルクを引き抜くサラス。それを見るとやはり湖の女神なんだと再認識した。


 「誰が信者だよ、誰が!」

 「まあまあ、堅いことはどうでもいいじゃない?ぷはぁー!今日も体に染み渡るわぁ!」


 豪快に瓶のワインを飲むサラス。ワインの味にご満悦の様子だ。


 「・・・なあサラスはずっとここの女神なのか?」

 「ん?何よ急に?どうしたの?」

 「いや、なんとなくなんだけど。なんか女神って言う割には随分と人間と似てるなって思って」

 

 進藤は素朴な疑問をぶつけた。


 「まあそれもそうでしょうね。私だって元々は人間だったんだもの」

 「・・・えぇ!?」


 サラスのサラッと衝撃発言に進藤は驚き叫んだ。


 「え!?サラスって元々人間だったのか!?」

 「そんなに驚かなくてもいいじゃない。私からしたら君のその不思議な力の方がよっぽど驚きなんだけど?」

 

 飄々としているサラス。


 「いやいや!絶対サラスが元人間だっていう方が驚きなんだけど!どうして人間だったサラスがこの湖の女神なんてしてるんだ!?」

 「なんでかって?それは私がこの湖で死んだからじゃない?」

 「・・・え?」


 まさかの答えに進藤は言葉を失った。


 「その・・・悪い。変な事聞いてしまって・・・」 

 「え?あっ!そんな顔しないでよ!死んだって言ってもかれこれ大昔のことだから!もう気にしてないし!これでも女神になったのは気に入ってるしね!」


 サラスは水を滴らせながら笑顔で言った。


 「そ、そうなの?」

 「そうよ!毎日お気楽に過ごしてるし最近は君がこうしてお供え持ってきてくれるから楽しみも増えたし!女神の生活も悪くはないわよ!」


 そう言ってサラスは再び瓶の赤ワインを飲んだ。


 これからはもう少しサラスへのお供えの回数を増やそうかなと進藤は思った。


 「そっか・・・なあサラスはこの世界でのいわゆる貴族ってやつのことは知ってるか?」

 「え?貴族ですって・・・?どうしてそんなこと聞くの?」


 サラスが不思議そうな表情を見せた。


 「この前王都に行ったんだけどその時に貴族を名乗る奴と会ってちょっと色々あってね・・・俺ってこの世界の事あんまり詳しくないからちょっと聞いてみたかったんだ」

 「そうなんだ・・・貴族ねぇ・・・あんなくだらない身分なんて誰が最初に決めたのかしらねぇ・・・」


 サラスの透き通るような青い瞳は湖の遠くの方を儚げに見つめながら呆れたような言い方をした。それは何か思うところがあるような表情だった。 


 

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