14 地下遺跡
遺跡の中はゲーム通りダンジョン化していた。
ダンジョンといっても、目の前に広がるのは巨大な洞窟である。天井は見上げるほど高く、左右の壁も遠く、そして奥行きはどこまであるかわからないほど深い。
その広大な空間の地面には石畳の道が敷かれており、その左右には朽ちた石柱や石造りの家などが並んでいる。石柱の上には光る石が設置されていて、それが街灯のように周囲を照らしている。
その古代地下都市の廃墟とでも言うべきものを前にして、フォルシーナが感嘆の声を上げた。
「これは不思議なダンジョンですね、お父様」
「うむ。恐らくは実際に地下の町があったのだろうな」
「いったいどのような人々が暮らしていたのでしょう。書物を調べればわかるのでしょうか」
「エルフ族が知らぬとなると望みは薄いかもしれぬ」
と答えるが、ゲーム通りならこのダンジョンの最奥にいる『とある存在』を祀っていた部族が住んでいたはずである。
静寂につつまれた廃墟を石畳の道に従って進んでいくと、奥からモンスターの気配が近づいてくる。
現れたのは、泥でできた四足歩行のゴーレム5体だ。大きさは大型犬くらいあるだろうか。『マッドハウンド』というモンスターだ。
俺が何も言わずとも、アミュエリザ、ミアール、クーラリアの前衛組が前に出て、フォルシーナ、マリアンロッテ、アルファラの後衛組がその後ろに立つ。やはり万全のパーティ編成だな。
マッドハウンドはゴーレムに似合わぬ俊敏さが売りのモンスターだが、美少女パーティの動きはそれを上回る。
マリアンロッテの『ディフレクションウォール』で防御力アップをし、フォルシーナの『拡散アイスジャベリン』による先制でマッドハウンドの動きを一瞬止め、アルファラの『スパイラルアロー』が一体を貫通して止めを刺す。ここまでがほぼ一動作だ。
そこからアミュエリザたち三人がそれぞれ一体を近接スキルで倒し、再びアルファラの『スパイラルアロー』が炸裂して戦闘終了だ。
見事な連携に女公爵ヴァミリオラはうっとりしながら溜息をもらした。
「これほど色々と洗練されたパーティは見たことがないわ。美しい戦いを特等席で見られるなんて本当に幸運ね」
「ミリーはそんなことばっかり。私たちの出番がないことに少しは危機感を持たないと」
聖女オルティアナがたしなめるもヴァミリオラに効いた様子はない。
「私はそこの国王陛下が道を踏み外さないよう見張るために来ているだけだからいいのよ」
「そんな失礼なこと……っ。陛下申し訳ありません、ミリー……ヴァミリオラが失礼なことを……」
「いや、むしろそれくらいの方がありがたい。私が常に正しい道を選ぶとは限らぬ。聖女オルティアナも私が誤っていると感じたらすぐに伝えて欲しい」
「陛下……なんとご立派な……」
俺が器の大きい国王ムーブをすると、なぜかオルティアナは頬を染めて俺の手を握ってくる。いつもの距離感バグだが、そういうことをされるとヴァミリオラが睨んでくる上に、戦闘を終えたばかりのフォルシーナから冷気のこもった視線が突き刺さってくるので困る。
「ティア、ここはダンジョンよ。そのあたりにしておきなさい」
「あ……っ。陛下、申し訳ありません……っ」
と言いながらもなかなか手をはなさないオルティアナ。
それを見てアルファラが、「あの聖女は絶対国王の情婦だろう?」とかクーラリアに聞いている。
「まあご主人様だからな。オレとミアールはもう逃げられねえし、アルファラも諦めておけよ」
「ク、クーラリア……! 私はそのようなつもりは……っ」
「私が人族の情婦になどなるはずないだろう!」
「あ~まあなるならアルファラの母ちゃんが先か? 今旦那はいないんだろ?」
「クーラリア、聞きなさい……!」
「いくらクーラリアでもその言葉は許さんぞ!?」
などと剣呑かつ混沌とした会話がなされていて、イベントダンジョン探索がメチャクチャである。
「お父様、先に進まないのですか?」
と『氷の令嬢』面を醸し出してくるフォルシーナに促され、俺はようやく我に返って動き出せた。
さらに石畳の通りを歩くこと数分、次は石が組み合わさって作り上げられた人間型のゴーレム3体が現れる。名前はそのまま『ストーンゴーレム』、身長は3メートルとゴーレムとしては大きくはないが、身体が石なのでその防御力は推して知るべしだ。腕力も極めて高く、攻撃を受ければ前衛陣でもタダでは済まないだろう。
「マリアンロッテは『ホーリーエッジ』を! 私が中央、アルファラは右のゴーレムを牽制。その隙に前衛3人は左を集中攻撃!」
フォルシーナが的確な指示を飛ばし、6人がその通りに動く。ストーンゴーレムはフォルシーナの魔法『アイスパイル』、アルファラの『スパイラルアロー』の直撃を受けても耐えるが、大きく体勢を崩して動きが鈍る。
そのタイミングで前衛3人が残り一体のストーンゴーレムに突撃していき、それぞれの持つスキルを放つ。アミュエリザは貫通攻撃『破塞』、ミアールは単体強攻撃『刺突閃』クーラリアも強攻撃の『燕返し』となるが、マリアンロッテの攻撃力アップ魔法『ホーリーエッジ』の効果もあって、ストーンゴーレムの身体を易々と打ち砕いた。
