40.ルリハリブラザーズ!
「本日より、この二人とともに中庭の清掃を正式に命じます。よろしいですな。三人とも」
「……」
ディアナはぽかん、と口を開けてそのブレンからの辞令を聞いた。
翌日、ディアナは張り切ってブレンの元へと向かった。
メイドのアイリスの姿で、だ。
エリアスからメイドに扮することに対する強い否定はなかった。そしてブレンに自分のことを認めさせればエリアスに味方をしてくれるかもしれない。という何の根拠もない思い込みが彼女の背中を押した。
「ブレンさん! おはようございます!」
意気揚々とそう声をかけたディアナに、
「……おはようございます、アイリス殿」
ひょいと意外そうに眉をあげてブレンは応じる。その表情はまた来るとは思わなかったといいたげである。
それにふふんと得意げにディアナは胸を張ってみせた。
「始業の挨拶に参りました! では昨日頼まれた中庭の清掃に行って参ります!」
そう宣言するときびすを返しすぐに中庭に向かおうとするディアナのことを、「お待ちください」とブレンの声が呼び止めた。
「その『業務』についてですが、変更があります」
ディアナは首をかしげた。
そして中庭にて告げられたのがさきほどの辞令である。
『三人とも』と言われたうちの一人は、当然ディアナだ。
では残りの二人はといえばーー、
「どうして僕が庭の掃除なんかしなくちゃいけないのーっ?」
「どうして僕がこいつと一緒に働かなくちゃいけないのーっ?」
美少女と見まがうばかりに美しい、メイド姿の美少年。
ルリハリブラザーズだった。
二人はふてくされた顔をしてディアナのことをじっとりと睨んでいる。
その頭に派手なげんこつが落とされた。
ブレンだ。
そのげんこつの強さに二人はしゃがみこんで頭を押さえる。
「元はといえばおまえ達二人が言い出した仕事だろう。責任を持って何日かかってでもやり遂げなさい」
静かだが反論を許さない声音でそう告げると、ブレンはディアナのことを見た。
その冷静にこちらの真意を見透かそうとするような瞳にディアナの背筋が思わず伸びる。
「ーーでは、頼みましたよ」
そう言うとその真っ直ぐに伸ばされた背中は革靴の音を立てて遠ざかっていった。
「……えっと、とりあえずよろしく……?」
何も考えずにした挨拶は、
『おまえとよろしくなんてするもんかっ!』
異口同音のユニゾンで拒否された。
数時間後、三人は黙々と作業をしていた。
ディアナが口をきいてもらえないのはもちろんのことだが、意外なほどに二人も無駄口を叩いていない。
(き、気まずい……っ)
これなら一人で作業していたほうが精神的にはマシだったかも知れない、そう思い始めた時、正午を告げる鐘の音が響いた。
顔を上げる。
「あーあっ、つっかれたーっ」
「おまえのせいでとーんだ重労働なんだからっ」
双子はそれぞれに伸びをすると歩き始める。それに慌ててディアナも後に続いた。
「まったくもーっ、叔父さんも融通きかないんだからーっ」
「まったくもーっ、叔父さんも意地悪だよねーっ」
二人は文句を言いながら屋敷の裏口へと向かう。どうやら先ほどまで話さなかったのは一応業務に真剣だったからのようだ。休憩の時間になった途端に饒舌にしゃべり出す。
ぺちゃくちゃと話す二人に少し離れて、柱や壁に隠れつつこそこそとディアナはついて歩いた。しばらく三人はそのまま廊下を歩き、
「ねぇっ」
唐突に振り返られてびくりっ、と身をすくめる。
じろり、と赤い目がディアナのことを睨んだ。
「なんで付いてくるのー?」
「僕たち、あんたと仲良くするつもりないんだけどー?」
「え、えっと……」
もじもじとしながらディアナは隠れていた壁から体を出す。
「わ、わたし……、新人だからどこで休憩すればいいかわからなくて……」
ついでに言えば使用人たちの食事がどうなっているのかもわからない。
(みんな、どこで食べてるの……?)
ネルに聞ければそれが一番いいのだが、彼女が今どこで仕事をしているのかも、正午ぴったりに休憩に入っているのかもわからない始末である。
「……」
二人は顔を見合わせると、「はぁー!」と盛大にため息をついた。
(み、見捨てられるかしら……)
ここで彼らにも見捨てられたらディアナはこの昼を食事なしで過ごすことになる。
(ああ、かつての絶食の日々の再来!)
まぁ今回は昼食なしでも夜食は確実にゲットできるので正直そこまでの危機感はない。しかし重労働でお腹が減っているのは事実だ。
ディアナのお腹が盛大にグー! と音を立てて鳴った。
思わずぱっとお腹を押さえ、恐る恐る双子を見る。
『……』
彼らはとても残念なものを見るような目をしてこちらを見ていた。
ディアナの顔が真っ赤に染まる。全身から羞恥の汗が噴き出した。
「僕着替えに行きたいんだけどー」
「いいよ、僕が食堂に先に連れて行くから。ルリは着替えちゃいなよー」
そういうとおそらくハリと思われる少年がとことこと歩き出す。数歩歩くと、ぴたりと止まった。
「……?」
疑問に思って眺めているディアナに、彼は首だけで振り返ってぎろりと睨む。
「なにぼさっとしてるのっ! 案内してあげるって言ってるんだからちゃんと付いてきてっ!」
「あっ、は、はい……っ!」
ディアナは大慌てでハリの後ろへと付き従った。





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