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100年後の賢者たち(旧題・賢者の遺伝書録)  作者: 松浦
失われた書と守護の国

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王族の驕り


 ユグドラシル協会を出ると、待ち構えていたアルドリックの従者に捕まった。待っている間に馬車まで用意していたようで、その用意周到さにティウ達は呆れずにはいられない。


「アルドリック様がお待ちです。こちらの馬車をお使い下さい」


 ティウとジルヴァラはお互いの顔を見合わせた。

 ティウ達の背後では、ギルドの重鎮たちが頭を下げて見送っていて、目の前では王家の紋章を付けた馬車が止まっていて従者が出迎えている。


「……逃げられないね」


「クソ共が」


 変な注目を浴びていたティウ達は観念して馬車に乗り込んだ。

 ティウ達はお互い隣同士で座り、従者が向かいに座ると、馬車が動き出す。


 ジルヴァラはアルドリックの従者にもギリギリと殺気を飛ばしていたが、ティウがお疲れ様とジルヴァラの頭を撫でるとジルヴァラの耳と尻尾がピンッと立つ。


 無言の居心地の悪い空間の中、ティウの機転でジルヴァラの機嫌が少しだけ浮上してしばらく馬車に揺られていると、アルドリックに指定されたレストランへと着いた。

 昨日と同じ場所で落ち合うと、アルドリックが嬉しそうに声をかけてきた。


「そういえば気になっていたんだが、ティウはどんな本を買ったんだい?」


 到着して席に着くなり、そんな風に切り出された。それに渋々答える。


「料理の本……です」


「昨日のように気軽に話してくれて良いんだよ。私は君達と仲良くなりたいんだ」


「……」


 ちらっと横に座っているジルヴァラを見ると、心底嫌そうな顔をしたジルヴァラがいた。


「お兄さんには嫌われてしまったようだけどね」


「あんたがしつこいからだろう」


「そんな事はないよ」


「え、あの……」


 どう返していいかも分からず、オロオロしてしまう。言葉の端々に逃げ道を塞ぐような言葉を投げかけてくる態度は、昨日と一変していてどうしていいか分からなくなった。


「料理の本ということは、ティウは料理に興味があるのかい?」


「……ミズガルの料理が美味しかったから、試しに作ってみようかなって」


「それは嬉しいな! そうだ、本が好きならうちの書庫に来るかい?」


「えっ」


 思わずパッと目を輝かせて顔を上げたティウの態度に、ジルヴァラがうなり声を上げ、ティウの耳はしゅんとしょげてしまった。


「過保護は分かるが、少し心が狭いんじゃないか?」


「何だと?」


「ティウがこんなに喜んでいるのだから、単に良い機会だと受け取ればいい」


「あんた達は見返りが欲しいだけだろ!」


 ジルヴァラがテーブルをバンッと叩いた。先に並べられていた食器がガチャンと嫌な音を立てる。


「もう少し静かにしれくれないか? 食べる前に追い出されてしまう」


 ジルヴァラの態度に嫌な顔を一つせず、冗談っぽく口元に人差し指を当てて、シーッと促した。


「バカにしているのか……!」


「ジルお兄ちゃん、落ちついて!」


「ティウ!」


「あのね、多分だけど……ジルお兄ちゃん、ちょっと勘違いしてると思うの」


「……何?」


 ティウがちらりとアルドリックを見ると、器用に肩眉だけ「おや?」と言わんばかりにぴくりと動かしている。

 迷っていたけれど、すれ違いがある気がしてティウは言う事にした。


「アルドリックさんは、結界の修復なんて賢者様しか出来ないって言ってたじゃない」


「そうだね」


 肯定の返事をするアルドリックだったが、どこか困惑を隠せない表情が微かに見える。


「それなら、協力なんていらないでしょう? 少しずつ壊れていくのが分かっているんだから、いつかは消えてしまうだろうって、見れば分かる事だもの」


「…………」


「多分なんだけど……アルドリックさんは消えてしまう結界の、その後を考えているんだと思うの」


 ティウの言葉を聞いたアルドリックは驚きで目を見開いていた。ジルヴァラは意味が分からなかったらしく、首を傾げている。


「みんな、これからもずっと結界があるって思ってるんだよ。生まれた時からずっとそれは変わらないのに、急に消えちゃったら? 今まで守ってくれていた結界が無くなれば、アルドリックさん達王族は……その……」


「…………」


 ここから先は言いづらい。ギルドでジルヴァラを待っている間、店にあった本に目を通していたティウは、このミズガルの王族が結界があることをいいことに好き勝手しているのを知ってしまった。



 ジルヴァラも言っていたが、王族は結界に守られた貴族島を聖域だと言い、さらに自分達こそが神に選ばれし者だと宣言していたのだ。


 あの本の著者は他国の人間だった。過去にミズガルの王が何をしてきたのか面白おかしく書かれていたあの本には、『守護の賢者に見放されて結界が消えた時こそ、ミズガル国の終焉だろう』という言葉で締めくくられていた。

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