03 森での出会い
魔都ザハーンに行くために、必ず通らねばならない城塞都市ベロニア。
だがそのベロニアは、厳重な警備が敷かれていて近づけない状態であった。
そこで俺は、皆を連れて街道を右に外れ森の方へ歩き始めた。ゲーム通りなら、この森からベロニアに入れるはずなのだ。
ベロニアの近くまで広がる森は、『万魔の森』とは違って普通の森であった。
真っすぐに幹が伸びた針葉樹が立ち並び、下生えの薄い歩きやすそうな森だ。
森の近くで左右を見回すと、ほかの場所より木の間が広くなっている場所がある。そこへ行って森の中を覗くと、やはりゲームフィールドのように森の中に明らかな道ができていた。獣道というより、森林公園とかの管理用道路みたいな道である。
「ここから入ることにしよう」
声をかけて、森の中に入っていく。
森の中では当然ながらモンスターが出現する。が、それらは鎧袖一触で倒されてしまう。フォルシーナがリーダーとして一段と成長していて、俺どころか女公爵ヴァミリオラ、聖女オルティアナ、将軍リンの大人組の出番すらほとんどない。
何回目かの戦闘の後、俺はフォルシーナを呼んだ。
「お父様、今の戦いでなにか至らない点があったでしょうか?」
「ああいや、そうではない。フォルシーナの魔導師としての力、そして指揮の的確さが素晴らしいと思ってな」
不安そうな顔をしていたフォルシーナだが、俺が褒めるとパァッと明るい表情に変化した。
「ありがとうございます。これもすべてお父様の薫陶の賜物です」
「すべてお前の努力によるものだ。今のお前なら、長らく空位になっている宮廷魔導師団団長に推してもいいかもしれんな」
「宮廷魔導師団団長……ですか?」
宮廷魔導師団団長は、あのレギン・レギルが務めていた役職だ。現在は仮の人間が団長代理を務めているが、魔導師としての能力はフォルシーナと比べると数段劣ってしまっている。もちろんそれは彼が悪いのではなく、レギルやフォルシーナたちが優れすぎているというだけなのだが、ともかく彼自身も見るたびに辛そうな顔をしているので、早く代わりを見つけてやりたい気持ちもある。
「うむ。王族がそういった役職に就く前例は少なくない。お前の能力を考えれば、むしろそれが当然かもしれん」
「しかしそれでは執務室でのお父様との時間もなくなってしまいます。それに私は常にお父様の隣で補佐をしたいのです。平和になれば、お父様も跡継ぎのことを真剣にお考えになると思いますし……」
と頬を染めて下を向くフォルシーナ。
なるほど、魔導師団団長より早く自分は婿を取った方がいいという判断か。時期尚早という気もするが、もしかしたらフォルシーナにはすでに意中の人間がいるのかもしれない。まあ、それはそれで父として見過ごすことはできないのだが。
「あくまで可能性の話だ。もちろん最終的にはお前の意思を尊重する。もし婿を迎えたいというのなら――」
「んんっ!」
俺の言葉に被せるように咳払いをしたのはメイドのミアールだった。何か言いたそうなその表情に、俺はあわてて口をつぐむ。ミアールの不自然な態度は恐らく、フォルシーナに婿の話はするなという合図。俺とフォルシーナの関係はいまだ不安定、ミアールはそれを慮ったのだろう。
「――ま、まあ、お前が私の隣を望むならそれで構わぬ。私もお前を隣に置いておきたいゆえな」
「はい、ありがとうございますお父様!」
ニッコリ微笑むフォルシーナは、好感度アップの印である。俺が内心ミアールに感謝をしていると、マリアンロッテとアミュエリザのメインヒロイン組が前に並んでくる。
「陛下、跡継ぎのことなら私にもご相談ください。きっとお力になれると思います」
「わ、私も陛下のために全身全霊をもって協力いたします。いつでもお声がけを!」
フォルシーナと同じくらい顔を赤くしてそう言ってくる2人だが、もしや彼女らもフォルシーナの意中の人を知っていて、もしもの時は協力してくれるということだろうか。さすがメインヒロイン3人組、結束力が強いようだ。
