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ロールド  作者: ハム
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第12話

息を整えながら座り込む向井と大野


『何なんっすかあれ?』


『お、俺が知るかよ!』


『あ、あれ人間じゃないっすよ』


『あぁ………』


二人の様子をドアの傍で見ていた神谷は二人に声を掛けようとした途端、先程閉めたドアをドンドン、ダンダンと叩く音が響いた。その音に神谷は一瞬多事炉いたが、ドアの鍵がしっかり掛かっている事を確認すると少しだけホッとした表情になる。


『一体何なんだ!女性一人じゃなかったのか?』


『………さっき此処に逃げ込む際に似た様な奴が二人近寄ってました………多分、そいつらでしょう………』


『それより大丈夫なんすか………そのドア………』


『鍵は2箇所だし扉は鉄製だ、滅多な事じゃ開きゃしないよ………』


『それよりも、奴等一体何なんだ?』


『俺にも分かりません………ただ、あいつらヤバイですよ………』


『暫くドアの前から離れて我々の存在感を消そう………そしたら奴等も諦めて散るかも知れん………』


『………そうですね。後、いつでも脱出出来る様にしときましょう………ヤバくなる前にハッチに避難しといたが良いかも知れません』


神谷、向井、大野の三人は一度扉から離れて、音を立てない様に二階の事務所に戻って行った。事務所に戻り仮眠室に向かうとカーテンの隙間から向井達の様子を見ていたらしく、女性三人は怯えていた。女性三人も危険を察しているのか物音を立てない様にしていた、そんな中、小田が小声で男性陣に話し掛けてきた。


『………これからどうするんです?さっきの様子は見ていました。一体何なんです?』


『………しばらくは此処で物音を立てない様にしてよう………頃合いを見て地下に避難しよう………』


『あいつら化け物っすよ………何も言わずに襲ってきたんすよ………』


『あぁ………どうやら俺達の脳を狙っているみたいだったが………青木さん………残念だけど、あれはもう………あなたの同僚じゃない………』


青木も様子を見ていたのだろう。声を殺し泣きながら頷いた。青木の横に彼女を支える様にいた秋山が何かを考え込んでいた。



その頃田沢達の居る避難所でも異変が起ころうとしていた。河野達との話を終え今後の事を話し合っていると、遠くから異様な音が聞こえてきた。最初は微々たる音でしかなかったが、徐々に近付いてくる音に一同耳を澄ませる。何かに気付いたのか田沢は素早く部屋の入り口に近付き電気を消した。


『ぁぁぁぁぁあああああ………』


『何だこの叫び声………しかも複数………かなりの人数の声じゃないか?』


松尾の発言に田沢は人指し指を口に添えて合図する。その合図を河野達も理解し、皆で近寄り合い屈むと小声で話始めた。


『………一体何だね………あの奇声は?』


『………分かりません………ただ嫌な予感がします………しばらく様子を見ましょう………』


『………そうだな………それでさっきの話の続きだが………これからどうする?』


『我々は隙を見て、元居た場所に戻り脱出します』


『脱出?この埋立て地は完全に封鎖されている………海から脱出しようとしても巡視艇やヘリに撃たれて終わりだろう?』


『いえ、地下道を使います………』


『地下道?そんなものがあるのか?』


『はい………この埋立て地が出来る際に作られたらしいです………そこからなら向こう岸に出られる筈なので………』


『………しかし、もし見付かれば殺されるぞ………』


『このまま此処に居ても殺されるだろ?』


突然の松尾の発言に目を大きくし河野は松尾を見ていた。松尾は更に話を続けた。


『河野さん………あんたのさっきの前例の話からすると、私達は間違いなく隠蔽も含めて殺されるよ………』


河野は核心を突かれ何も言えなかった。柳が河野を此処に隔離したのも口封じも含めての事だろう、外部との連絡を絶たれたのがその証拠でもあった。田沢もまたその事に気付いていたのだろう。この事態が起こってからの彼の行動を見れば非を見るより明らかである。



神谷の居る倉庫ではドアを叩いていた死者達は他の獲物を見付けたのか既にそこからは離れていた。その事に気付き地下の方に移動を開始していたが、田沢達にも聞こえた数多くの呻き声が神谷達にも聞こえており、彼等の不安を一層煽り立てていた。


『何なんだあの声は………徐々に近くなっている………』


『………まさか、さっきの奴等みたいんじゃないっすよね………』


『兎に角地下室に入れ………取り敢えずいつでも逃げられる様にな………』


女性三人を先に地下室に下ろし、神谷達はハッチからは降りず外の物音に聞き耳を立て警戒していた。徐々に近くなる呻き声に彼等の額からは冷たい汗が流れていた。




薄暗い書斎と思われる一室で黒い皮張りの椅子に腰を下ろし、柳は誰かと電話で話をしていた。


『あぁ………勿論極秘りに処理して貰いたい………』


『………すまないが頼んだよ………』


電話を終え背もたれに寄り掛かり、溜め息をつく電話を終えた柳の表情は曇っておらず、実に清々しいものであった。彼は満足げな表情でにんまりとし、机に置かれたグラスを手に取りグラスに入っていたウィスキーを一気に飲み干した後、呟く様に言葉を発した。


『………すまんな、河野………俺はまだ詰む訳にはいかんのだ………』




田沢や神谷達に聞こえた奇声は勿論自衛隊員の耳にも届いていた。田沢達の元に戻ろうとした隊員も、異変の為に本隊に留まる様に指示を受け残っていた。奇声が近くなる事に緊張が走り自衛隊員達は臨戦態勢に入った。殆どの者達は埋立て地に取り残された者達が暴動を起こしているのだろうと思って居たが、今から彼らが目にするものはそんな生易しい者ではなかった。


