表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第14章 国王マークスチュアート、隣国で顔を売る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

228/250

12 首相代理の秘密……?

 教会から戻ったその日の夜も、宮殿に宿泊した。


 夕食時のリヴィヨン嬢は、整ったかんばせには隠し切れない疲れが残っていた。俺がやらかした件もあって、首相代理として色々な処理に追われているのだろう。


 それでも陰険腹黒国王に何度も感謝の言葉を述べたり、今後の国の方針などについて話をしていたのはさすがだった。


 その夜、俺はなんとなく夜風に当たりたくなり、部屋を出て、宮殿の中庭に一人出て行った。


 それほど広くはないが手入れは十分に行き届いた西洋風の庭園で、淡い月光に照らされていると幻想的な雰囲気すらある。よく見ると、植え込みは月の光で生じる影すらも計算に入れて剪定せんていされているようで、王国時代の文化の深さが垣間見えた。


 一人中庭にしつらえられた四阿あずまやの椅子に座っていると、どうやらもう一人、月の客が現れたようであった。


「リヴィヨン殿、済まぬな。先に邪魔をさせてもらっている」


「これはマークスチュアート国王陛下。まさかこのような場所でお会いするとは思ってもいませんでした」


 そう、中庭に現れたのは男装の麗人・リヴィヨン嬢だった。


 このような時でも男物の部屋着姿で、男装キャラは崩さないところに彼女のポリシーを感じてしまう。


 もっとも月の光の下では、タイト気味なパンツスタイルはむしろその女性的な体型を強調してしまっていて、逆効果にしかなっていないのだが。


 しかもいくぶんかのうれいを漂わせた顔の美しさもあいまって、俺の周囲にいるゲームヒロインたちに勝るとも劣らない存在感があった。


「夕食の時の様子だとリヴィヨン殿は随分とお疲れの様子であったが、もしやそのせいで眠れぬのかな?」


「陛下には敵いません。実はその通りで、これからの舵取りに悩む以前に、あまりにやるべきことが多くて途方に暮れているところです」


 眉間に愁いを濃くしながら、俺の対面の椅子に座るリヴィヨン嬢。


 その所作は優雅で、なるほど王族の出なのだと再確認してしまう。


「国は体制を維持するだけでも途方もない労力を必要とするゆえな。一度揺らぎかけたとなれば、再構築には相応の労が必要となろう」


「おっしゃる通りです。今まで民主制という新たな体制の確立にこの身を捧げてきたつもりですが、一方で足元をおろそかにしていたことに気付かされました。北の開拓地にも関わることですが、特に食糧問題はかなり深刻です」


「民の腹を満たすのが為政者としては最も重要なことであるからな。その厳しさは私も理解するところだ」


「短期的に他国から買うという方法もありますが、それですと富が一方的に外に流れてしまいます。我が国には他国に売りだす優れた産業がないのです」


「アルバッハ氏が我が国に錬金術レシピを求めてきたのもその故であろう。そういう意味では彼の考えも理解できなくはない」


「陛下はお心が広くいらっしゃいますね」


 口元に笑みを浮かべるリヴィヨン嬢は、どことなく儚げなイメージすら抱かせるほどであった。


 マークスチュアート的な見解だと、彼女は国の代表としてやっていくには少し線が細いところがあるようだ。もともとアルバッハを立てて、自身はナンバーツーに収まっていたのもそれが理由なのだろう。


 さらに言えば、アルバッハが私兵まで持っていたことは、この国の政治体制がまだまだ固まっていないことを示している。それはつまり、権力者――この国では議員――の間で、足の引っ張り合いがあるということだ。それも非合法なやり方を含む形で、である。


「……そういうのって『オレオ』のゲームシナリオ的には人生退場フラグだよなあ」


「なにかおっしゃいましたか、陛下?」


「いや、少し貴殿の身の上についてな」


 嫌なことに思い至ってしまったので、俺は腰のマジックバッグから小瓶を2本取り出して、テーブルの上に置いた。いつもの好感度アップアイテム『エクストラポーション(精霊水バージョン)』である。


「陛下、こちらは……?」


「私自ら錬成した『エクストラポーション』だ。伝説の『エリクサー』にも近い効果がある」


「『エクストラポーション』……しかも今、陛下自ら錬成されたとおっしゃいましたか!?」


 腰を浮かして驚きの表情を見せるリヴィヨン嬢。


 おっと、ついうっかり余計なことを言ってしまった。まあクーラリアやミアールすら知ってることだからいいか。


「うむ、レシピを開発してな。もっとも莫大な魔力と希少な素材が必要となるゆえ、私以外が錬成するのはほぼ不可能であろうがな」


 魔力だけで言えば、今ならフォルシーナ、マリアンロッテの魔法使い系メインヒロインや、トリリアナ、リラべルらお抱え錬金術師のナンバー1、2ならできるだろうか。ベランゴルだとパリヨー将軍くらいしかいないかもしれない。