「うむ、その時には是非協力を願おう。期待しているぞ」
「はい! 喜んでこの身を尽くします」
「必ずやご期待に応えてご覧にいれます!」
キラキラした目になって、こちらも大幅好感度アップの予感である。
しかしこの2人がそこまで言ってくれるとは、フォルシーナもいい友人ができてよかったなあ。
とホッコリしていると、なぜか凄まじい熱風が吹き付けてきたのだが……。なぜかヴァミリオラに対しては好感度ダウンになってしまったらしい。いや、怖くて後ろを振り返れなかったので、実際どうだったのかはわからないのだが。
ヴァミリオラの熱い視線を後頭部に感じながら、さらに森の中を進むこと1時間弱、
「きゃあっ!?」
と、いきなり奥から子どもの悲鳴が聞こえてきた。
「お父様!?」
「うむ、急いで行ってみよう」
森の道を走って行くと、前方にそこだけ日の光が差し込んでいる、開けた場所が見えてきた。そこは地面が一面の花畑になっていて、森の中に幻想的な風景を作り出していた。
ただその花畑では、少しばかり緊迫感のある状況が展開していた。簡単に言えば、小さな女の子が大きなモンスターに襲われているところだった。
女の子は上半身が人間、下半身が蜘蛛のアラクネ族と呼ばれる種族である。アラクネ族は見た目は奇異だが、普通に会話のできる魔族だ。
一方モンスターは、身長3メートルはありそうな骸骨であった。頭部が角の生えた牛の頭蓋骨なので、半牛人のスケルトンだろう。手には大きな棍棒を持っていて、今にもアラクネ族の女の子に殴り掛かりそうな雰囲気である。
「まずいな。マリアンロッテ嬢、魔法を」
「はい陛下。『パニッシュメント』!」
走りながら、マリアンロッテが対アンデッド攻撃魔法を発動する。
次の瞬間ミノタウロススケルトンは光の柱に包まれ、棍棒を振り上げた姿勢のまま消滅した。
俺たちが花畑に入った時も、アラクネ族の女の子は状況がわかっていないようだった。俺たちの足音でこちらを振り返ろうとしたが、そこで、
「あ……っ、痛……っ!」
と言ってうずくまってしまった。
見ると、下半身の8本の足のうち2本が折れているようだ。先のスケルトンにやられたのだろう。
「大変!」
マリアンロッテが駆け寄って回復魔法をかける。彼女の聖属性魔法は強力で、折れていた2本の足は一瞬で治っていった。
うずくまっていた女の子は、治った自分の足を見て、それからマリアンロッテの顔を見上げた。白いショートヘアの、可愛い女の子である。
「あ……、ありがとう、お姉ちゃん」
「もう大丈夫よ。足は治ったと思うけど、他に痛いところはない?」
女の子は立ち上がって、上半身をねじって自分の身体を確認していたが、再びマリアンロッテを見て「大丈夫みたい」と答えた。
「よかった。私はマリアンロッテ、貴女の名前を教えてくれる?」
「わたしはロナ。ベロニアに住んでるの」
「ロナはどうしてこんなところにいたの?」
「お花を……お薬になるお花を取りに来たの。お母さんが病気になっちゃって、それで……」
そう言って、周囲を見回し始めるアラクネ族の女の子ロナ。
どうやら目当ての花が見つかったらしく、そちらへ歩いていって赤い花を摘んでマリアンロッテの元へと戻って来た。
「この花を探してたの。これをお茶に入れて飲むと、熱が下がるの。わたしも熱が出た時には飲んだから」
「そうなのね。じゃあ見つかってよかったわ。でも一人で森を歩くのは危険でしょう? 他に誰か一緒じゃないのかしら」
マリアンロッテが心配そうな顔で言うと、ロナはこくんとうなずいた。
「今、ベロニアの町は自由に出入りできないの。だからわたし一人で来るしかなかったの」
「そうなんだ……」
マリアンロッテはそこまでの話を聞いて、そして俺のほう顔を向けた。
そう、今のロナの話には、重要な情報が含まれていたのだ。マリアンロッテはそれに気付いて俺に応援を求めたのだろう。
所用により5月5、6日は更新を休ませていただきます。
本作の次回更新は5月9日になります。




