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縁を望む弟

 それから暫く、俺達は野宿したり、村々を渡って仕事を続けた。


 けれど、ある時。

 宿で空いていた部屋を二つ借りた時のことだった。


 部屋割を紫暮が決めようとした。


 紫暮は俺と。

 凍塚は単独。


 紫暮はそう言ったが、俺は断った。


「いや、凍塚と自分にしてください」

「えッ……で、でも、君って女の子じゃ」

「いや、俺は男ですよ」

「えッ!?で、でもその格好……っ」

「旅芸人なんで。

 水浴びだって別々だったでしょう」

「……そ、そう……でも、君、いくつなの?

 独りで旅してるの?」

「あー、ちょっと前まで他の人らと旅してたんすけどね、野盗に襲われまして。なんとか俺だけで逃げ延びたんです」


 笑うと、紫暮はぶわっと泣いて、抱き着いてきた。

 この人はいくつくらいなんだろう。

 外見的には俺より歳上そうだが、情緒が歳下のそれだ。


「そ…それ、大変だったね……ッ、

 お姉ちゃんが守るからねぇ……ッ」

「姉さんはまず自分の身を守れるようになったほうがいい」

「凍塚!」

「はぁ……」


 夜、凍塚と話をしていたところ、凍塚は俺と同い年、紫暮は俺より四つ歳上とのことだった。

 二人の母親は代々霊媒師の家系だったらしい。

 だがその能力に目をつけられ、ある権力者のお抱えになり、苗字をもらったそうだ。とはいえ、由来は出身地の村の名前だが……。

 そかし、それが運の尽き。

 権力者の不興を買う言動をしてしまった結果、追い出されたらしい。

 元の村に戻ったら飢饉と戦の影響でとっくにも抜けの殻。

 それから、流浪の民のように彷徨うことになったのだとか。


「……その親はどうしたんだ?」

「別の権力者のお抱えやってる。

 でも、多分もう名前は出ないな。

 姉さんはそれが嫌だって言うから飛び出して、俺がこうしてついてきたってわけ」

「ふうん」


 こいつらも苦労してんだな。


「日瑞、気が早いかもしれないけど、姉さんの婿にならない?」

「!?いや、ないない」


 つーーと。

 廊下を歩いていた足音が立ち止まった。

 紫暮だ。

 こっちの話が聞こえたのか。


「……」


 ええ……どうしろってんだよ。


「出会ったばっかだし、俺はこんな風に軽薄だし。あの人はなんつーか……もうちょっと誠実がな人のがいいんじゃねーかと」

「……そう…」

「まあ、あの姉ちゃんが独りだと心配ってのは分かるけどな」

「うん……」


 そのまま紫暮の心配なところを互いに話し合い、夜は更けていった。



 翌朝、酷くぶすくれた様子の紫暮を、俺達は目にする。


「おはようございます」

「……おはよ」

「機嫌悪い?師匠」

「別に」

「絶対悪いだろ」

「悪くないもん」

「姉さん、素直になって」

「凍塚までそういうこと言うッ!」


 はっきり言って面倒だった。

 けど、ま、仕方ない。

 弟子としてなら、支えてあげよう。

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― 新着の感想 ―
前回の話で「女やったんか」と感想を書こうしたが、男の娘かも知れないと様子を見て良かった。 もしかして作者様のトリックかと思った。 江戸時代前期まで女性も「俺」を使用し、東北地方の一部だと現在も使われ…
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