1/19
一話
懐かしい、情景を見た。
祖父に手を繋がれた黒髪の少年と。
叔父に手を引かれた黒髪の少女。
涙を流しながら、少年は叫ぶ。どうして、どうして、と。
少女は振り向かず、叔父に寄り添い去ってしまう。
残された少年は途方に暮れて座り込んでしまい、祖父は立ち上がるのをじっくり待っていた。
懐かしい、昔の記憶。
───────────────────────
「…………」
ゆっくりと、瞼を開く。
心地よい目覚めだ。
誰にも邪魔されることのない、静かな。
ベッドから離れ、いつものように顔を洗い、寝癖を軽く整える。
歯を磨きながら、机の上の手紙に触れて、ポツリと呟く。
「もう、五年か」
呟きは静かな部屋に反響し、虚空に溶けて消える。
頭を振り、余計な思考をやめた。
ジャージを羽織り、フードを被る。
イヤホンを耳につけ、曲を流す、手馴れた操作。
「行ってきます」
返されるはずもない言葉を無人の部屋に投げ、僕は扉をゆっくり閉めた。




