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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第10章 国王マークスチュアート、エルフの里を探訪す

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16 霊体アンデッド戦

 地下遺跡ダンジョンの最奥部、奥にマグマだまりのある広い空間で、俺たちは2体の人ならぬ存在に遭遇していた。


 1体は虎ほどの大きさがある、犬型のストーンゴーレム、『地の精霊』。


 もう一体は、細長い身体に、四つの赤い目と二本のツノを持つ半透明の霊体系アンデッド。


 その2体はどうやら対立しているようで、こちらに気づいた様子も見せずに2体の間でやりとりを始めた。


『フホホホ、まさか「破邪の弓」を求めた先で、捕獲すべき精霊までが見つかるとは。これこそが滅びの導きというべきでしょうか。フホ、フホホホ』


 アンデッドの声は、それだけで周囲に呪いを振りまくようなおぞましい響きがあった。声そのものはゲームで聞いたものと同じだが、どうやらその声には強い魔力、いやむしろ呪力ともいうべき力が乗っているようだ。


『諦めなさい地の精霊よ。我が呪いの前では多少の自然を操る力など児戯じぎにすら劣ります。その弓とともに我がもとへと降りなさい』


 不吉な言葉に応じて、犬型ゴーレム――地の精霊は体勢を低くして、ウウウと低く唸った。地の精霊はイヴリシアと違って喋ることができない、見た目通り獣型の精霊である。


 そのまま戦いが始まりそうではあったが、アンデッドはそこで俺たちの方に顔だけを向けてきた。その四つの瞳のあまりの禍々しさゆえか、フォルシーナたちはわずかに身震いした。


『フホホ、そこな者たち、このまま立ち去るのであれば見逃してあげますよ。短きその命、今散らすこともないでしょう』


「なんだと……?」


 皆に先んじて反応したのは気丈にもアルファラだった。


 半歩前に出て、不気味な力を垂れ流すアンデッドとキッと睨みつける。


「その弓は我らエルフの秘宝、誰にも渡すつもりはない。必ず持ち帰らせてもらう」


『フホッ、なるほどなるほど、「破邪の弓」を取り戻しにきた愚かなエルフですか。ならばその秘宝と共に滅びなさい。所詮わずかな時の差でしかありませんからね』


 そこでアンデッドは細長い両腕を、掲げるようにして左右に広げた。


『我が呪いの前にすべて崩れ去るのです。「カースストーム」』


 アンデッドの周囲に、黒い竜巻がいきなり立ち上った。まるで黒い竜が首をもたげたようなその竜巻は、次第に範囲を広げていく。


 地の精霊は大きくバックステップしてその竜巻から逃れようとする。竜巻はここからでも感じられるほど禍々しい力を含んでいて、触れただけで命が吸い取られそうな感じさえ受ける。まあ事実、パーティ全体の生命力ヒットポイントを吸い取るという技ではあるのだが。


「聖女殿、マリアンロッテ嬢、『アンチカーズ』の魔法を頼めるか。あの竜巻に向かって放ってほしい」


「かしこまりました陛下。マリアンロッテ、同時に行きましょう」


「えっ!? は、はい、わかりました」


 俺の指示を受けて、オルティアナとマリアンロッテが同時に魔法を発動する。


『アンチカーズ』は解呪の魔法で、ゲームでは呪いというバッドステータスを解除するほか、イベントでも使用する魔法であった。


 二人の手のひらから光の粒子が広がって飛んでいき、こちらに迫りつつある黒い竜巻に吸い込まれていった。


 一見効果がないように見えたが、二人が『アンチカーズ』の魔法を放ち続けると、光の粒子を巻き込んだ竜巻の色が、次第に黒から透明に変わっていった。要するにアンデッドが放った『呪いの力』とやらを、『アンチカーズ』の解呪の力で中和したというわけだ。


