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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第14章 国王マークスチュアート、隣国で顔を売る

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11 聖女オルティアナの人気

 フォルシーナたちとの何気ない会話の中で断罪ルートの存在を思い出しながら歩くこと少し。


 俺たちはラファルフィヌス教の教会前までたどり着いた。


 しかし教会の入口前にはすさまじい人だかりができていて、近づくことが難しい状態にあった。


「お父様、これはどうしたことでしょうか?」


「聖女オルティアナが来ているからだろうな」


 フォルシーナに答えながら少しの間様子を見ていると、不意に人だかりから歓声が上がった。


 どうやら聖女オルティアナが入口から出てくるようだ。


 見ていると、狐獣人クーラリアと、フードを被ったエルフのアルファラの2人を伴って、聖女オルティアナが姿を現した。


「おお、オルティアナ様! なんとお美しい!」


「聖女様、どうか迷える我らをお導きください!」


「ゴホッ、ゴホッ、この止まらぬ咳をなんとか止めてくだされ~」


「オルティアナ様、私たちを、この国をお救いください。悪鬼のごとき北の国王からお救いください」


「それよりこの国の中で起きている諍いをお鎮めください。愚かな議員たちが互いに争って、市民を顧みないのです」


 人々が口々に聖女に対して願いを口にするが、どうもカオスというか、この国の荒れ具合を反映しているような言葉が飛び交っている。


 中にはプロパガンダに騙されているような言葉も聞こえるが……悪鬼のごとき北の国王はちょっと酷くない?


 そんな中で聖女オルティアナは両手を胸の前で合わせ、祈りのポーズを取った。


「皆さん、それぞれに多くの悩みを抱えていらっしゃると思いますが、まずは神に祈りを捧げ、心に平安を取り戻しましょう。さすれば自らの内に神が生じ、自ずから進むべき道を指し示してくださいます」


 そう言うとオルティアナは両手を広げ、聖属性魔法『浄化』と『鎮静』を連続で発動した。彼女の全身から光があふれ、その場にいた人間全員を包み込んでいく。


「おお、これが聖女様のお力。なんとお優しく、そして温かいのか……」


「身体の芯にまで染み入るような癒しのお力を感じます。聖女様の清らかなお心が私を包み込むようです」


「ゴホッ……んっ、んんっ、咳が止まって……。聖女様、ありがとうございますありがとうございます」


「これだけの清浄なお力をお持ちであるにもかかわらず、なぜ聖女様は悪鬼のごとき王が治める国にいらっしゃるのか……」


「議員たちも、この力を浴びれば愚かな争いをやめるでしょうに」


 どうやら聖女の力によって、その場に集まった人々は身体も心も癒されたようだ。


 もちろんこれがオルティアナが『聖女』と呼ばれる理由の一つであり、これほど強力な光属性魔法を使える人間は、この大陸でも後はマリアンロッテくらいだろう。ちなみにゲームでは、魔法については成長したマリアンロッテが上を行くはずなのだが、今はまだわずかにオルティアナが上に見える。


 そんな姿をフォルシーナたちと共に眺めていると、ふと聖女オルティアナと目が合った。


 その瞬間、嬉しそうに微笑んでこちらに向かって小さく手を振る聖女オルティアナ。


 当然そのジェスチャーは集まった人々の気付くところとなり、その場にいた多くのものがこちらに振り向いた。といっても彼らは俺の顔など知るはずもない。女の子を連れた胡散臭い糸目の丸眼鏡男に、皆一様に怪訝な表情になった。


「誰だあれは。身なりからするとお偉いさんのようだが、あの服はベランゴルのものではないだろう」


「どこかの国の貴族様じゃない? 連れている女の子たちも皆きちんとした服を着ているし」


「まさか聖女様を狙う不届きな人間か?」


「可愛い女の子を連れている時点で怪しい気がするわね」


 う~む、聖女ファンから見るとそう見えるよなあ。しかもこちらもつい手を軽く上げてオルティアナに応えてしまったのでなおさらである。


 そこで人々の不穏な感情に気付いたのか、聖女オルティアナは皆の前で、


「あの方は神聖インテクルース王国のマークスチュアート国王陛下です。こちらの国の内情を憂えて、この国の人々を救うためにいらっしゃったのです」


 と宣言してしまったものだから、その場は一気に騒然となってしまった。


 まあお忍びで来たわけでもないので騒がれるのは仕方がないのだが、さらにオルティアナがいつものバグった距離感でこちらに駆け寄ってきたからさらに大変なことになってしまう。


