↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆引き境界  作者: しや
偽りの宴
PR
1/97

お嬢様の遊戯

 目の前に広がる惨劇。血が周辺を埋め尽くす。赤に染まった世界。紅く彩られた空間、朱に魅入られた場所、緋に狂わされた時間。

 惨劇へと移行した宴。


「犯人はわかりましたか?」


 満面の笑顔で、彼女は幾度目かの答えを訪ねた。


 ――物語は狂った歯車の如く開始された。




 時は数日前に遡る。


「オイ、着いたぞ。無免許」


 曖昧な意識を覚醒させる、不機嫌な声が響く。


「んあぁ?」


 反射的に出た声は寝起きというだけあって低音だった。

 横たわっていた身体を起こし、寝ぼけた頭で此処は何処だっけとうつろな視界で周囲を見渡すと徐々に視界は鮮明になり、バックミラーが俺の顔を映した。

 微妙に身体の節々が痛いのは、心地よいベッドではなくリアシートで無理やり上半身だけ横にして寝ていたせいだろう。

 車の眠気を誘う振動に負けて寝てしまったのが失敗だった。自慢の服が皴になっていいなと思いながら、気持ち手アイロンで伸ばす。


「相変わらず寝起きは口が普段以上に悪いな」

「うるせぇ、これがデフォだ。今は、ラグドールがお出かけ中なんだよ」

「なんで猫の種類まで決まっているんだよ」

「俺が一番好きな猫だから」

「あっそ」


 呆れられた。酷いな。


「つーかお前相手に、猫被る必要はねぇだろ」

「お前の猫気色悪いしな」

「ひどっ」


 評判のいい猫を気色悪いとは酷いやつだ。

 仮眠を取るのに邪魔で外していた赤い蝶がワンポイントのカチューシャをつけ直して、バックミラーで髪の乱れがないかを確認する。その序に運転手兼相棒兼楽しい遊び相手である終夜(よすがら)の表情を伺う。眉を顰めて機嫌が悪そうなのは、いつも通りだ。青い瞳が俺の行動に呆れている。

髪の乱れが直ったので、窓から外を眺めると森の中に魔女の城と例えたくなる豪邸があった。

 木々が生い茂る森の中は、日が出ているうちはまだいいが、月が出れば不気味な雰囲気を醸し出しそうで、亡霊が出ても不思議ではない怪しさがある。


「ん、ありがと」


 寝起きの会話が猫かぶりで終夜にお礼を言っていなかったことを思い出した。


「たく、人様に運転を任せておいて、緤(きずな)は悠々と寝るなんて随分と言い身分だな」

「当たり前だ。終夜と俺なら俺の方が圧倒的に身分は上だ」

「はぁ!? なんだ、その俺様加減は!」

「俺が美しいからだ! それに招待されたのは俺だしな」

「青酸ぶっかけてやろうか」

「美貌への妬みは生涯のつきものだから仕方ないな」

「裁縫箱忘れたことを心底後悔するわ」

「は? パニエは別にほつれてないぞ?」

「違う。お前の口を縫いつけるんだよ!」

「なぬ!? 手術道具にしろよ、麻酔ないと痛いだろ」

「緤の口を縫うのに麻酔は不要だ」

「俺の美貌に傷一つでもつけてみろ、末代まで呪い殺してやる」

「勝手にしろ。呪い殺せるんならな!」

「そこは俺への愛で生き抜いてやるとか答えろよ」

「気色悪い。お前の愛で生きるくらいなら、俺は富士の樹海で死ぬ」


 今日もからかうのが楽しい相棒の終夜だ。

 遊ぶのはこの辺で区切ろう。見極めないと最終的に殴られる。

 喧嘩なんて物騒なこと、華奢で美人の俺には向かない。綺麗な美貌に傷がついたら一大事だ。

 車内に留まっても仕方ないので、外に出ると足元が少し涼しい。現在の時刻はデジタル時計で確認したところ十七時四十八分四十五秒と正確な時間が表示されていた。十八時までにお越しくださいと記載されていたから、ベストな時間だろ。他の参加者の一部は既に数組到着しているらしく、バイクや車が駐車されていた。

 そう――参加者。

 招待されたから電波が通っているかも怪しい――通っているけど――山奥にまで来たのだ。終夜アッシー君で。


「所で、緤。お前に連れていけって無理矢理運転させられたけど、何のために此処に来たんだ? 俺は目的をしらねぇぞ」


 終夜には今回、此処にきた目的を詳しく話していない。まだ話すべきタイミングではないと俺が判断したからだ。

 必要な時、その目的を俺は提示する。

 そうでなければ、終夜にまでこの気分を長く味合わせる羽目になるからな。


「此処にはさる令嬢の舞月綾無(まいつきあやな)が住んでいるんだ。そして今回そのお嬢様がパーティーを開いた。それに招待されたのさ」


 ちなみに、招待状には招待された俺の他に同行者も可と記入されていた。但し人数は同行者含め三人まで。同行者がいる場合はその者の名前を、記載されているメールアドレスへ前日までに送ることと書いてあった。だから問答無用で終夜の名前を送った。

 指定したのは、終夜がベストだからだ。免許を持っているのが終夜だけという理由も勿論、一つではあるが――終夜にしか頼めない事案だから、何より終夜は俺の相棒だから巻き込んでも構わないと信頼している。