『何だ………随分騒がしいな………一応鉄線と扉に電気を流す用意をしておけよ………』


『はい………あのぉ………』


『ん………どうした?』


『………本当に民間人を撃つんですか?』


『仕方あるまい………上からの命令には逆らえんしな………それに我々が聞かされているのは、このエリアに蔓延したウイルスはかなり危険らしいからな………』


部隊の長も民間人に対する発砲命令を不快に思い上官に何度も連絡をとったが上の返答は変わらず終いだった。この日本において発砲許可など早々に降りる事等なく、自衛隊においても人を標的に撃った事のある者は殆どおらず皆が戸惑いを隠せずに居た。


『た、助けて!』


咄嗟の叫び声が聞こえ、扉の上から隊員達が自動小銃を構える。叫び声の方から30代後半と思わしき男性が走ってこちらに向かって来た。自衛隊員が拡声器で男性に立ち止まる様に命じたが、男性は指示に従う事なくこちらに向かっている。自動小銃を威嚇の為に男性の足元に一発撃ち込むが男性は恐怖に刈られているのか、それでもこちらに向かってくる男性に照準を定め様としていると、男性の後ろから更なる人影が見えた。それと同時に先程の呻き声が更に近くなる。隊員達の目は男性よりも後ろから走り迫る人影を見ていた。その数にして約20人、奇声をあげ走り迫る集団の奇声が言葉として聞こえてくる


『脳ミソ!』


『ブレイン!』


集団の発した言葉と尋常ではない男性の恐怖に刈られた表情にただ事ではない状況を察した隊員が言葉を発した。

『銃撃用意!』


その言葉に隊員達は自動小銃を一斉に構えた。照準は勿論男性ではなく、その後ろから走り来る集団に向けられていた。隊員達は唾を飲み込み次の指示に備えていた。

その間にも男性はこちらに向かっているが、後ろ走る集団は徐々に間合いを積めて行く、隊員達の額から汗が流れ緊張が高まる。男性と坊波扉の距離が50メートルをきり、その数メートル後ろに死者が走って来た時、指揮官の声が響いた。


『撃てぇ!』


それを合図に一斉に弾が射出され銃撃音と共に死者の足を直撃する。異常性を感じ最初に足を狙ったが、それでも死者は怯む事なく男性を狙いこちらに向かってくる。その異様な光景に驚く暇もなく次は各々の判断で銃を撃つ、容赦ない銃弾の雨が降り注ぐ、中には心臓に命中する者、頭に銃弾を受ける者も、その事で倒したと思ったが、死者は立ち上がり尚も男性に向かって行く、


男性は自衛隊員の銃撃に萎縮し走りを止めたが、それは死者に絶好の機会を与えてしまう。耳を抑えながら死者の方を男性が振り向いた瞬間だった。唐突にタックルを喰らい地面に倒れ込む、彼が次に見た風景は己の周囲を死者が取り囲み、望んでいたとばかりに大口を開きながら、脳ミソと発した死者の顔だった。人間の頭蓋骨を噛み砕き中身を貪る彼等に隊員達は一瞬にして思考が停止させられたが、指揮官の言葉で我に返り更に銃弾を浴びせる。


先程同様に命中し倒れ込む死者も居たが一時の時間稼ぎにしかならず、死者は再度立ち上がり今度はこちらを標的にしたのか、獲物を見るように隊員達を見ていた。眼前で起こる理解不能な事に恐怖を抱きながらも銃を構え狙いを定める。足を撃ち抜かれた死者は流石に今まで通りとは行かず足を引きずりながらも立ち上がりこちらに向かってくる。まだ死者との距離はあり指揮官の命令で隊員4人が一斉に手投げ弾を死者達に向かい投げ込む、その数秒後に爆発音と巻き上げられた煙に混じり爆発によってアスファルトの欠片が降り注いだ。


噴煙立ち込める中自動小銃を構え直す隊員達、幾らなんでもこれで倒せただろうと思っていた。徐々に煙が晴れていくと、四肢がバラバラになった死者が目に入ってきた。5体程バラバラになってはいたが残りは腕を吹き飛ばされたり片足かもがれても立ち上がっていた。バラバラにされた死者も吹き飛ばされた部位は動きを失っておらず、暴れていた。部隊の指揮官も驚きを隠せずにいたが、ふと我に返り隊員に後退を指示した。その様子を見ていた死者も徐々に有刺鉄線の巻かれた坊波扉に近づく、隊員達が離れるのを見計らい指揮官が叫ぶ、


『電流を流せぇ!』


その言葉と共にスイッチを入れる隊員、またその合図を見計らうかの様に死者も扉に張り付いた。その瞬間電流が全身に流れ今までの身動きを失って行く死者達、ある者は電流が強烈で眼球が飛び出しそのまま倒れ込み、又ある者は頭から蒸気を発した後倒れ込む、中にはポップコーンの様に頭が破裂した死者もいた。しかしまだ無事な死者達は学習能力があるのか坊波扉に触れる事はなかった。しばらく睨み合いが続いたがどうする事も出来ないと分かったのか死者達はその場から走り去って行った。

残された動く事のなくなった焼き焦げた死体を隊員達はガスムスクをしたまま見つめていた。その様子を田沢達は避難所から息を飲みながら見る事になった。





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