 俺が平然と答えると、リヴィヨン嬢は魂が抜けたような顔をして再び椅子に腰を下ろした。


「パリヨー将軍から、陛下は神の領域にいらっしゃる方だと聞いたのですが、まさにその通りなのですね。この度は本当に驚くことばかりです」


「ふっ、ならばもう少し驚いてみるかね。こちらの『エクストラポーション』は貴殿に差し上げよう。無論これは国とは関係なく、個人的な知己として、貴殿の身の上を案じて渡すものだ。対価は一切要らぬ」


「え……は……えっ?」


 急な提案に、目を白黒させて一瞬フリーズするリヴィヨン嬢。


 まあそりゃこんな腹黒眼鏡にいきなり超高級品をあげるとか言われたら意味不明すぎてそうなるよなあ。


「この国の現状をかんがみれば、よからぬ方法で権力の座につこうとするものも今後現れよう。貴殿の身辺もしばらくは安穏とはいかぬかもしれぬ。だが、今貴殿の身の上になにかあっては私も困るのだ。隣国の体制が猫の目のようにくるくると変わられては、こちらも安心できぬのでな」


「は、はい……それはわかりますが……よろしいのですか?」


「無論だ。国と国の間は友人のようにとはいかぬが、貴殿とはそうありたいと思っている」


 国同士というのは個人的な感情で動くものではない、という向きもあるが、実際は意外とそうでもなかったりするものだ。トップ同士が個人的に仲が良くて悪いということはないだろう。


 それになんか、やっぱりリヴィヨン嬢は原作ゲーム『オレオ』の悲しい最期キャラっぽい感じがどうしてもするんだよな。


 俺の気持ちが通じたのか、リヴィヨン嬢はうなずいて、「ではありがたく頂戴いたします」と口にした。彼女はしばらくは裏があると勘繰かんぐるかもしれないが、それは仕方ないだろう。


 そういえば、俺みたいなおっさん国王がリヴィヨン嬢のような美人に「個人的に仲良くなりたい」なんて言うこと自体、勘違いを生みそうな気もするな。なにしろ連れてきた人間も美女美少女ばかりだし。一応そこだけは念を押しておくか。


「これは私自身よく勘違いされるので言っておきたいのだが、別に貴殿が美しい女性だから渡したわけではない。今回の連れが女性ばかりなのも、彼女らが優れた人間であるからで、他意は……」


 とそこまで言いかけて、俺はリヴィヨン嬢が目を見開いて、俺を凝視しているのに気付いた。これはやはり疑われていたということだろうか。


「……他意はないのだ。よろしいか、リヴィヨン殿?」


 俺が問いかけると、リヴィヨン嬢はゆっくりをうなずきつつ、恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「その、お話はわかりました。ただ、その、陛下はいつから私が女だとお気づきに?」


「ん? 最初に会った時からだが?」


 と答えると、リヴィヨン嬢は急にそわそわしだした。


 あれ、まさかとは思うが、実は本人はずっと男で通していたつもりだったのだろうか。


と思っていると、リヴィヨン嬢はいきなり椅子から立ち上がって、その場で土下座を始めた。


「大変申し訳ございません! 陛下の目を欺こうとしたこと、どうかお許しください!」


「ま、待ちたまえ。夜にそのような大きな声を立てるものではない」


 いやちょっと、月夜に美人に土下座させる中ボスとか、フォルシーナとかに見られたら断罪復活案件である。


 俺は慌てて椅子を立ち、リヴィヨン嬢の肩に手を置いて頭を上げさせた。


「貴殿は一国の長であろう。そのように軽々しく頭を下げるものではない。もし貴殿が男を装っていたというなら、それは故があってのことだろう。私もそういった都合を斟酌しんしゃくせぬほど狭量きょうりょうではないつもりだ」


「は、ははっ。ありがとうございます」


 なんとか椅子につかせると、リヴィヨン嬢は申し訳なさそうに、


「実はこの国は、女性の地位が高くはないのです。大学という教育機関があるのですが、そちらに通うにも女性であると不自由なことが多く、それを避けるために男の振りをしていたのです。ところがこの状況になって、今さらやめることもできなくなってしまいまして……」


「ということは、ほとんどの人間は貴殿が女性と知らぬのか?」


「ええ。知るものは祖父と両親と、王宮の一部の人間だけです」


「そうであったか。それならば私も他言はせぬようにしよう。安心されよ」


 と言っておいたが、しかしリヴィヨン嬢が女性だとバレてないなんて、そんなことがあるのだろうか。


 確かに見た目は男装の麗人で……というより、男装の麗人って時点で女性前提なわけだが、声だって身体つきだって明らかに女性だしなあ。胸だけは確かにさらしかなにかで押さえてるみたいだが、それでもどう見ても隠し切れてないし。


 もしかしたら「王族であるリヴィヨン様が男装をしていらっしゃるのだから、気付かない振りをしないといけない」みたいな忖度そんたくがあるのかもしれないな。大人の世界は色々と大変なものである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