二話
心地の良い朝の風。
冷たくなくなったのは、何時頃だっただろうか?
過ごしやすくなったものだと思う。
冬という死の季節から、春という芽吹きの季節へ。
少しずつ、世界は移り変わってゆく。
花開き始めた街道の桜。
春を知らせる始まりの光景は、もう間近。
そんな中、僕はいつもと変わらず剣を振る。
持つのは真剣。木剣での訓練が推奨されて入るものの、あれは軽すぎて話にならない。
……第一、木剣での訓練なんて、真剣での戦闘の役には微塵も立たない。
重さならごまかせるのかもしれない。が、そこまでするくらいなら刃潰しした真剣の方がいい。
まあ、僕の場合刃潰しすらしないけど。
実践で使える剣でないと、味わえない緊張感が欲しいのだから。
ブン、ブン、と。風を切る音が、世界を支配する。
僕の右腕は剣だ、と自己暗示のようなものを、かける。
ただ、ひたすらに、振り続ける。
仮想の相手を立てると良い、なんて言われたりもするが、そんな理想の相手なんてそうそう見つかりやしない。
ポワポワとした想像の上で作り上げる敵の強さなど、あやふやすぎて訓練の邪魔になるだけだ。
だから、ただ、振る。
そんな相手が見つかった時のために、基礎を、磨く。
ただ、ただ。
光り輝く、宝石となるために、磨き続ける。
残念ながら、僕には剣の師匠に恵まれなかった。
なので、この剣術は全て我流。
達人から見れば、きっと子供のお遊びにしか見えないであろう棒振りを、ただ、続ける。
そういえば。
この剣術を始めた時も、いつか剣の師匠が見つかった時のために、なんて考えていた、はずだ。
……6年間待てど、そんな人間は現れなかったが。
袈裟斬りのように、剣を振り下ろす。
そこから繋げるように、振り向きと同時に剣を下から振り上げる。
後ろに下げた足でバランスを取って、横薙ぎの一閃。
抉り込むように、突き出す右腕。
共に突き出される剣は、槍のように鋭い一撃を放つ。
「……ダメか」
ポツリと、漏れでる言葉。
これでは、まだ足りない。
何をすれば強くなれるかは、分かる。
何が足りないのかも、分かる。
だからこそ、その足りなさを埋めるための道のりの長さに、歯噛みしているのだ。
不意に。
考え込んでいた僕の、意表をつくように、現れた。
ガサッ、と草木の不自然な音が聞こえ、視線を向ける。
向けた先には、金髪の少女。
冷や汗を流して、固まっていた。
「……おはよう、ございます?」
動こうとしない少女へと、問いかける。
「ごっ」
「ご?」
「誤解ですぅぅぅぅ!!!」
何故か顔を赤らめた少女が、大声を出しながら走り去っていた。
呆気に取られる僕。一体どうしたというのだろうか?
……覗いたことが、誤解と言いたかった?
「……まあ、いいや」
不思議な子に出会ったものだ、なんて呑気に考えながら。
春風に揺られつつ、僕はまた剣を振るい始めた。




