4章幕間6 魔核の意思
???
正直ここまでとは思っていなかった。
最初に目を付けた時から高い適性を持っていると踏んでいたのだが彼はその予想を大幅に超えていたのだ。
「おいおい壮観だなこりゃあ、一体何匹いるんだよ?」
目の前には魔物の大群、その数は千を超えているのではないだろうか? それがレオンリバーの街とミルス村を繋ぐ街道の東、レオンリバー支流の近辺に集まっていた。
魔核が無く無尽蔵に増やせる訳でもないのにこれだけの数、これらを生み出したのは全てこの男なのだ。
やっとあの目標を始末出来るのだな…。
これだけの数が居れば間違いなくあの男を殺す事が出来るだろう。
我らの悲願に支障が来す可能性のあるあの男…あいつだけはここで確実に仕留めねばならない。
ハイエルフの小娘に本流を握られた間抜けな意思もいたが我はそんなに迂闊ではない。
あの村での出来事、そしてこの街で相手をしっかりと見極めもっとも可能性が高いだろう人物を取り込んだのだ。
…いや、そもそもあの意思は出来損ないのようだな。
あの男を始末するという目的は継いでいるがそれだけだ、我らの悲願とも言える目的を継ぐことが出来ていないように思える。
これもあんな形で魔核を消された弊害だろうか…まあ致し方あるまい。
その分この男が予想を超える結果を生み出しているで問題ない。
すぐにでもこの大群をあの男の所に、
「あ? 何アホな事言ってんだ?」
………。
「せっかくここまで祭りの準備をしたんだぜ? なんでその主賓を先に殺るんだよ?馬鹿じゃねーか?」
しかし予想を超え過ぎた部分もあった。
我等は取り込んだ者を意のままに操る事が可能だ。
知性を持つ生命体では耐えられない悪意、対象が悪人であろうとそれに晒された者は皆発狂し意思を封じられた操り人形のような存在にする事が出来る…はずだったのだが…。
…この男、我に完全に取り込まれたはずなのにその意思をコントロールする事が出来なかった。
唯一ララを殺すという部分だけは根付いているようなのだがこちらの意思に反する行動を平気でとるのだ。
おそらく悪意に対する適正が異常なまでに高いのだろう。
どれ程の悪意に晒されようとそれを平然と受け入れてしまい、発狂するどころか楽しそうな感情すら出していた。
正直こんな人間が存在するとは思わなかった。
100年、いや1000年に1人いるかどうかというレベルの適性、それを寿命も短く生来善悪を持たないはずの人間が有しているのだ。
まあ良い…驚くべき事ではあるが所詮は寿命の短い種族の考える事だ。
目的さえ達成出来れば我もまた魔核の意思に統合される、多少の遅れは見逃してやっても問題はあるまい。
「しっかし前のあれはひでぇよな、せっかく俺が面白いおもちゃを用意してやったのにルールを無視しやがるんだから」
前のあれ…ああ、あの爆発物の事か。
確かに予想外ではあったがあやつは魔核の解体すら簡単にこなしていたのだ、あの程度の兵器を解体したところで大して驚くような事ではない。
…それよりも私はこの男の行動の方に気になる点があった。
「は? なんで解除出来るように作ったかだって? くだんねーこと聞くなよ。
これはゲームなんだぜ? 勝ちが確定したゲームの何が楽しいんだよ?」
やはりこの男に任せるのは不安が残る。
幸いこの男の働きもあって魔力は潤沢だ、隙を見てあの男を攻撃するくらいわけな…
「おい、何かつまんねー事考えてねーだろうな? あいつは俺がやるんだからてめーは手をだすんじゃねえ!
…要は最終的に殺れりゃいいんだろ♪ 焦るなって。
次が祭りの本番なんだ、さいっこーに盛り上がるシチュエーションで殺ってやるからお前も楽しにしてろや」
……しばらくは様子を見るしかあるまい。
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???
〈まだ拗ねておるのか?〉
「別に拗ねてなんてないわよ!」
〈…大きな声を出すな、周りやつらが変に思うじゃろうが〉
ほとんど毎日通っている事ですっかり馴染んでしまった露店街。
娘は今日もいつも通りの食事をとっているのじゃが…先日あの男を見かけた時からずっとこんな調子なのじゃ。
まあ原因は考えるまでもないじゃろう。
執心している男が別の女と楽しそうにしているのを見てしまっただけ、要は嫉妬じゃ。
しかし、子供過ぎるこの娘にはまだ理解しづらい感情なのかもしれぬが出来ればあまり感情を高ぶらせないで欲しい。
なぜなら本体の一部を同化させているいまこの娘の感情が高ぶるとそれが我の方にまで流れて来てしまうからじゃ。
…なんとも不可思議な感覚じゃ。
正と負が混じり合ったような感情で魔力の源にはなるのじゃが…なんと言ったらいいのじゃろう?
あの小僧の事が今までよりもさらに憎らしく思えてくるような…。
いかんな、このような感情に引っ張られるようでは目的の達成に支障が出よう。
最近どういうわけか魔力の回復速度が落ちて来ておるし無駄な行動は控えなければ。
「拗ねてなんて…ただなんかもやもやして…ララの事が気になって…なんで会いに来てくれないのかなって…」
だからそれを拗ねておると言うのじゃが。
「ねえまーちゃん。 私、ララに嫌われちゃったのかな?」
〈…やはりその名で呼ぶのか〉
奇妙な名で呼ばれる事は少々気になるが…あの男がこの娘に悪感情を持っているかどうかという話か。
…まあそれは無いであろうな。
そんな感情を持っておったらあの男からも魔力を吸収出来るだろうしそもそも足しげく通ったりもせぬじゃろう。
じゃが馬鹿正直にそう教えてやる必要もあるまい、こちらとしては娘と男には敵対して貰った方が都合が良いのじゃから。
それにこの娘を絶望させてやればもしかしたら主導権を握れるやもしれぬしな。
〈……いや、むしろ好いておるように見えるがの〉
えっ…なぜじゃ…?
「そ、そうなの?」
〈見ていれば分かろう? お主があの男にとって大切な存在だからこそああも足しげく通っておるのじゃから〉
なぜ我はこんな事を言っておるのじゃ…?
〈ここ最近顔を見せぬのはあの騒ぎが原因じゃろうな。 無事ではあるが現場に居た様じゃしの〉
「そ、そうよね! こんなに可愛い私の事を嫌いになれる訳がないわよね!」
〈…だから大きな声を出すなと言うのに〉
我は…いったい…?
まだまだ感情をうまく制御出来ぬ娘は小さな出来事にもすぐに動揺してしまう。
大人になれば落ち着くのだろうがそれは数百年は先の話、我も標的を処分したら魔核の意思に統合されるのでそれを見る事はないのであろうが…。
…その感情が我にも影響しているのだろうか? 生き物の感情など我等にとっては魔力の供給源でしかないのに…。
自らの行動に戸惑いを感じ、そんな考えを持ってしまう事にさらに戸惑う。
あの男の殺すという目的意識は消えていないしそのためにこうして魔力を蓄えているのだ…それは間違いない事のはずだ。
なのにこの娘、ルプラを見ていると分からなくなってしまう。
我の言葉を聞いて嬉しそうにしている彼女を見ていると…悪くないな、と、そんな感情を抱いてしまうのだった。
これで4章は全て終了です。
次回、5章の開始は1月24日となります。