 しかもこちらは聖女二人分であるから、『カースストーム』を無効化するまでの時間もゲームより格段に早い。


『フホッ!? 解呪の力を持つ者が2人いるとはなんと厄介な。しかし我が持つは呪いの力だけではありませんよ』


 再度両手を広げるアンデッド。


 だがそれに先んじてアルファラが動いた。


「させるか愚か者め!」


 叫びと同時に放たれた『スパイラルアロー』が、アンデッドの胸に刺さる。だがその矢は刺さると同時にボロボロになって崩れ去った。


「なんだと!?」


 アルファラはさらに『スパイラルアロー』を連射するが、その矢はすべてアンデッドに刺さった瞬間に崩れてなくなる。刺さった時にできた傷も一瞬で塞がってしまうので、まったくダメージを与えられていないということになる。


 まあアルファラはゲームでも登場時レベル30くらいだったし、実際それくらいしかかなさそうだからなあ。あのアンデッドにはダメージを与えられても1とかだろう。そもそもアイツはこのタイミングで出てくる敵ではないのだ。


 アルファラの攻撃が終わったと見るや、アンデッドは細長い右腕をアルファラに向けた。


『愚かなのは貴女ですよ。その程度の技では我に傷一つ負わせられません。『カースドアロー』」


 手の先から放たれた十数本の黒い矢がアルファラに殺到する。回避するかと思われたアルファラだが、なぜか歯を食いしばって覚悟を決めたような顔をしている。スキルを使いすぎて体力切れになっているのかもしれない。


 仕方ないので『神速』でアルファラを抱えて救助する。なんか前にも同じことがあったな。


「く……っ、済まぬ人族の王……」


「気持ちはわかるがはやるのはやめておけ。貴殿はすでに我らにとっては仲間だ。貴殿もそう考え、仲間に頼るがよい」


「……その言に従おう」


 微妙に悔しそうな顔をしているアルファラをクーラリアに預け、俺は再度アンデッドの前に出た。


『なるほどなるほど、人間とは協力しあうものでしたね。その姿は美しくもありますが、愚かでもあります。なぜなら、その美しさはいささかの役にも立たないからです。フホホッ』


 アンデッドはせせら笑うと、細長い両腕を左右に広げた。


「『スプレッドカースドアロー』」


 アンデッドの前面に無数の黒い矢が生まれたかと思うと、その矢が一気にこちらに向かって放たれた。見た目通りの範囲攻撃であるが、『呪い』の状態異常付きとなると厄介度が跳ね上がる。


 しかし先ほどの『カースストーム』と違い、この『カースドアロー』は魔法扱いの攻撃だ。ということは当然、


「『ディスペルオール』」


 黒い波動によって、すべての呪いの矢を一瞬で消滅させることができる。


『フホホッ!? 今の魔法はなんですか!? 貴方、奇妙な技を使いますね』


 そこでアンデッドが、初めて俺に4つの目を向けてきた。干からびた顔から表情は読めないが、驚愕してるのはセリフから明らかだ。


「その程度の呪いの技など、私の前では児戯にもならぬ。それ以上の芸がないのであればこの場から速やかに退場するがよい、愚かな道化よ」


『フホホホッ! 我を前にそこまでの壮語ができるとは、大した人間がいたものですね。おや……? ホホゥ、貴方、精霊の力を宿していますね。まさか泉で我の邪魔をしたのは貴方ですか?』


