03 魔族ターナと行く道
別に連載している『おっさん異世界最強』の5巻が本日発売されました。
全体的な改稿はもちろん、カルマやゲシューラの述懐、そしてあの『至尊の光輝』の内情もガルソニア少年によって語られる一冊です。
peroshi氏のイラストもすさまじく充実しており、特にゲシューラの姿は一見の価値ありです。
同じくコミカライズの2巻も発売されています。
よろしくお願いいたします。
道案内を買って出てくれた、立派なツノの女の子魔族は、名前をターナといった。
見た目と違って成人しているそうなので、どうやら成人しても背丈が伸びない種族のようだ。
「そ、それで、マークスチュアートさんは王様……なんですか?」
「うむ。魔族領のすぐ南に神聖インテクルース王国という国があってな。その王ということになる」
「どうして王様が一人でこんなところに……?」
街道を歩きながら、ターナは俺のことをチラチラと見てくる。よほど人族が珍しいのだろうが、俺が王だと自己紹介したのも興味をそそられたのだろう。
なお、俺が身分を偽らないのは、そもそも偽る必要がないからである。
多少ゲーム脳になるが、原作ゲームでは、一般魔族は魔王と魔宰相の対立や、人族との戦などには興味がないように描かれていたのだ。
それどころか途中で寄る町や村では、「魔王様と魔宰相様の仲が悪いのは困るねえ」とか、「人族なんてどうでもいいから食い物をなんとかしてくれよ」とか「戦いにモンスター使うのはいいけど放し飼いはやめてくれ」とか、そんなセリフばかりが聞こえてくる具合なのである。
「私が魔族の国にやって来たのはこの国の代表者、魔王殿と和睦を結ぶためだ。だが先ほども言ったように途中で事故にあってしまってな。不思議なことにこちらに飛ばされてしまったようなのだ」
「じ、事故って……いったい何が起きたんです……?」
「『千剣山脈』の砦を守る将、ネファリス殿と言ったか、彼が非常に強力な魔法を使って大爆発を起こしたようなのだ」
ここはさすがに『ソウルバーストボム』の話は避けた。
さすがに「魔宰相ロゼディクスがネファリスを騙して自爆魔法をかけていたみたいです」なんて言われても、ターナも反応に困ってしまうだろう。
「ああ……ネファリスさんは強いですからね。でも、僕たち魔族の軍は、マークスチュアートさんの国と戦って負けたと聞いているんですけど……」
「だからこそ、これ以上の争いをさけるために私が数名の供だけを連れてこちらに来たのだ。ネファリス殿には信じてもらえなかったようだがな」
まあ実際は、並の軍勢なんて平気で蹴散らせるほど強いパーティなんですけどね。
実態はともかくとして、ターナは俺の言葉を聞いて何度もうなずいていた。
「マークスチュアートさんのお考えはとても素晴らしいと……思います。と、ところで、マークスチュアートさんは、錬金術はかなり得意……なんですか?」
そこで長めの前髪の下から、キラキラと輝く瞳を向けてくるターナ。やはり錬金術が好きと見える。実際彼女からは非常に強い魔力を感じるので、魔族の中でも上位の錬金術師なのかもしれない。
「うむ、幼少のころからそれなりに嗜んでいる。最近では例えばこのようなものも作っているな。『シャンプー』という髪を洗う時に使う洗剤だ」
俺はマジックバッグから『シャンプー』が入ったビンを取り出してターナに渡した。
ちなみに、俺は好感度アップ用錬金術アイテムは常に複数持ち歩いている。すべては断罪ルート再出現防止のためである。
ターナはビンの中身をじっと見つめたり、フタを開けて匂いを嗅いだりして、「ほへ~」と声を漏らした。
「これは……初めて見るものですね。見ただけですごいものだとわかります……」
「ただの洗髪料でしかないのだが、男女問わず評判は良いようだ。せっかくの縁だ、ターナ殿にもこちらの『コンディショナー』と両方を差し上げよう」
「い、いいんですか……?」
「ジスタリまで案内をしていただくのだ。礼としてもこの程度では足らぬ」
「ありがとう……ございます。大切に研究させていただきます」
「使う」じゃなくて「研究する」なのがいかにも錬金術マニアっぽいな。ウチの錬金術師筆頭のトリリアナやリラベルと話が合いそうだ。
「ところでターナ殿は……」
と話をしようとしたところで、『通話の魔導具』の呼び出し音が鳴った。
突然の電子音に、ターナがビクッと身体を震わせる。
「済まぬ、少し失礼する」
断わって、『通話の魔導具』を取り出して耳にあてる。
「私だ」