「あれが北の王国の国王? ただのキザっぽい優男じゃないか」


「あのお顔は恋をする乙女のものだわ。大変、聖女様はたぶらかされていらっしゃるのね」


「嘘だっ! 聖女様は皆の太陽、皆の月、皆の星なんだ! あんな怪しい男に取られるわけには……っ!」


「おお、この世には神も仏もないものか。まさに地上から光が失われたようだ……」


 いやちょっと、ただでさえ敗戦国に賠償を押し付けにきてる人間なのに、その上身に覚えのない冤罪でベランゴル国民の好感度大幅ダウンは中ボス的に怖いのですが。


 しかしそんな俺の危惧を知るはずもなく、オルティアナはニッコリと微笑んで話しかけてきた。


「国王陛下、来てくださって嬉しいです。交渉のほうは終えられたのでしょうか」


「……うむ。交渉は終わり、さらに町の一部を占拠していた首相派の首魁アルバッハも捕らえ、身柄を然るべきところへと渡した。これでこの国もじきに安定するだろう」


「それは素晴らしいお話ですね! マークスチュアート国王陛下は北の開拓地だけでなく、この国全体までもお救いになられるのですね」


「そうせねば我が国への賠償もままならぬだろうからな。隣国をいたずらに弱体化させることは、かえってより大きな災いを招くこともある。それだけのことだ」


 これはマークスチュアート的な本音なのだが、それを聞いて聖女オルティアナは「フフッ」と笑い、さらにフォルシーナやマリアンロッテたちとも目配せをしあってうなずきあっていた。


 その意味深な仕草に急に別の不安が掻き立てられるが、聖女オルティアナはすぐに人々の方を振り返って、演説を始めた。


「皆さん、マークスチュアート陛下は、この国で今皆さんを悩ませている最大の問題を解決なさったそうです。私はこの町に来る時に、北の開拓地の方たちをマークスチュアート陛下がお救いになっているところも拝見しております。皆さんが感じていらっしゃるこの暗い閉塞感も、この町に起こっている様々な問題も、すぐに明るく変わっていくことでしょう」


 その声には自然と癒しの魔力もこもっていて、説得力の強さというか、聞かせる力はインチキ国王よりも上であった。


 しかもタイミングよく、


「首相派のアルバッハが捕えられて南地区が解放されたぞ! これでようやくまともな方に国が動き出すぞ!」


 とか言いながら通りを走る男が出てきて、その場はさらに騒然となった。


「アルバッハがようやく捕まったか! 私腹を肥やすだけの男が首相など、まったくおかしい話だったんだ」


「意味のわからない戦争まで始めて勝手に負けて、こっちは食料も足りてないっていうのにね」


「あれ、ところでその戦争の相手って北の王国だったよな」


「っていうことは、そこにいる王様って戦争に負けた相手の王様ってことか?」


「アンタ今それに気付いたの?」


「そういえばさっき聖女様が、その国王が問題を解決したって言ってなかったか」


「それじゃ王国の軍が首相派を鎮圧したってこと? それにしては兵隊もいないし、なんの騒ぎも起きてなかったけど」


「パリヨー将軍の話だと、北の王は神様みたいな力を持ってるって話だけど……」


「おいその話詳しく聞かせろ」


 うむ、聖女の様子を見に来ただけだったのだが、どうもここに長居はできなくなってしまったようだ。


 なので結局、皆を連れてすぐに王宮に戻ることにした。街中もろくに見ることができなかったが、思えば国王が自由に歩けるはずもない。


 その後オルティアナとは少しだけ話をしたが、彼女はもう少しこちらの教会に滞在していたいらしい。なので日にちを決めて俺が『転移魔法』で迎えに来ることにした。


「陛下にそのようなことをさせるわけには……」


 とオルティアナは恐縮していたが、


「聖女オルティアナよ、貴女は特別な存在なのだ。国王という肩書など、そのことに比べればいかほどのものがあろうか」


 と説得をしておいた。


「そっ、それは、陛下にとって特別ということでしょうか?」


「無論だ。私にとっても貴女は特別な存在、だからこそ『エクストラポーション』を渡したのだ」


「あ、ありがとうございます! 私のすべては陛下と共に」


 というやりとりもあったが、まあゲームで死ぬ運命にある聖女オルティアナの身は、同じ運命だったマークスチュアートとして気になる所である。


 そういえば『エクストラポーション』も最近ありがたみが薄まってる気がするな。なにしろ神聖インテクルース王国では一般兵が使ってるくらいだし。


 また新しい好感度アップアイテムを考えるべきだろうか。

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