「ほう、あのアンデッドを使役していたのはお前か。こうまで精霊を狙うということは、なにか理由があるのだな」


『それを人間が知る必要はありません。しかし貴方がたはなかなかの強者のようですね。ならば我が強大な呪いの力の一端を見せてあげましょう』


 そう言うとアンデッドは両手と両足の先に黒いオーラをまとい始めた。そのオーラは触手のようにうねっていて、いかにも危険であると言わんばかりの見た目をしている。


 事実それは『デスオーラ』という、確率で一撃戦闘不能にしてくる中ボス特有のクソ技である。


「ご主人様、アレはヤバいぜです」


 クーラリアが尻尾を太くして刀を構える。獣人族特有の勘であの技のクソさを感じたようだな。


「よい、ここは私が出る。皆下がっているように。聖女オルティアナ、マリアンロッテ嬢、私に聖なる力を」


「は、はい陛下、『ホーリーエッジ』」


「私も参ります、『ホーリーエッジ』」


 聖女と次期聖女候補による聖属性付与魔法の二重掛けを受けつつ、俺は『シグルドの聖剣』を引き抜いた。


 魔力を込めると聖剣の刃が純白の光を放ち、アンデッドはそれを見て目をすぼめた。


『フホ……、貴方、その剣をどこで……?』


「どうでもよかろう。さあ来るがいい、格の違いを見せてやろう」


 剣の切っ先を向けて久々の『挑発』スキルを放つと、アンデッドは一瞬顔を醜くしかめた後高らかに笑った。


『フホッ、フホホホッ! 人間がそこまで思いあがるとは面白いですね。ならば言葉通り、格の違いを見るといいでしょう!』


 アンデッドは長い手足をくねらせ、奇妙な踊りのような動きを始めた。それがあのアンデッドのバトル中の待機ポーズである。


「ふ……っ!」


 俺は『縮地』で一気に間合いを詰め、まずは一太刀を浴びせる。攻撃範囲拡大スキル『烈波』によって伸びた光の刃が、わずかに下がったアンデッドの脇腹を切りつける。


『フウゥッ!? なるほど、多少効きますね。口ほどはあるようです』


 アンデッドは腕を鞭のようにしならせたかと思うと、そこから刺すような突きを放ってきた。もちろんその手には黒いオーラが触手のようにまとわりついていて、一撃でも食らえば一発戦闘不能に陥る可能性がある。


 俺はその厄介な攻撃を、身体をねじって躱していく。『転身』という回避スキルだが、『神速チート』が合わさればどのような攻撃も俺の身体をとらえることはない。


『ヌフフゥッ! よくかわしますねぇっ!』


 アンデッドの両手でマシンガンのように連続突きを放ってくる。


 それでも俺を捉えられないと見るや、さらに両足での蹴りも加えてきた。これはゲームでもなかった動きだな。リアルならではということか。


『貴方、よくもそこまで動くものですね!』


 そう言いながら、アンデッドは口からなにかを吐き出すようなモーションを見せた。


『カースブレス』という飛び道具のはずだが、どうやら狙いは俺ではなく奥にいるフォルシーナたちのようだ。さすがアンデッド、なかなかに汚い手を使ってくる。


「下衆が」


 俺は『シグルドの聖剣』をカウンターで一閃、アンデッドの腕を一本斬り落とす。アンデッドは大きく体勢を崩し、口から放たれた黒い球は上空へと逸れていった。


『フボホホッ!? 貴方はいったい……!?』


「貴様のような出来損ないが相手をできるものではないと知れ。『無尽むじん冥王剣めいおうけん』」


 俺は多少格好をつけた動きで『シグルドの剣』を振り下ろす。刹那に発生した無数の斬撃がアンデッドの全身を駆け巡ると、残った片腕と両足が寸断され、胴体も頭部と胸の一部を除いてすべて細切れになった。


 残った頭部だけが宙に浮かび、弾丸のようなスピードで俺から離れていった。


『ブホホッ! まさかこれほどの者が人間にいるとは思いませんでした。しかも聖剣まで使いこなすとは、確かに今の我では力が足りないようです。それは認めましょうか』


 アンデッドは顔を歪めてそう言うと、チラッと犬型ゴーレム――『精霊』の方を見た。


『しかし我の方にも収穫はありました。いずれ貴方とは再び相まみえる時が来るでしょう。その時こそ、我の力を存分に感じさせてあげましょう。フホホホッ』


 そう言葉を残して、頭部だけになったアンデッドはすうっと透明度を増し、そしてその場から消えていった。


 同時にこの空間に漂っていた邪な気配が薄らいでいった。どうやらアンデッドは完全に去ったようだ。


 戦いを見守っていたフォルシーナたちが駆けよってくる。どことなく安心した顔なのは、さきほどのアンデッドに結構なプレッシャーを受けていたからだろう。


 まああれは終盤のボスだから仕方ない。


 しかしそれがこのタイミングで出てくるのはやはり早すぎると言わざるをえない。リアル世界ゆえの違いなのだろうが、終盤ボスが前倒しで出てくるのは勘弁していただきたいものだ。まあ、チート野郎が言えることではないのだが。

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