10 エルゴジーラの秘密
巨大なドラゴンである四至将エルゴジーラ。
激しく錐もみ飛行を繰り返すその背に、俺は剣を刺してしがみついている状態だ。
さて、はるか遠くに霞んでいた火山『火竜のねぐら』が、だいぶ近くに見えるようになってきた。チート中ボスではある俺だが、さすがに溶岩プールにダイブは御免こうむりたいのでなんとかしないとならない。
「悪いがお前の遊びには付き合えん。力の差を見せてくれよう」
「下ラヌコトヲッ! 虫ケラニナニガデキルッ!」
「例えばこれはどうだ?」
魔力を集中し、風属性上位魔法『サイクロンディザスター』を発動。エルゴジーラの進行方向に巨大竜巻を発生させる。
「ソノヨウナモノヲ食ラウト思ウナ!」
エルゴジーラは凄まじい機動力を発揮し、巨体をねじりつつ紙一重で躱す。
だがその直後、エルゴジーラの意識に隙ができる。今まで行っていた錐もみ飛行をやめたのだ。
「狙い通り」
俺は『シグルドの聖剣』をエルゴジーラの背中から引き抜き、刃に魔力を込めて必殺技を放つ。
「『無尽冥王剣』」
瞬間的に無数の斬撃を放つ範囲攻撃がエルゴジーラの右翼をズタズタに引き裂いた。更に翼の根元を切断力強化スキル『殻断ち』を使って半ばまで斬り落とすと、エルゴジーラは飛行する能力を失った。
「ナァッ!? 我ガ翼ヲイトモ簡単ニッ!?」
錐もみ状態で斜めに墜落していくエルゴジーラ。急速に近づいてくるのは木がまばらに生えた平原である。
凄まじい地響きと共にドラゴンの巨体が地面に叩きつけられ、何本もの木を薙ぎ倒して地上を滑っていく。
なお俺自身はすでに『転移魔法』で瞬間移動をしており、エルゴジーラが墜落する瞬間を地上で眺めていたりする。
「無様だな、モンスターの王よ」
俺が煽りセリフを口にしながら近づくと、巨体を振るわせてエルゴジーラは立ち上がった。
空を飛ばずともその威容は恐ろしいほどであり、絵面は前世の怪獣映画そのままである。
「貴様ァ……。虫ケラノヨウナソノ身体デ、ナゼソレホドノ力ヲ持ッテイルゥ……」
地上30メートルから、青く輝く目で見下ろしてくる巨大なドラゴン。その目には先ほどまでの傲慢さは感じられない。ようやく俺を強敵と認めたのだろう。
「真の強者は姿形などにはとらわれぬということだ。そもそもお前は自分よりも小さな者に仕えているのではないか。魔宰相ロゼディクスだったか。奴も身体の大きさで言えば人族とそうは変わるまい」
「グググ……。力ナラバ奴ナド相手ニナラヌワ。我ガ奴ニ従ウノハ……ググッ、貴様ニハ関係ナイコトダ。ドチラニセヨ貴様ハココデ死ヌ」
エルゴジーラはそう言うと、天に向かって首を突き上げ、大音声の唸り声を上げた。
「グウオオオオッ!!! 『ドラゴニックオーラ』ッ!!!」
エルゴジーラの全身、鱗の隙間から青い炎のようなオーラが噴き出し、同時に元々筋肉質であったエルゴジーラの身体が、さらに内側から膨らんだようにマッチョになる。
中ボスお約束の最終形態だが、さすがに失われた翼までは戻らなかった。とはいえよく見ると徐々に翼は再生しつつはあるようだ。
炎が吹き出しているかのように爛々と輝く目をこちらに向け、エルゴジーラは大口を開いて吠えた。
「ドラゴンタル我ノ真ノ力ヲ見セテクレヨウッ!!!」
う~ん、あと少しでゲームで語られなかった裏側が聞けたんだがなあ。瀕死状態にすれば素直に話すだろうか。
「いいだろう、その真の力とやらでも叶わぬ相手がいると知れ」
俺は『シグルドの聖剣』に魔力を込めて構えを取る。聖なる刃は、エルゴジーラのまとうオーラにも勝る、純白の輝きを放つ。
「思イ上ガルナ虫ケラガッ!!!」
エルゴジーラは巨体で踏み込んでくると、はるか上段から右腕を振り下ろしてくる。
オーラをまとった爪が、青白い軌跡を残しながら俺のいたあたりを薙いでいく。それだけで地面が抉れ、暴風が吹き荒れて近くの木を根こそぎ吹き飛ばす。