「何故それにお前が招待される? 舞月とは何の関係もないよな?」

「あぁ、初対面だ。けれど、来なければならない必然があるんだ」

「その目的は、まだ話せないってか?」

「おいおい話すからもう少し待ってくれ」

「わかった。なら今、話したい範囲で話せ」

「ここではパーティーと称したゲームが催される。ただし、そのゲームについて、何が起こるのかは知らない」


 春の陽気な風は温かいはずなのに、森に囲まれたこの土地が冷気を放っているかのように、冷たくも感じられる。

 此処で立ち話をしていても無意味だし、屋敷に足を踏み入れるか、と一歩踏み出す。


「知らないって調べなかったのか?」

「――調べたよ」


 嘘を並べて誤魔化す――例えば、攻略がわかってしまっているゲームは面白さが俺はないと思うと持論を述べるのはありだが、意味がないことだ。


「なのに、何故」


 その言葉には、お前が調べたのならば知らないことはないだろうという、俺の技術に関する信頼が含まれていた。

 その信頼に答えられないようで心苦しさもあるが、首を横に振る。


「調べたけれど、何もでてこなかった。ゲームについては、な」

「なるほどな」


 終夜は僅かに気を引き締める。何も出てこないというのは、それはそれで不気味だ。個人情報からあらゆるものが詰まっているだろうネットの世界で、何もないのは不可解に感じてしまうのは、俺だけではない。


「一応、これは持ってきているけどな」


 手提げ鞄を軽く持ち上げる。俺の恰好とはミスマッチでお洒落ではないデザインだが、作りは頑丈でちょっとした衝撃を吸収してくれるありがたい鞄だ。

 これ以外荷物は終夜に運んでもらっている。

 大切だから預けられないわけではなく、キャリーを持たせているのでこれ以上増やすのも可哀そうだと思ったんだ。


「頼りにしているぞ」

「おう。大船に乗ったつもりでいるといい」

「泥船じゃなきゃいいけどな」

「沈殿しても助けねぇからな」

「お前に助けられる状況ってなんだ、俺は両手両足骨折して身動きでも取れないのか」

「悲劇のヒロインを助けるシチュは好きだが、お前相手には喜べないな」

「喜ばれたらどんな加虐趣味の変態だよ」

「全くだ」


 いい加減、魔窟へ足を踏み入れるか。

 ここから先、どんなゲームが行われて何が起こるのかはわからないけれど、終夜なら何が起きても付き合ってくれると確信している。

 豪邸は古風な洋館といった印象だ。呼び鈴がついていたので、紐を引いてちりんちりんと二度鳴らす。風鈴のような音で、一目見ただけでは全体像が分からないほどに広い屋敷では聞こえないのではないかと心配になるが、杞憂に終わり重厚な扉が開き、いかにも執事ですといった風貌の人物がランプを片手に現れた。

 年のころ合いは六十代後半。燕尾服姿は貫禄が漂い、髭を伸ばした姿は男の魅力を最大限に引き出している。

 山奥すぎて電気が通ってないという笑えない冗談をランプから想像したが、ただの雰囲気づくりだった。

 確かに雰囲気は出ているけど、驚かせないでほしい。まぁ電波が届くのに電気が通ってないのは普通ありえないけど。

 鈴を鳴らすのも雰囲気作りの一環で、鳴らすと機械が来訪者を知らせてくれる仕組みになっているらしい。なるほど。だから風鈴のように静かな音だったわけだ。

 疑問が解決したところで、執事の名前を尋ねると凉森新十郎すずもり しんじゅうろうと名乗ってくれた。

 彼が俺と終夜をダイニングルームへ案内してくれる。丁寧な口調とは裏腹に有無を言わせないような威圧感が漂っていて、涼森さんと、心中でも呼び捨てにできない気分にさせられた。

 長い廊下を歩いている間、終夜は壁に飾られた絵画に目移りをしている様子だ。こんな豪邸生きている間に足を踏みいれるかもわからないから、当然だよな。

 美術にさしたる知識がない俺でもすげーって感動する圧巻さがあるし。

 ダイニングルームに到着すると、真っ先に目に入ったのは、赤い絨毯と長テーブルだ。

 金と赤の鳥をモチーフにした刺繍がされたテーブルクロスの上に、透明な板を重ねている。

 金縁飾りのついた椅子が並べられていて、空席は三つ。

 どうやら俺たちが最後の来客だったようだ。最後の一つは位置からして違う。主人である舞月が座る席だ。

 遅刻したわけじゃないが、最後に到着は遅れた気分で心境複雑。

 執事の涼森さんに椅子へ座るよう促されたので、座るとお持ち帰りしたいくらい身体になじむ座り心地が良かった。

 ゲームの参加者を数えると全員で十人、年齢は十代後半から二十代、よくて三十代前半までのようで、男女の人数は同数程度だ。

 着席を見計らったように主催者が桜色のドレスに身を包み、深窓の婦人という言葉は彼女のためにあるような人物が現れた。

 大人びた雰囲気を醸しながら、その表情は無邪気であどけなさを感じさせる。

 漆黒の髪が歩くたびに揺れ、立ち止まると優美な動作で微笑んだ。


「皆様、お集まり頂け光栄ですわ。初めまして、わたくしは今回の主催者、舞月彩無(まいつきあやな)と申します。宜しくお願い致しますわね。ルール説明の前に、自己紹介を始めたいのですが、宜しいですか?」


 疑問形だが、言葉には有無を言わせない力があった。

 もっとも、終夜以外見ず知らずの他人だし、他の参加者も同行者以外は見知らぬだろうから、自己紹介はこちらとしても異論がない。

 時計回りにお願いしますと、可憐な笑みを見せた。

 ――この時はまだ、この笑みを可憐なとしか読み取れず、そこに潜む異常さに気づけなかった。

 もっともすぐに気づかされることとなるのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。