同様の戦法で残り2体も余裕で対処し、すぐに戦闘は終了した。う~ん、もはや完全に主人公パーティだなこれ。
「アミュエリザもみるみるうちに頼もしくなっていくわね。アルファラが加わってさらに見た目も充実して……うふふふっ」
ヴァミリオラの目が怪しく光ったり、その口の端から垂れそうになるなにかをオルティアナがハンカチで拭き取ったりしているが、俺は見ないふりをしつつ先に進む。
実際はかなり強力なはずのゴーレム系ザコモンスターを倒しながら廃墟ダンジョンの奥に入っていくと、周囲の景色が微妙に変化してきた。通りの左右に並ぶ石柱に複雑な彫刻が入るようになり、散在する建物も家というより神殿のような大型のものになる。いかにも最奥部が近いという雰囲気だ。
マリアンロッテが周囲を見回してから、俺の横に並んでくる。
「陛下、なんとなくですが、良からぬ者の気配を感じます」
「良からぬもの? モンスターとは違うのだな?」
「モンスターに似ているのですが、不浄な感じがするのです。恐らくはアンデッドモンスター、それもかなり強力なものだと思います」
「ふむ……」
それはおかしな話である。ゲームではここはゴーレム系のモンスターしか出現しないダンジョンのはずなのだ。
「いや、まさか……」
しかしその時、記憶に引っかかるものがあることに気付いた。このダンジョンの最奥部にいる存在を考えれば、そしてあの湖のほとりでの一件を思い出せば――
「陛下、やはりアンデッドが」
俺の思考はマリアンロッテの言葉で中断された。
前方から、ローブをまとい大きな鎌を持った死神のようなスケルトンが3体現れたのだ。
しかも宙に浮いてスーッと近寄ってくる死神スケルトンの姿は半透明で、後ろの景色が透けて見える。つまり実体のない霊体系アンデッドモンスターということになる。『デススペクター』というAランクのアンデッドモンスターで、ゲームでは終盤のザコである。
「かなり強力なアンデッドモンスターだ。魔法も厄介だが、あの鎌に斬られると一撃で魂を抜かれると言われている。実体がなく盾や剣では受け止められぬから注意せよ」
ゲームでもデススペクターは『デスサイズ』という、一撃で戦闘不能にされるスキルを使ってきた。リアル世界で『一撃戦闘不能』がどういう効果になるのかは不明だが、厳重に警戒しないとならないだろう。
俺の注意を聞いて、フォルシーナが指示を出す。
「マリアンロッテは『ホーリーエッジ』の後は『パニッシュメント』を。前衛は回避主体で。私は『グランドウォール』で壁をつくるから魔法攻撃はそれで回避して。アルファラは魔法を使いそうなものを優先して攻撃を」
各自が行動を開始し、まずはマリアンロッテの『ホーリーエッジ』によって全員が光に包まれ攻撃力上昇とともに武器に『聖属性』が付与される。これで前衛組も霊体系モンスターに攻撃が通じるようになる。
同時にフォルシーナの『グランドウォール』によって前方に壁が生まれる。
デススペクターは1体が鎌を振り上げて接近、2体がその場でとどまって魔法発動の動きを見せる。
「させぬ!」
アルファラが範囲攻撃『スプレッドアロー』を放つ。無数の小さな矢が拡散して飛んでいき、後ろの2体に命中。聖属性付与の効果もあってデススペクターは大きくはじけ飛んだ。
「こっちに来いよ!」
クーラリアが『挑発』すると、接近していた一体はクーラリアに狙いを定めたようだ。
加速しながら大きな鎌を振り下ろす。が、クーラリアは『縮地』で前に出ながら回避、すれ違いざまに一太刀浴びせる。
怯んだデススペクターにアミュエリザの『三連突き』、ミアールの『刺突閃』が炸裂すると、デススペクターはヒイィィィッという気味の悪い叫び声とともに消滅した。
「相手がアンデッドなら負けません。『パニッシュメント』!」
マリアンロッテがさらに光属性魔法を発動。一体のデススペクターが光の柱に包まれる。
『パニッシュメント』はアンデッド一体を完全消滅させる、もしくは大ダメージを与える魔法だが、デススペクターは光の中を昇っていくように掻き消えていった。どうやら完全消滅したらしい。
残り一体のデススペクターが遠くで鎌を振り下ろした。それは魔法発動のモーションであり、デススペクターの前面から黒いバレーボール大の球が数発射出される。状態異常を引き起こす厄介な闇魔法『ダークボール』だが、フォルシーナが作り出した岩の壁の表面を削るだけにとどまった。
「『アイスパイル』!」
「『スパイラルアロー』!」
代わりにフォルシーナが放った氷の杭に頭を砕かれ、アルファラの風属性の矢に胸を貫かれ、やはり悲鳴をあげて消えていった。
フォルシーナたちが強力なアンデッド相手でも問題にしないのは頼もしい。
しかしこのイレギュラー、面倒なことにならなければいいのだが。