もちろん俺は『縮地』を使って後ろに下がっているが、エルゴジーラはさらに大きく踏み込んで、今度は左拳を打ち下ろしてくる。
拳は地面には届かないが、そこからほとばしった青いオーラは衝撃波となり、やはり地面を大きく抉り、小さなクレーターを作り上げる。
「なるほど大した威力だ」
俺はさらに『縮地』で回避しつつ、『シグルドの聖剣』を一振りする。
「『破星冥王剣』」
刃から伸びる光の帯がエルゴジーラの胸を切り裂く。大抵のモンスターであれば両断するはずが、鱗を裂く程度に収まるのはさすがに四至将最強の最終形態か。
「グオゥッ!? 我ノ鱗ヲ容易ク切リ裂クトハ……ッ。ダガコレデッ!!!」
エルゴジーラが口を大きく開くと、その喉奥から青白い光があふれ出すのが見えた。
首を突き出すと同時に放たれる蒼白のブレスは放射状に広がって、エルゴジーラの足元から彼方まで扇状に焼き尽くしていく。
見た目はゲームと少し違うが、『アトミックアナイアレーション』という、パーティ全員にダメージを与える範囲攻撃型の必殺技だ。ちなみにレベルが低いと一撃で全滅させられる高威力系クソ技である。エルゴジーラは体力が多くて長期戦になる上に、最後っ屁でこれをかましてくるので泣いたプレイヤーは数知れずである。
「グハハハッ!! 跡形モナク灰ニナリオッタカ!!」
焼野原を前に勝ち誇るエルゴジーラ。
傲慢な性格が邪魔をしたのか、先ほどブレスを瞬間移動で躱されたのを忘れているらしい。
「力に溺れる者は、それゆえに容易くつけこまれると知れ」
「ナニッ!?」
俺はその時、エルゴジーラの頭上に立っていた。
『シグルドの聖剣』を逆手に持ち、その刃をエルゴジーラの頭頂に突き立てる。といっても頭蓋骨までは貫通させない程度にだ。倒すのは容易だが、やはりゲームの裏設定は聞いておきたい。
「『ライトニングレイン』」
ついでに雷の雨を広い背中に降らせてやると、エルゴジーラは「グア……ッ!?」と悶絶し、前のめりに地面に倒れ伏した。
「キ、貴様ァ……」
「この剣に魔力を込めればお前の頭は粉々に吹き飛ぶ。死にたくなければ動かぬことだ」
「ナンナノダ……、貴様ハ一体ナンナノダ……ッ!」
「私が何者かなどどうでもよかろう。それより先ほどの話の続きを聞かせよ」
「ナンノコトダ……ッ!?」
「お前が魔宰相ロゼディクスに従っている理由だ、百魔の王エルゴジーラよ」
「ウググ……、ソレヲ聞イテドウスルツモリダ……?」
「敵方の情報はいかに小さなものであろうと得るのが私のやり方だ。おかしな話ではあるまい」
「オ前ハ本当ニ人族ナノカ……。ロゼディクスドコロカ、魔王スラ凌駕スル化物メ……」
エルゴジーラは顎を地面につけたまま唸り、しばらく黙った後、再度口を開いた。
「……ロゼディクスニ、我ハ命ヲ握ラレテイルノダ……」
「お前ほどの者の命をそう簡単に握れるとは思えぬが」
「奴ハ怪シゲナ魔法ヲ使ウノダ。奴ハ我ガ心臓ニソノ魔法ヲ掛ケ、イツデモ我ノ心臓ヲ止メラレルヨウニシタノダ」
「ほう……」
と感心したような態度を取ったが、正直に言えば理由としてそこまで面白いものではなかった。
例えば身内を人質に取られているとか、なにか大切なものを奪われたとか、実はロゼディクスに恩があるとか、ドラマチックなものを期待していたのでガッカリ感が強い。
ただ少しだけ興味を引かれる部分もあった。それは俺のゲーム知識にも、マークスチュアートの知識にも、遠隔操作で心臓を止める魔法というものが存在しないということだ。ロゼディクスのオリジナル魔法か、それとも特殊スキルか。少なくともゲームでの奴はそんな力は持っていなかった。
「その魔法はどのようにしてかけられたのだ」
「……ソレハ……グオッ!?」
答えようとしたエルゴジーラが急に苦しみだした。巨体が痙攣して地響きを立てる。
どうやらその『心臓を止める魔法』とやらが発動したようだ。トリガーは魔法に関する秘密を口にすることだろうか。