『お父様、連絡が遅れて申し訳ありません。思ったより町の住人に感謝されてしまいまして、今までそちらの対応をしておりました』
「うむ、それはそうであろうな。怪我などはなかったか?」
『はい、モンスターのボスもいましたが、戦い自体は何も問題はありませんでした。それで、お父様のほうはどのような状況でいらっしゃるのでしょうか?」
「そちらの町から西に歩いて2日ほどの場所に飛ばされたようだ。案内を頼める者がいて、現在そちらに向かっている。2日後の夜、もしくは3日目の朝には合流できよう。それまでその町に留まっていて欲しい」
『わかりました。町の長が宿を用意してくださるそうなので相談をしてみます。こちらはなにかやっておいたほうが良いことはあるでしょうか?』
「特にないが、魔宰相派に見つかると厄介かもしれぬ。町からはあまり離れぬようにせよ」
『わかりました。この町の周囲にはまだモンスターがいるようなので、そちらを討伐したりして過ごします』
「うむ、それはよいと思う。ところで魔族の住人の態度はどのようなものだ?」
『助けたせいもあるのでしょうが、非常に友好的で皆驚いています。今までの諍いはなんだったのかと少し感じてしまうくらいで……』
「そう感じるのはいいことだ。今後のことを考えても、こちらも友好的に接するようにした方がよいな」
『はい、気を付けます』
やはりゲームと同じような流れになったことに一安心しつつ、今後朝昼夜の3回定期連絡を入れることを約束して通話を終えた。
俺が『通話の魔導具』をしまっていると、通話中ずっとこちらを眺めていたターナが目を輝かせて話しかけてくる。
「そ、その……今のはどういった魔導具なのですか……?」
「『通話の魔導具』といって、遠くの者と会話ができる道具だ。我が臣下には有能な者が多くてな。このようなものを作り出す者もいるのだ」
「す、すごいです……。マークスチュアートさんは……王様としてとても素晴らしい人なんです……ね」
「そうありたいとは思っている」
なんてマークスチュアート面を出してカッコつけた受け答えをしていると、ターナはうんうんと何度もうなずいた。
そういえば、見た目は比較的人族に近い彼女だが、魔族には変わりない。その割には人族である俺に対して普通の態度なのは不思議である。
言動からすると、少し内気な錬金術マニア少女という雰囲気なので、魔族とか人族とか気にしないタイプなのだろうか。
気になるのは、その横顔に多少陰が見えることだが――。
と、その時、右手前方の森からガサガサと音がして、茂みから、長い牙を持った犬型モンスターが3匹現れた。『不帰の森』にも出てきた『サーベルキラードッグ』である。
それなりに上位のモンスターなので、街道に出てきていいモンスターではない。魔族領ではこれが当たり前かと言うとそうではなく、隣のターナも、
「またサーベルキラードッグ……。どうしてこんな……ところに……」
とつぶやいている。
ともかく、イレギュラーであっても退治はしないとならない。
俺が『シグルドの聖剣』の柄に手をかけると、ターナが「ここは僕が……やります」と言って前に出た。そういえばさっきのケット・シーたちについても、彼女が助けたような雰囲気だった。
ターナは右手を前に出すと、魔法を行使した。
「『ダークピアシング』」
黒い鏃のようなものが手のひらから5本同時に射出され、すべてが過たずにサーベルキラードッグの額に突き刺さった。
サーベルキラードッグは魔法とほぼ同時に飛び掛かる動作に入っていたのだが、それすら読んだような正確な魔法射撃であった。
「見事な腕前だ。しかも闇属性とは珍しい」
「魔法は少し得意……なんです。本当に少しだけ……ですけど」
「謙遜することもあるまい。あれだけ精密な制御ができる者は極めて少ないであろう」
フォルシーナでもまだあそこまで正確な魔法射撃は難しそうだ。『叡智の魔女』エメリウノなら可能だろうか。その2人の差は熟練度にあるので、ターナは見た目に反して実戦経験を多く積んでいるのかもしれない。
「いえ……僕なんて全然……です」
とターナはさらに謙遜をした……と思ったら、彼女の横顔は真剣で、どうも本当に自分が大したことないと思っているらしい。
むしろその瞳の奥には、錬金術の話をしている時とは別人のような深い屈託があった。
もっとも、会ったばかりの相手に、その理由を聞くほど野暮ではない。魔族には魔族の悩みや葛藤などがあるはずで、それを人族の俺が簡単につっつくべきではない。
ターナは頭を軽く振って瞳の奥の昏さを振り払うと、「済みません……先に進みましょう」と言って、再び歩き始めた。




