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100年後の賢者たち(旧題・賢者の遺伝書録)  作者: 松浦
失われた書と守護の国

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ノアの用事


「ティウは本が好きなのかい?」


 活字が普及しだしたとはいえ、本というものは今も昔も贅沢品に変わりがないのだろう。


「し、調べたい事があって……」


 ティウが言い淀んでいると、ジルヴァラが「やめろ」と間に入ってくれた。


「しつこいぞ!」


「私はティウと話がしたいだけなんだ。もちろん、君ともね」


「話す事など何もない! そっちの事情に俺達を巻き込むな!」


「どうして話すら駄目なんだい? ……それとも、何か隠しているのかな?」


 急に低い声になったアルドリックの態度に、ティウはビクリと身を縮ませる。

 このままではいけないことも分かっている。王族を相手にここまで頑なに断るなら、それなりの理由が必要だろう。

 背後に昨日見た従者達が控えているのが見えたが、彼等の手が剣の柄に伸びているのが分かって一触即発な状況だと分かった。


「あの、場所変えよう?」


 ジルの服の裾を後ろから摘まみ、つんつんと引っ張る。気付けば言い争いの声を聞いて人が集まって来ていた。


「うん。それは名案だ。ありがとう、ティウ」


 そう言って嬉しそうに笑うアルドリックに溜息が隠せない。


(ティウ!)


 ジルヴァラに咎められるが、困っているのはティウも同じだ。


(アルドリックさんは王族でしょう? 強引な手段を取られない内に説得するかどこかで巻いて逃げるしかないよ)


(しかし……!)


 こそこそ話していると、アルドリックが「昨日のレストラン良いかい?」と聞いてきた。

 ジルヴァラに目配せをして、ティウは困った顔をした。


「あ……ご飯はもう食べちゃったんです」


「大丈夫。話すだけでも問題ないよ」


「えっと……この後、人と会う予定があって……」


「おや、確かにそれは困ったね。その後はどうだい?」


 これはまずい。絶対に譲らないと言われているのと同じだ。

 あきらめの悪いアルドリックに、ティウも嫌そうな顔が隠せなくなってきた。


「……ジルお兄ちゃん、先に用事済ませちゃおう?」


「…………」


 忌々しげにジルヴァラが舌打ちをして、アルドリックを睨んだまま頷いた。

 その態度だけでこちらが訳ありだと説明しているようなものなのだが、こうなったらアルドリックから何を要求されても、きちんと話を聞いてから断った方がいいと判断した。


(なんでこんなに諦めてくれないんだろう……?)


 アルドリックの態度に焦りがあるならまだ納得もできただろうが、本人は悠々と構えているので不信感が拭えない。


「お仕事のお話だから、ちょっと長くなっちゃうかも……? どの位で終わるか分からないんですけど、二時間後ぐらいに待ち合わせでもいいですか?」


「ああ、構わないよ。」


 ようやく話を付け、その場で解散となる。だが、そのままアルドリックの従者がティウ達の後ろを付けていることに気付いていた。


「本当にしつこいな!」


 ガルルルと殺気が漏れ出るジルヴァラに、ティウも「本当だね……」とため息をこぼした。

 ジルヴァラの予言通り、アルドリックはとてもしつこいらしい。




          *




 商業ギルドのユグドラシル協会は、身分証明書が無ければ入れない仕組みになっている。

 当然、アルドリックの従者は入ることが許されず、協会の入り口で待たされる羽目になっていた。ティウ達はホッとする。


(中まで入ってこられたらどうしようかと思っちゃった……)


 ティウ自身も身分証があるわけではないが、ジルヴァラが前もって宿の申請と一緒にティウをギルドに登録していたので問題なく入れているようだ。


 案内人と責任者に出迎えられ、こちらへどうぞと豪華な客室へと通された。

 責任者にノアの荷物を渡すだけだと聞いていたティウだったが、諸々の手続きがかかると言われていたので何もすることがない。


 しかし渡す物が物なだけに、ギルド長を始めとする重鎮がずらりと勢揃いしてティウを驚かせた。

 ティウは部屋の隅で、特別に椅子を用意してもらってジルヴァラ達の話し合いが終わるのを待つ。


 ギルドの重鎮達が獣人の子供だと興味津々にティウをチラチラと見ていたが、ジルヴァラの殺気が彼らを黙らせた。


「見るな、減る」


「は、はいいいい!」


 目の前のジルヴァラは言うなればノア代理だ。ここでジルヴァラの機嫌を損ね、次は無いと言えばそこでノアとやり取りが出来なくなってしまうから、かなり慎重なのだろう。


 そんなことになれば自分の首だけでは済まない事が分かっているのか、場はかなりの緊張感に包まれていた。


「で、ではこちらの品は間違いなく受け取りました」


「受け取りの魔法証書にサインを」


「はい! それで、次のご依頼なのですが……」


「無理だな。今別の仕事を抱えているから四年後だ」


「そ、そんなに……⁉」


「ノアのじーさんの魔道具を待っているのはお前達だけではない」


「そこを何とか!」


「……くどい」


「ヒィ!」


 なんてやり取りを先ほどからずっと続けている。


(居心地、悪すぎるよぉ……)


 なんだかんだギルド長達は粘りに粘って、結局ジルヴァラが根負けし、とりあえず半年後にまた話を聞く事になっていたのでティウは苦笑した。


 きっと一人ではジルヴァラに負けるから、仲間をいっぱい引き連れてギルド長の後ろに集めていたのだろう。


(なんだか気の毒に思っちゃったけど、じーちゃんが大変になっちゃうから仕方ないよね)


 初ギルドの光景は、苦笑で終わるのだった。

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